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「少し休憩しようか」


「そうですね」


思いの外長い間踊っていたようで、私は少し汗ばんでいた。

そんな私に、彼は冷えたドリンクを手渡してくれる。


「ありがとうございます」


「婚約者として当然のことをしたまでだよ」


どこまでもスマートだ。

好きになればなるほど、私とはかけ離れた人種であることを理解させられる。


「リアム殿、少し話があるのだが……お時間よろしいかな?」


「……はい、すまないクレア嬢、少し待っていてもらえるかい? 直ぐに戻るから」


「えぇ、ゆっくりお話してきてください。私は待ってるので」


「ありがとう」


私はリアム様と、横にいる男性にお辞儀をし、花瓶が置いてある近くの壁際に寄る。

ここは私のお気に入りスポットだ。

この花瓶と一緒に立つことで、より壁と同化することができるからだ。

正直、リアム様と婚約した私をわざわざ誘う人はいないから、そんなことをする必要もないけれど……


しかし、完全に部屋の置物になることができたと思っていた時、1人の男性が私に声をかけてきた。


「御機嫌よう、クレア嬢。今日も相変わらず美しいね」


「……あ、ありがとうございます。ジャスター皇太子殿下」


驚いた。

大きな舞踏会だからだろうか?

隣国の皇太子殿下もいらっしゃっているようだ。


「君と踊るという光栄を俺にくれないかい?」


「……」


面倒なことになった……

本来婚約者がいる身で、他の男性と踊るのはよろしくない。

でも、隣国の皇太子殿下相手だ。

ここで断るのは失礼にあたる。


「……御相手させて頂きます」


「それは良かった。君のことはずっと気になっていてね。容姿から立ち振る舞いまで全てが完璧で素晴らしいよ」


「ありがとうございます」


褒められながら、ダンスをする為に中央へ向かう。


…私は完璧じゃない。

容姿も立ち振る舞いも全て偽物だ。

心の軋む音がするような気がした。


そしてその音は、とある光景を見たことによりさらに大きくなる。


「君とは1度ダンスをしてみたくて……」


ジャスター殿下の声すら耳に入ってこない。


リアム様が、他の可愛らしい令嬢と踊っていたからだ。

淡いピンクの髪に青い目の彼女は、私とは違った方向でお洒落だった。

そんな彼女と踊っているリアム様の表情はよく見えない

満更でもない、みたいな顔をしていたら……?


「ぼんやりして大丈夫? そんなに婚約者の事が気になるのか?」


「えぇ、まぁ……婚約者なので」


「どうせ政略結婚だろう? そこまで気にする必要はないじゃないか」


「……そう、ですよね」


そうだ。

元々政略結婚だったのだ。

勝手に私が好意を抱いてしまっただけだ。


「ふーん、完璧令嬢ってやつでもそんな顔するんだな」


「……」


「まぁ案外婚約者も、完璧じゃなかったりしてな!」


「まさか」


「失恋したら、俺のところに来て。拾ってあげるから」


「同情していただかなくて結構ですわ」


そんな話をして1曲分踊り終える。

心も体も疲れてしまってもう踊りたくはないな……と思っていると、その願いが通じたのか、ジャスター殿下は一礼をした。


「これ以上一緒にいると、後で怒られるのが目に見えているからね。ここら辺で失礼するよ」


「はい、ありがとうございました」


「こちらこそ、応じてくれてありがとう」


そのまま彼は他の人だかりの所へ去っていき、私はまた1人取り残された。

リアム様の方を見てみると、次はまた別の令嬢に声をかけられているようだ。


私はまた定位置の花瓶の横に戻ろうとしたが、ふと喉が渇いた事に気がつく。

給仕のメイドからドリンクを受け取り、モヤモヤとした気持ちと共にグイッと飲み干した。

こんな乱暴な仕草は、本来完璧令嬢としていただけないけれど、きっと皆見ていないだろう。


ところが、グイッと飲み干した時、右耳からイヤリングが取れて、床へ転がり落ちた。

ガラス玉がついたそのイヤリングは、コロコロと床を転がっていき見えなくなってしまう。


「……待って!」


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