~番外編~ 穏やかな中庭で ( ルイス視点 )
「シェリナ、何を読んでいるの?」
中庭の大きな木の下、一冊の本をにらみながら百面相をしている女の子に話しかけた。
たった一週間前、僕の婚約者になった彼女はとても面白い。皇法学園でも社交界でも、今までに出会ったことのないタイプの娘だ。
僕の声に慌てて上げた彼女の顔は、普段は白いのに真っ赤になっている。そしてキョロキョロ辺りを見回すと、ぼそっと呟いた。
「……小説です」
「ふうん。どんな話?」
彼女は更に顔を赤くする。
「あの……綺麗なお姫様がいて……」
「どんな?」
「髪が長くて、ふわふわしてて、とても美人で、スタイルが良くて……」
「ふうん……」
シェリナが俯いている間に、指で空中にサラサラと絵を描いていく。
「それで?」
「背中に羽が生えた、小さな可愛い妖精が沢山いて……」
「うんうん」
更に指を動かしていく。
「それで?」
「お姫様には好きな王子様がいるんですけど、上手く気持ちを伝えられなくて……その妖精達が恋のお手伝いを……」
ふと顔を上げたシェリナは、目の前の光景を見て絶叫する。
「えっ…………えええ!!!」
シェリナと僕の間には、氷で描いたお姫様? が立ち、その周りを氷の妖精? 達が自由に舞っていた。
「どう? イメージ通り?」
「……すごい」
シェリナはぽかんと口を開けてそれらを見つめていたが、その内はっとし、本をパラパラとめくり出す。
「駄目です……まだ、王子様が足りません」
「王子様?」
「はい、背が高くて……瞳が綺麗で……鼻筋が通っていて……」
「うんうん」
再び指をサラサラと動かす。
「もう~とにかく素敵なんです!」
「こんな?」
今まで興奮しながら僕の創造物を見ていた彼女は、途端に怪訝な顔をする。
「うーん」
そして冷静な声で言う。
「すみません、やっぱり王子様消してください」
「……分かった」
ササッと手で払い、たった今描いた王子様? とやらを消す。
「そうしたら、ルイス様がお姫様の隣に立ってみてください」
「……こう?」
「そうです! それで、お姫様と見つめ合ってください」
お姫様とやらも若干困っているが、とりあえず向き合ってみる。
「そうです! うわあ……やっぱり! イメージ通りです! 幾らルイス様が創られたものでも、やはり本物の皇子様には敵いません! ルイス様の方が百億倍素敵です!」
「…………」
「…………」
シェリナの顔が、さっきとは比べ物にならない程赤くなる。少し突いたら爆発しそうだ。
「私……ごめんなさい……」
本を頭に被り、草の中に突っ伏してうんうん唸り出す。
やっぱり彼女は面白い。
そして、可愛すぎる……
僕はこのお姫様より、シェリナの方がいいんだけどな。
この時、自分の顔もシェリナと同じ色をしていたなんて……僕の創造物達しか知らなかった。
これはまだ穏やかな中庭の、とある昼下がりのお話────




