表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/35

第14話 やさしさの牢獄を越えて

 ──意識が戻った瞬間、空気が変わっていた。


 濃霧は晴れ、紫の魔力も消えていた。


 ルークたちは、先ほどまで立っていた広間に戻っていたが──そこには、見慣れぬものがあった。


「……っ」


 ジークが思わず声を呑む。


 そこには、壁際に寄りかかるようにして転がる──乾ききった白骨死体が三体。


 衣服の名残から察するに、冒険者だったのだろう。

 それぞれの手には、古びた武器や冒険者用のバッグが握られたまま。


「幻影から……戻れなかったんだな。ずっと……あの安らぎの中に」


 ルークが膝をつき、頭を垂れる。


「何も感じず、何も苦しまず──静かに餓死したってことか」


 ジークが言う。どこか、自嘲のように。


 だが。


「そもそも、あんたが褒められた瞬間に罠にかからなきゃ、こんなことにならなかったんだけど」


 クラリスの鋭い一言が飛んだ。


「うっ……それは……ごめん……!」


 ジークがしょんぼりと肩を落とした。


 そしてふと、何かを思い出したように振り向く。


「なあ、クラリス。さっきの……膝枕の件だけどさ。

 あれ、マジだった? それとも冗談だった……?」


 クラリスは一瞬固まり、そしてふいっと視線を逸らした。


「……冗談に決まってるでしょ。

 あんたなんかに本気になるわけ……ないし……」


 ジークが目に見えて落ち込む。肩が更に落ち、背中まで丸まっていく。


「……でも、たまにはいいわよ。特別に、今度だけ……」


「……え?」


「ただし、汗臭いまま近寄ったら蹴飛ばすからね!」


 顔を真っ赤にして叫んだクラリスがくるっと背を向けると、ジークは静かに拳を握った。


「……生きててよかった……」


 一方その頃。


 フィオナは、魔力の干渉から戻ったばかりの頭でまだふらふらと歩いていた。

 そんな彼女の肩に、ふわりと温かい手が添えられた。


「……よく、頑張ってるわね。フィオナ」


 ミレイアだった。


「えっ……?」


「この旅の間、ずっと見てたわ。あなた、いつも本を開いて勉強してる。魔法の知識も鍛錬も、コツコツと」


 ミレイアは優しく微笑む。


「……その努力、いつかきっと報われるわ。ルーク様は、そういう人。ちゃんと見てるもの」


「……っ」


 フィオナの目に、熱いものが込み上げる。


「私……いつか、あの人に“頼られる人”になりたいです」


「なるわ。あなたなら」


 ミレイアはそっとフィオナの頭を撫でた。

 指先は少しだけぎこちなく、それでも、確かな温もりを宿していた。


 ルークは、仲間たちの様子を見守りながら、静かに目を閉じた。


 グレイアの迷宮は、“戦い”ではなく“心の隙”を突いてくる。

 しかし彼らは、それを超えた。


(……行こう。この先に、必ず“本物”が待っている)

この作品が面白い、続きが読みたいと思ったらブクマ・評価・リアクション・感想などよろしくお願いします。


続きを書くための励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ