~番外編~ 穏やかな中庭で ( シェリナ視点 )
……ルイス様は何を読んでいらっしゃるのかしら。
中庭の椅子で長い足を組み、優雅に読書をする私の婚約者を覗き見る。
ええと……
『指導者の為の魔術と国政の在り方』
思わず自分の本に目を落とす。
宮殿の広大な図書室で、私が手にした本はこれだった。
『不器用姫が王子の心を結ぶまで』
恥ずかし過ぎる……
本の表紙をそっと手で隠した。
が、そんな気持ちはどこへやら。美しくスリリングな物語に、忽ち意識が吸い込まれていく。
お姫様が王子様の心を溶かし、今まさに唇が触れようとしていたその時────
「シェリナ、何を読んでいるの?」
なっ……なんでこのタイミングで……!
顔に熱が集まっていくのが自分でも分かる。
「……小説です」
「……ふうん。どんな話?」
もう……何でこんなに細かく訊いてくるの?
本の内容を説明する内に、どんどん恥ずかしくなり俯いてしまう。
こんな幼稚な本、呆れられているに違いない。
ふと顔を上げるとそこには……
「えっ…………えええ!!!」
ルイス様と私の間には、イメージ通りの綺麗なお姫様と、可愛い妖精達が舞っていた。
これも全部氷の魔力で……!?
「……すごい」
でも……でも、まだ足りない。
私は急いで本をめくり、無我夢中で王子様の特徴を伝える。
「こんな?」
期待を込めて見上げた王子様は……あれ?
素敵だけど何か違う。だって……
「ルイス様がお姫様の隣に立ってみてください」
「……こう?」
「そうです! それで、お姫様と見つめ合ってください」
……ほら! なんて美しいの。
まるで二人? とも本から抜け出したみたい。
「幾らルイス様が創られたものでも、やはり本物の皇子様には敵いません! ルイス様の方が百億倍素敵です!」
「…………」
「…………」
ルイス様の顔が固まった。
私……何言ってるの?
「ごめんなさい……」
本を頭に被ると、草の上に顔を擦りつけた。
ルイス様の貴重な魔力を使って、偉そうにくだらないことをあれこれ指示して……
はあ、私も氷の王子みたいに、溶けて消えたい。
静かになったので、草まみれの顔を恐る恐る上げてみる。
氷のお姫様と妖精達はいつの間にか消え、ルイス様は何事もなかったように再び難しい本に戻っていた。
本でお顔は見えないけれど……
少しお耳が赤いのは気のせいかしら。
────これもまだ穏やかな中庭の、もうひとつのお話。




