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遅くなりました。
「……というわけなの」
「ふーん……それでクレアはどう思ったの?」
「ど、どうって……嬉しかったけど」
「じゃあやっぱり好きになっちゃったんじゃない?」
「……」
今日は新婚ホヤホヤのベスを家に招いている。
残念ながら、ベスの結婚式は身内だけで行うとの事で行くことが出来なかったが、その分話を聞こうと思って来てもらったのだ。
最初は確かにベスの惚気話を聞いていたはずなのに……彼女が聞き上手だからだろうか?
いつの間にか、私とリアム様の話になっていた。
「完璧でキラキラに見えたから、私とは相容れないと思っていたのに……意外と庶民的なところもあって、優しくて、他の令息とは違った感じがしたの。だって、普通だったら誕生日プレゼントなんて、適当に流行りのものを渡してお終いでしょう?」
「ガラス玉のイヤリングもくれたって話?」
「そう、私に似合いそうだからって言ってくれて……本当に私の事を見てくれている気がしたの」
「そういうところに惚れちゃったってわけね」
「そういう言い方をされると……」
本当に好きになってしまうではないか!
確かにこの前のお祭りでは、少し私の素を出すことが出来た。
でも「少し」だけだ。
お祭りの時とは比べ物にならない程怠惰な私には、リアム様もドン引きしてしまうに違いない。
「……私の本当の姿なんて見せられないって。見せたらきっと婚約破棄だもん」
「……そうね。否定は出来ないかも」
「そこは否定してよ!」
「はいはい、まずは客人が来ている時はベッドから降りることからスタートね」
「ベス以外にはこんなことしないし……」
「していたら困るわ」
渋々といった様子でベッドをおりる私に、ベスは苦笑する。
「まぁ、リアム様とどう向き合うかはゆっくり考えていけばいいんじゃないの? 今度王室開催の大きな舞踏会もあるじゃない! その時にまた考えたら?」
「……そうだね」
「そういえば、今回はまだ小説の新作の話、聞いてないわね」
「私としたことが! 色々あって話すのを忘れていたわ!」
ベスはそんな私の反応を見て、安心したように笑う。
きっと軽口を叩きながらも、私の事を心配してくれていたのだろう。
小説の話題にすることで、私を元気づけようなんて……流石私の事をよくわかっている。
「今回は魔王が勇者と同棲中の家を飛び出したところからスタートするんだけどね……
ベスに大方のあらすじを話す。
彼女はこの小説を読んだことはないはずなのに、スルスルと話の内容を理解してしまうのだから凄い。
私よりずっと頭が良いのだろう。
「それで、勇者と魔王はお互いの気持ちを伝えることが出来ないまま、5巻が終わってしまうの。それに、6巻で完結するんじゃないかって言ってる人もいて……ここからの伏線回収が楽しみ」
「6巻で完結するかもっていうのは、どこの情報?」
「あ、ベスにはまだ話してなかった。この間、遂に趣味友達ができたの! リーっていう、私と同世代位の男の子なんだけど……」
「初耳だわ。あなたにも友達が出来たのね……感慨深い」
「ちょっとやめてよもう!」
私がプリプリ怒っていると、ベスは神妙な面持ちで尋ねてくる。
「その人とは何も無いの?」
「あるわけないでしょ! 私は婚約しているし、その、リアム様のことだってちょっといいなとも思い始めているし……それに向こうだって婚約者がいるって言っていたわ」
「なんだ、面白そうなネタになると思ったのに……」
「ネタって何?」
「あぁ、こっちの話だから気にしないで」
彼女が誤魔化すように笑うものだから、私は仕方なく次の話題に移ってあげることにした。
「そういえばまだベスの話、満足に聞けてないわ」
「あら? 聞いてくれるの?」
「糖度は低めでお願いします」
こうして私たちはゆったりとした午後を過ごしたのだった。
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