コーヒーカップシンドローム
「生きるのって難くない?」
彼女は言った
「そうかもね」
大雑把過ぎる問いに、どう答えていいか分からず、同意のようなそうでないような、曖昧な言葉で答えた。
しかし恐らく、ここで丁寧に答えようが、僕がこのあと彼女に刺され死ぬ、という運命には違いはなかったのであろう。
それから、永遠にも近いような、一瞬でもあるような時間が過ぎた、気がする。
「…おい、アンタ」
「…?」
「こんな辺境で何してる?」
「…え」
横になった身体を起こそうとすると、妙な違和感に襲われた。
「…軽い」
辺りを見渡すと、そこは見覚えの無い海岸だった。
「俺と同じ目的だとすりゃ、もう少し準備が必要だろ」
旅人と思わしき男は言った。
「不自然に聞こえるかもしれないが、俺は自分がなぜここに居るのか分からない」
「いや、不自然な事なんかじゃないぜ、よくあることだ」
岩や海がそこにあるように、と男は付け加えた。
「どういうことだ」
「場所を変えようぜ、コーヒーが飲みたい」
男についていくと、30分程歩いた先にレンガ造りの建物が立ち並ぶ街があった。
案内されて、入った店は、木造づくりのカフェだった。天井からは蔦が伸びており、所々に古さを感じるが、掃除は行き届いており、温かな雰囲気を纏っていた。
慣れた手つきで、注文を済ませた男は、ミルクと砂糖をこれでもかと、コーヒーに入れ、ぐるぐるとかき混ぜている。
「半年くらい前からかな、お前みたいなやつによく会うようになった」
男は寄り道することなく、本題に入る。
「そいつらに共通することは二つ、一つは自分がいつから、なぜここにいるか分からないこと。そして二つ目は」
「別人の記憶を持っていることだ」
そこでふと、コーヒーに写った、自分の顔に目がいった。
「……誰だ?」




