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あの舞踏会の日から少し経った頃。

私はふと、リーに会いたくなって例のカフェへと足を運んでいた。


なぜかと言うと、リアム様に私の本性をさらけ出すためのあと一歩が欲しかったからだ。

ベスは新婚ほやほやであまり迷惑をかけるわけにはいかないし、他に私のことを知っている人といえばリーしかいないから。

具体的な約束なんてしていないから会えるかどうかなんてわからなかったけれど、なんだか会えるような気がしていた。

そしてその直感は間違っていなかった。


「レア、来てたんだ」


「リー! なんだか今日はここに来たくなっちゃって……久しぶり」


「うん、久しぶり」


私がいつものように小説を読んでいると、向かいにリーが腰を掛けて話しかけてきた。


「僕も少し相談したいことがあって、レアに会いたいなって思っていたんだ。タイミングよく会えてよかった」


「そうだったんだ。話して話して、何でも聞くよ」


私はとりあえずリーの悩み事を聞こうと思い、本を閉じて身を乗り出した。


「……あんまり大きな声で言いたくないんだけど……」


「なになに? もしかして絵を描きたいのにスランプになっちゃったとか?」


「いや」


「じゃあ、最近ちゃんと休めていないとか?」


「もう少し休みたいなとはいつも思っているけれど……今回はそういう話じゃないんだ」


何だろう……と考えていると、一つの考えにたどり着いた。


「もしかして、例の婚約者に自分の本当の性格を伝えたら、愛想をつかされちゃったとか!?」


もし、リーがそれで失敗したという話を聞いたら、私は一生リアム様に本性をさらけ出す決意はできないだろう。


「いやいや、この性格のことはまだ言ってないよ。まぁ、今から相談したいのは、この性格のことを婚約者に伝えてもいいだろうか……ということなんだけれど」


「なるほどね」


私と丁度同じようなことを考えていたようだ。


「確か、リーの婚約者さんは完璧な人だから、自分の本当の姿をさらしにくいって話だったよね」


「そうなんだ。でも最近、キラキラしているだけじゃないことに気が付いて……それで、ちょっとその……」


リーはもごもごと口を動かし、耳を赤く染めた。

こういうふうに耳を赤くするのは、照れているということだろう。

なんだかこんな感じの姿を見たことがあるな……と思ったら、この間リアム様が同じように耳を赤くしているのと似ているからであった。


「リー、照れてるの? さては、婚約者のこと好きになった?」


「そ、そういう感じかな。最初はキラキラな令嬢で近寄りがたいって偏見を持っていたけれど、彼女と過ごすうちに彼女の笑顔とか、素直な心に惹かれてしまったんだ。それに、思っていたよりも完璧ってわけじゃなさそうだし」


「ふーん、リーと同じくらい怠惰なの?」


「いや、さすがにそんなことはないと思う。だからこそ、困っているんだ。本当の自分を受け入れてもらえるんじゃないかって希望を持ってしまったから」


「その気持ちとてもよくわかる」


私と彼は本当に瓜二つだ。


「だから、今日はレアに勇気をもらいたくて」


きっともう、彼は本当の自分の姿を見せることを決意しているのだろう。

たとえ、それによって婚約破棄になってしまったとしても。


「リーなら大丈夫だよ。私が保証する! 絶対に言ってくるんだよ」


「ありがとう。必ず言って、レアには報告する」


そんなリーの顔を見ていると、私も言おう決意することができた。


「そういえば、レアも何か話したいことがあったりした? 僕ばっかり話しちゃってごめん」


「ううん、今解決したから平気!」


「今……? まぁ解決したなら良かった」


その後少し話をした後、リーは「せっかく決意したから行動に移してくる」と言って帰っていった。

そして私も一人でしばらく物思いに耽った後に、家へ帰ったのだった。


◇◇◇


カフェでリーに会った翌日。

リアム様に私の本性を伝えるために、まずは会う約束をしなければ、と手紙を書いていた。

今日はいつもならボサボサな髪を緩く一つ結びにして、パジャマではなく、一応ゆるっとした部屋着に着替えていた。


そんな風に少しやる気の出ている私のもとへ、バタバタとした足音が近づいてきた。

いつもなら聞かない不思議な物音に、私は首をかしげる。

数秒後、私の部屋をノックなしに開けたメイドは焦っていた。


「リアム様がいらしています!」

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