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この世で一番悲しい日 ~二人の皇子と許嫁~  作者: 木山花名美
水色の瞳

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22/69

~番外編~ 穏やかな中庭で ( シェリナ視点 )

 

 ……ルイス様は何を読んでいらっしゃるのかしら。


 中庭の椅子で長い足を組み、優雅に読書をする私の婚約者を覗き見る。


 ええと……

『指導者の為の魔術と国政の在り方』


 思わず自分の本に目を落とす。

 宮殿の広大な図書室で、私が手にした本はこれだった。


『不器用姫が王子の心を結ぶまで』


 恥ずかし過ぎる……

 本の表紙をそっと手で隠した。


 が、そんな気持ちはどこへやら。美しくスリリングな物語に、忽ち意識が吸い込まれていく。

 お姫様が王子様の心を溶かし、今まさに唇が触れようとしていたその時────


「シェリナ、何を読んでいるの?」


 なっ……なんでこのタイミングで……!

 顔に熱が集まっていくのが自分でも分かる。


「……小説です」

「……ふうん。どんな話?」


 もう……何でこんなに細かく訊いてくるの?

 本の内容を説明する内に、どんどん恥ずかしくなり俯いてしまう。

 こんな幼稚な本、呆れられているに違いない。


 ふと顔を上げるとそこには……


「えっ…………えええ!!!」


 ルイス様と私の間には、イメージ通りの綺麗なお姫様と、可愛い妖精達が舞っていた。

 これも全部氷の魔力で……!?


「……すごい」


 でも……でも、まだ足りない。

 私は急いで本をめくり、無我夢中で王子様の特徴を伝える。


「こんな?」


 期待を込めて見上げた王子様は……あれ?

 素敵だけど何か違う。だって……


「ルイス様がお姫様の隣に立ってみてください」

「……こう?」

「そうです! それで、お姫様と見つめ合ってください」


 ……ほら! なんて美しいの。

 まるで二人? とも本から抜け出したみたい。


「幾らルイス様が創られたものでも、やはり本物の皇子様には敵いません! ルイス様の方が百億倍素敵です!」



「…………」

「…………」



 ルイス様の顔が固まった。

 私……何言ってるの?


「ごめんなさい……」

 本を頭に被ると、草の上に顔を擦りつけた。


 ルイス様の貴重な魔力を使って、偉そうにくだらないことをあれこれ指示して……

 はあ、私も氷の王子みたいに、溶けて消えたい。



 静かになったので、草まみれの顔を恐る恐る上げてみる。

 氷のお姫様と妖精達はいつの間にか消え、ルイス様は何事もなかったように再び難しい本に戻っていた。


 本でお顔は見えないけれど……

 少しお耳が赤いのは気のせいかしら。




 ────これもまだ穏やかな中庭の、もうひとつのお話。


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