4.甦る記憶
学術会議の翌日。王宮のホールでは出席者の交流をはかるための晩餐会が開かれていた。
晩餐会のホールには、豊かな音楽と香ばしい肉料理の香りが漂っていた。水晶のシャンデリアの光は煌びやかだが、テーブルごとに置かれた燭台の蝋燭の火は、それぞれ独自の揺らぎを見せていた。
晩餐会の喧騒の中、レオンはひとり、グラスを持ったまま蝋燭の炎を見つめていた。
(……揺れてる……)
炎の芯が、まるで誰かの瞳のように脈打つ。次の瞬間、鋭い痛みが頭を貫いた。
「っ……!」
額を押さえた瞬間、視界が急にぶれる。強く頭を締めつけるような痛み――それはまるで、封じられていた記憶が扉をこじ開けようとする音だった。
脳の奥に火花が散る。目の裏が焼けるように熱く、そして冷たい。
――灰色の煙。
――赤黒い血だまり。
――手を伸ばす誰かの腕。
――「生きろ、レオン、スワニルダ家の誇りはお前が守れ」
(これは……)
「...スワニルダ家の…誇り....父上...?」
呻くようにこぼれた言葉とともに、痛みがさらに強くなる。まるで槍のように、記憶が脳髄を突き破る。
「逃げて...!レオン...!」
母の声。
火の手の回る廊下。
泣き声と、刃の擦れる音。
暗闇の中、揺れる灯火に照らされた血の跡。
自分の手が、震えていた。
(やめろ……思い出したく、ない……っ!)
「っ……あ、ああっ……」
次の瞬間、レオンの身体が傾ぎ、ガシャンと食器が床に散らばる。
「レオン!」
ユリウスが即座に抱き止めた。レオンは目を見開いたまま、わずかに痙攣し、肩を震わせていた。
「誰か、医師を呼べ!」
出席者たちがざわめき立つ中、ユリウスはレオンの額に手を当て、その異様な冷たさに歯を食いしばる。
「……レオン、戻ってこい。大丈夫だ、俺がいる」
レオンの唇がわずかに動いた。
「……はは…うえ……」
それが誰の名を呼んでいるのかを、ユリウスだけが理解していた。