file2
調査を開始したのは、相談を受けて4日ほど経つ。バイトが思ってたほど忙しかったので、始めることが中々できなかった。そして、そんな多忙は終わりようやく調査を始める。
「さて、やるか。」
依頼は、『中原琢磨』と言う人物の調査。どんな生徒なのか俺は知らない。なので、まず取る行動として。
「いや、なんで俺なの?」
「俺と違って人望が広いから。」
昼休み、真っ先に小渕に『中原琢磨』という人がどういう人か聞く。ここで手に入れた情報をもとにその人物像を膨らませていく。
「中原先輩な……。」
「知ってんのか?」
「あぁ。というか、サッカー部の先輩だし。」
「おお、なんという偶然。で、どうなの?」
「めちゃくちゃ優しくて、サッカーも上手い。学業でも、成績優秀で、まさしく完璧な人なんだよな。あと、イケメン。女子から何人も告白されたって。」
「リアルにステータス極振りしすぎだろ……。」
「まぁ、そんなところかな。中原先輩のことは。」
完璧な人……。理想な人物……。そして、モテモテときた。おい、こんなに完璧な人だったのか。中原琢磨は。小渕の話を聞きながらメモを取っていく。
「うーん……もっと情報が欲しいな。」
小渕の情報が偽り……と言う可能性もある。そのためにも複数の情報を手に入れることで、小渕の情報が正しいことも証明したい。だから、もっと他の人も話を聞きたい。
「知り合いに、『中原琢磨』っていうのを知っている人を知ってるか?」
「……それなら、サッカー部のマネージャー山崎莉緒先輩ならなんか知ってるんじゃね?あの人、いつも中原先輩と一緒にいるし。」
「わかった。当たってみる。一応、その人にアポ取れるならとっておいて欲しい。」
「連絡先、聞いておくわ。」
「すまん。」
今日の調査はここまでにしておこう。にしても、中原琢磨は今のところめちゃくちゃ優秀な人というぐらいしかわからない。さて、そのマネージャーから何を聞けるのか……。今日はバイトもあり、小さな依頼も重なっている。あまり、これだけに時間はかけられない……。
翌日ー。朝早く学校に来た俺は小さな依頼『花壇の水やり』を終え、教室に入る。すると、小渕が1人来ていた。席に着くなり、昨日のことについて話す。
「連絡先、教えてもらったわ。」
「電話番号で教えてもらったか?」
「おう、そこはばっちしだ。」
「……よし。」
電話番号でなければならない理由。それは、正体を隠すため。もし、メールでのやりとりになると自分のメールアドレスを使うしかなくなる。それだと、特定されてしまう可能性がある。なので、あえて電話番号だけに限定しているのだ。まぁ。シンプルにコミュニケーションがとりやすいからだ。文字だと感情が見えない。
「じゃ、また昼休みに電話かけてみる」
電話番号を入手したので早速、中原琢磨について聞けるな。意外に早かったな……。これも、早く終われるのかな?
昼休みー。誰もいない屋上で、小渕に教えてもらった電話番号にかける。2コール以上なっても、電話がでない。……何かあったのだろうか。心配していると、突然、コールが止んだ。電話に出れたのだろうか。
「もしもし、今、お時間よろしいですか?」
『……けほっ……けほっ……はい……。』
「こちら、秘密の部活、補填部の………三淵です。」
俺は、正体がバレないように偽名を咄嗟に使う。
『補填部……?』
「はい、秘密裏に活動している部活で。とある事情で少しあなたと話をしたいと存じまして……。」
『私と……。』
「はい。今、お時間ってありますか?」
『ええっと……はい。』
「でしたら、屋上までこれますか?無理でしたらこちらから……。」
『すいません……6時限目の授業中とかでも大丈夫ですか?』
「授業中。どうしてですか?」
『……あなたと私の話してるところを見られたくないからです。もし、見られたら……酷い目に遭うかもしれないので……。』
酷い目に遭う……?なんかの事情があるのか?でも、くよくよ考えても仕方がない。
「わかりました。では、6時限目に屋上で。」
『はい』
『おい、何電話し……』
男の声と同時に電話が切られた。……男の人と一緒だからか?分からないが、とにかく6限目の授業中に会おう。昼休みが終わり、5限目の授業に参加した。6限目の授業にはでないことにしたので、小渕に早退すると伝えて、俺は屋上に向かう。入り口の上に登り、誰がくるのか警戒する。顔を見られないように、ひょっとこのお面を被る。すると、ドアが開く。警戒しながら見てみると女子生徒が出てくる。俺は、安心したのかドアの入り口に下りる。
「どうも、山崎先輩ですか?」
「……!!一体いつから。」
「あなたが来る少し前から。それよりも。どうも、初めまして。三淵です。」
「は……はぁ。あなたってここの生徒?お面まで被って……。」
顔を隠したいがために、ひょっとこのお面をつけていた。とある人から借りたものだ。
「まぁ、そこはあまり問い詰めないでください……。では、単刀直入に聞きます。中原琢磨のことはご存知ですか?」
「!!」
彼女は咄嗟に青ざめた。すると、何かに怯えるかのように体を小刻みに震え出した。
「あの……。」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
彼女は『ごめんなさい』と永遠に繰り返して言う。一体、どうしたと言うのだろう。
「お、落ち着いてください!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
埒が開かない。だったら……。俺は、彼女を抱きしめる。鼻につく匂いがしたがそれでも我慢する。そして、耳元で囁く。
「落ち着いて。大丈夫。大丈夫だから。」
すると、彼女は落ち着きを取り戻したのか正気を取り戻す。
「あ……私……。」
「落ち着きました?」
「は……はい……。」
そして、彼女は俺の制服を掴み、まるで助けを求めているような感じ……。何か、隠してる。彼女の身体中に無数のあざだらけに、掴んだ感じ、痩せ細った腕だ。髪の毛も潤いがなく干からびている。それにさっき感じた変な匂い……まるでイカ臭い……。なにか巻き込まれているのではないのかと感じる。
「何かあったのですか?」
「…………。」
「中原琢磨と何かあったのですか……。」
「…………っ。」
言えない……よな。名前出しただけで取り乱したんだから……。しかし、これ以上この状態だと聞き出すのに聞き出せない。
「わかりました。なにか、事情があるように見えますので。」
「……いいんですか?……聞かなくて……。」
「無理には聞けませんよ。嫌なことは誰だって隠したくなる。」
そして、先輩にも関わらず、俺は頭を押さえる。
「絶対になんとかするから。待っといてください。」
彼女の顔は見えなかったが、声を震わせながら、返事をする。
「………………はい。」
そして、彼女を帰した。にしても、彼女は何かに巻き込まれてるに違いない。何かに怯えていたのが目に見てわかる。彼女は『中原琢磨』に何かされていると考えた方がいい。そこだ。くそ……わかんねぇ。だったら、あいつに相談してみるか。
「明後日、パソコン室に行くか。学校でとんでもないことがされてる。」
何か怪しいことを確信し、今日の調査を終了した。
部活で夜遅くになった頃ー。俺が知らない所で、彼女はー。暗い部屋の中、大人数が1人の女子を囲んで立っていた。俺が出会ったマネージャーではなく、他の誰か。
「おい、舐めろ。」
「………はい。」
複数の裸体の男子たちとなにやら始めていたことを俺は知りもしなかった。そして、その奥で不気味な微笑みで楽しんでるやつのこともー。