~番外編~ 遥かな中庭で ( オーレン視点 )
一時間前に友達になったばかりの女の子はよく食べる。
ケーキにクッキーにフルーツに。その小さい身体のどこに消えていくんだろう。
僕が呆気に取られている内に、すっかり皿を空にする。ジュースをごくんと一口飲むと、今度は僕の皿をじっと見てくる。
「レンは食べないの?」
「なんか……シェリナが食べるの見ていたら、お腹が一杯になってきた」
「……残しちゃうの?」
「よかったら……食べる?」
大きな黒い瞳が、ぱあっと輝く。
「うん!」
フォークでケーキを掬って小さな口に入れてやると、頬っぺたを押さえ、「うーん」と言いながらもぐもぐ動かす。
……面白い。
今度はわざとさっきより多めに掬ってみるも、吸い込まれるように消えていく。
瞬く間に二人分のおやつが、シェリナの中に消えていった。
「すごく美味しかったあ。ご馳走さまでした」
にこにこ笑いながら手を合わせる。
自分のお腹は空っぽなのに、何故かすごく満たされた気がしていた。
それから毎週金曜日のおやつの時間は、いつもより多めに用意して、シェリナが食べるのを見ながら自分は一口だけ食べて待つ。そうしてシェリナの分がなくなると、同じように自分の皿から食べさせてみる。それが楽しかった。
◇
「レンももうちょっと食べなきゃ駄目!」
少し大きくなると、何故かシェリナは怒って僕の口におやつを放り込んでくるようになった。
「ちゃんと食べないと大きくなれないんだからね」
「僕、結構背が高い方だと思うんだけど。牛乳沢山飲んでるし」
シェリナの動きがピタリと止まる。
「牛乳飲むと……大きくなるの?」
「分からないけど……僕は好きだよ」
シェリナはその日、何故かしゅんとした顔で帰って言った。
それから次の金曜日になってもシェリナは来なくて。
約束の日に来ないなんて初めてだったから、心配で心配で……気が気じゃないってこういうことを言うんだろうな。
また次の金曜日、シェリナは元気のない顔で、中庭にひょこっと顔を出した。
「シェリナ! 先週はどうしたの? 心配したんだよ」
「牛乳を……飲み過ぎて具合悪くなっちゃったの。大嫌いなのに、頑張って毎日飲んだのに、全然大きくならないの」
シェリナは突然大粒の涙を溢し始めた。
「……なんでそんなに大きくなりたいの?」
「だって……レンの頭をよしよししてあげられるじゃない」
「えっ……」
「だって、背伸びしても、もう全然届かないんだもん」
真剣な顔でそんなことを言うから、思わずぷっと笑ってしまう。
「こうすればいいんじゃない?」
シェリナの前にすっと跪くと、小さな手が頭にそろそろと伸びてきた。
「届いた……!」
嬉しそうな声が響く。
「じゃあレンが元気がない時はこうしてくれる? 私、よしよししてあげるから」
「うん」
「はあ良かった~これで牛乳飲まなくて済む!」
シェリナは機嫌を取り戻し、ふんふんと花の中を歩きながらすぐに別の話題へ移る。
「ねえレン、来週のお誕生日会楽しみにしていてね。美味しいチーズケーキ作って待っているから」
くるりと振り向いた笑顔は、この庭のどんな花よりも鮮やかだった。
◇◇◇
シェリナの鼻にそっと指をかざすと、すうすうと規則正しい寝息を感じほっとする。
こんなに華奢で……睡魔が襲ってくれて本当に良かった。
怪我している足に乗らないように、体勢を変える。
小さな口が少しはにかみながらもぐもぐと動いている。
ふっ……夢の中でも食べているのか?
指で軽く唇をつまんで見ると、更にもぐもぐと動かす。
「可愛いな……」
顔を近付け、起こさないように優しく唇を味わう。
ふと視線を落とした白い首には、エメラルドのネックレスが妖しく輝いている。
どくりと……
また、強い恐怖が押し寄せ、覆い隠すように毛布ごと抱き締めた。




