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モリアーティ教授の手帖

不可解な死の二重性

作者: アヤ鷹

『二つの死』





この世には”完璧な犯罪”など存在しない。

だが——“不可解な犯罪”は、完全犯罪に等しい。



今夜、二人の男が死ぬ。


一人はロンドンの裏路地で。


もう一人は邸宅の密室で。




二つの死。


まったく異なる状況。



だが、奇妙なことに——二人は同時に死ぬのだ。




この不可解な現象が、ホームズの推理を揺さぶることになる。



“殺人者は一人”でありながら、“同時に二つの死を引き起こす”という矛盾。




さあ、ホームズ。

この”二重性”を解き明かせるか?







『矛盾する証言』




「……ワトソン、もう一度確認してくれ。」



私は事件の報告書を読み返した。

二人の男が、全く異なる場所で、“同時に”死亡している。



「ロンドン橋の下で男が刺殺されたのが午後9時17分。」




ワトソンが頷く。




「一方、メイフェアの邸宅で発見された死体も、検死の結果、死亡時刻は午後9時17分。」




「ありえん。」


ワトソンが不審そうに眉をひそめる。




「でも、どちらの死体も間違いなくその時間に絶命している。」


私は新聞の記事をめくり、ある一文を見つけた。



『二人の男は双子だった』



なるほど——そういうことか。


しかし、“双子”だからといって”同時に死ぬ”理由にはならない。



不可解な死の二重性——



この矛盾こそが、モリアーティの仕掛けた罠だ。








『影の策略』





ホームズはもう気づいただろうか?



双子の兄弟。

同じDNA、同じ容姿。

そして、同じ死。



だが、この”二重の死”は単なる偶然ではない。



ひとりは”本当に”殺された。

もうひとりは、すでに死んでいた。



“片方は殺害され、もう片方はそれを隠すために利用された”。



死体が二つあれば、殺害時刻に矛盾が生じる。


“同時に死んだ”という証言が生まれ、殺人者の存在は曖昧になる。



警察は混乱し、ホームズは矛盾に苦しむ。

それこそが、このトリックの狙いだ。








『一秒の違和感」




ある一点で、私はすでに疑っていた。



──死体の状態だ。




ロウソクの燃え残り、紅茶の温度、そしてドレッサーに残った香水の揮発具合。

被害者AとB、ふたりとも、検死では「9時17分死亡」と記されたが……


私にはどうしても、邸宅の遺体のほうが、**“早く冷えていた”**ように思えたのだ。


ワトソンには言わなかった。言葉にしてしまえば、私自身がその“直感”に呑まれる危険があるとわかっていたからだ。



それに、あの告白文も気がかりだった。



「私が2人を殺しました。なぜなら、彼らは……」と続く手紙。



すべてが理に適っている。だからこそ、逆に美しすぎた。



あの自白こそが最初から仕組まれたトリックだとしたら?



そしてもし、被害者は同時に二人いたのではなく――


ひとりは“同時に死んだことになっていた”だけだとしたら?




私は、再度、検死官に非公式で確認を取った。

「被害者Aの胃の内容物と温度、記録と矛盾していないか?」



そして返ってきた答えは、やはり「奇妙なほど胃が冷えていた」だった。



その瞬間、私はすべてを理解した。





ワトソンが不思議そうに尋ねる。


「ホームズ、何か気づいたのか?」




「一つ、決定的な矛盾がある。」


私は死体の手に残る血痕を指差した。



「ロンドン橋の被害者は刺殺された直後に死亡した。」




「それは検死報告にも書かれているな。」




「だが——メイフェアの邸宅で発見された遺体には、“死亡後”に動かされた形跡がある。」



ワトソンの顔色が変わる。


「つまり……」




私は頷いた。


「二人は同時に死んだのではない。」



「一人は、すでに死んでいたんだ。」









『舞台の裏側』


ホームズが気づくか、否か。それだけが賭けだった。


だが、私は信じていた。彼が“最も合理的な違和感”にたどり着くことを。

そして、それこそが私の真の愉しみだった。



――死は演出できる。タイミングと“検死の限界”さえ読み切れば



私は微笑んだ。


「さすがだな、ホームズ。」


「私の仕掛けた”二重の死”のトリックを暴くとは。」




ホームズは静かにこちらを見つめる。


「影の策略には、必ず光が射すものだ。」




私は肩をすくめた。


「だが、“不可解な犯罪”は人々の記憶に長く残る。

それこそが、私の狙いだったのさ。」




ホームズが推理を解いたとしても、世間の噂は止まらない。



“双子の兄弟が同時に死んだ奇妙な事件”——



その怪奇さは、モリアーティの名をさらに広めることになる。




「さて、ホームズ。」


私は立ち上がる。



「今回は”引き分け”としよう。」


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― 新着の感想 ―
なぜ犯人は一人前提で推理が始まったのですか?犯人が自首して、私が二人を殺しました。と言ってきたのですか?そのせいで、本当に一人で二つの場所で同時刻に殺害なんてできるのか?となったってことですか? 検…
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