13
「少し休憩しようか」
「そうですね」
思いの外長い間踊っていたようで、私は少し汗ばんでいた。
そんな私に、彼は冷えたドリンクを手渡してくれる。
「ありがとうございます」
「婚約者として当然のことをしたまでだよ」
どこまでもスマートだ。
好きになればなるほど、私とはかけ離れた人種であることを理解させられる。
「リアム殿、少し話があるのだが……お時間よろしいかな?」
「……はい、すまないクレア嬢、少し待っていてもらえるかい? 直ぐに戻るから」
「えぇ、ゆっくりお話してきてください。私は待ってるので」
「ありがとう」
私はリアム様と、横にいる男性にお辞儀をし、花瓶が置いてある近くの壁際に寄る。
ここは私のお気に入りスポットだ。
この花瓶と一緒に立つことで、より壁と同化することができるからだ。
正直、リアム様と婚約した私をわざわざ誘う人はいないから、そんなことをする必要もないけれど……
しかし、完全に部屋の置物になることができたと思っていた時、1人の男性が私に声をかけてきた。
「御機嫌よう、クレア嬢。今日も相変わらず美しいね」
「……あ、ありがとうございます。ジャスター皇太子殿下」
驚いた。
大きな舞踏会だからだろうか?
隣国の皇太子殿下もいらっしゃっているようだ。
「君と踊るという光栄を俺にくれないかい?」
「……」
面倒なことになった……
本来婚約者がいる身で、他の男性と踊るのはよろしくない。
でも、隣国の皇太子殿下相手だ。
ここで断るのは失礼にあたる。
「……御相手させて頂きます」
「それは良かった。君のことはずっと気になっていてね。容姿から立ち振る舞いまで全てが完璧で素晴らしいよ」
「ありがとうございます」
褒められながら、ダンスをする為に中央へ向かう。
…私は完璧じゃない。
容姿も立ち振る舞いも全て偽物だ。
心の軋む音がするような気がした。
そしてその音は、とある光景を見たことによりさらに大きくなる。
「君とは1度ダンスをしてみたくて……」
ジャスター殿下の声すら耳に入ってこない。
リアム様が、他の可愛らしい令嬢と踊っていたからだ。
淡いピンクの髪に青い目の彼女は、私とは違った方向でお洒落だった。
そんな彼女と踊っているリアム様の表情はよく見えない
満更でもない、みたいな顔をしていたら……?
「ぼんやりして大丈夫? そんなに婚約者の事が気になるのか?」
「えぇ、まぁ……婚約者なので」
「どうせ政略結婚だろう? そこまで気にする必要はないじゃないか」
「……そう、ですよね」
そうだ。
元々政略結婚だったのだ。
勝手に私が好意を抱いてしまっただけだ。
「ふーん、完璧令嬢ってやつでもそんな顔するんだな」
「……」
「まぁ案外婚約者も、完璧じゃなかったりしてな!」
「まさか」
「失恋したら、俺のところに来て。拾ってあげるから」
「同情していただかなくて結構ですわ」
そんな話をして1曲分踊り終える。
心も体も疲れてしまってもう踊りたくはないな……と思っていると、その願いが通じたのか、ジャスター殿下は一礼をした。
「これ以上一緒にいると、後で怒られるのが目に見えているからね。ここら辺で失礼するよ」
「はい、ありがとうございました」
「こちらこそ、応じてくれてありがとう」
そのまま彼は他の人だかりの所へ去っていき、私はまた1人取り残された。
リアム様の方を見てみると、次はまた別の令嬢に声をかけられているようだ。
私はまた定位置の花瓶の横に戻ろうとしたが、ふと喉が渇いた事に気がつく。
給仕のメイドからドリンクを受け取り、モヤモヤとした気持ちと共にグイッと飲み干した。
こんな乱暴な仕草は、本来完璧令嬢としていただけないけれど、きっと皆見ていないだろう。
ところが、グイッと飲み干した時、右耳からイヤリングが取れて、床へ転がり落ちた。
ガラス玉がついたそのイヤリングは、コロコロと床を転がっていき見えなくなってしまう。
「……待って!」
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