5
私はミックスサンドを頬張りながら、向かいでいちごパフェを食べる彼を見ていた。
注文の為に並んでいる時、彼はずっといちごパフェを見つめていたくせに、何故かミックスサンドを頼んだ。
それを見ていた私は、思わず突っ込んでしまったのだ。
「いちごパフェじゃないんですか?」
と。
彼はとても焦ったような顔をした後、
「男がいちごパフェなんて、恥ずかしくて注文出来ないですよ……」
と言うものだから、私がいちごパフェを注文して交換してあげた。
交換して良かったと思えるほど幸せそうな彼の顔に満足する。
「そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね」
彼にそう言われてドキッとする。
「そ、そうでしたね。私、レアって言います」
「レアさんですね……僕はリーです」
我ながら安直すぎる偽名だけど、特に疑われなかったようだ。
「こんなに話の合う人は初めてかもしれません」
「私もですよ! 普段は家で小説読んだり、ダラダラしたりしてばかりでよく親に怒られます」
それを聞いたリーは笑いだした。
「え、なにかおかしなことありましたか!?」
「全く同じすぎて……僕もよくそれで小言を言われています」
「そうなんですか!」
2人で笑いあっていると、ふと机の隅においてある栞が目に付いた。
それは魔王の可愛らしい絵が描いてあり、私は見たことがないものだった。
「それ、何の特典ですか? すごく可愛いのに見たことがない……」
「……え、あこれですか」
彼はパッと栞に手を伸ばし、そのままバックにしまいこんだ。
その仕草は、まるで私にその栞を見せたくないかのようだった。
「……ごめんなさい、聞いてはいけないことでしたか?」
私の言葉に、リーの方が申し訳なさそうな顔をする。
「引かないって約束してくれるなら、レアさんになら話します」
「引くわけないじゃないですか!」
だって大好きな小説の、大好きなキャラクターのかわいいイラストだ。
もしかして私が知らないだけで、何か別冊などが売り出されているのだろうか?
いやそんなことはないはず……
思考を巡らせている私に、リーはボソッと呟いた。
「これ、僕が作ったんです」
「……え?」
「この栞の絵は僕が描きました」
「ええー!?」
先程の栞は、小説の挿絵とそう変わらないクオリティに見えた。
それを彼が作っただなんて……!
「すごいです! それって1種の才能ですよ! いいなぁ私もその栞欲しい……」
「いいですよ。まだ家に幾つか同じようなものがあるので、持ってきましょうか?」
「いいんですか!? ありがとうございます……次はいつ会いましょうか?」
「そうですね……少し忙しいのと、あまり予定を詰めすぎたくないので……2週間後はどうですか?」
予定を詰めすぎたくないのは私も同じだ。
ただでさえ、リアム様との婚約が決まって忙しいのに、家でゴロゴロできる時間が無くなってしまったら、私は萎れてしまうだろう。
「わかりました! 楽しみにしてます」
それから私達は一通り会話を楽しんだ後、カフェを後にして帰路に着いたのだった。
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