第二十一話 大きな変化
レベルアップの予兆。
前回はそうじゃなかったが、今回は能力が強制的に発動した。
そして、一部能力を先行して使えるようになる。
今回のは……行為の日時などが表示されているところが点滅している。
『キュアレ。なんだかわかるか?』
セリルさんに気づかれないように、俺は紅茶をたしなみながらキュアレに問いかける。
『うーんとね、それは……』
またあのメモ帳を確認しているのだろう。
しばらく待つと。
『あー、これかもなぁ……』
なんだかキュアレにしては、俺を気遣っているかのような反応だ。
……予想だとこれは。
『言ってくれ。この能力のテスターになった時から覚悟はできている』
『……わかった。じゃあ言うけど。それは過去を見ることができるやつだね』
『過去?』
『そう。そこに意識を集中させると、その時の一部始終を見ることができるの』
やっぱりそういうことか……。
『しかも無音じゃなくて、ちゃんと声もある。まあ、例えるなら誰にもばれずにエロ動画を見る感じだね』
『いや、例えなくて良いって』
『ぷー、私なりに気遣ってあげたのにー』
あはは、そうだったのか。
とはいえ、とんでもないものが先行して使えるようになったな。
つまり、その者と相手しか知らないことを、俺だけが見れるってことか。
『正直、あんまり使いたくないな』
『使い方としては、相手が抱え込む誰にも言えない悩みを知り、心を癒すってところだろうけど』
『それって一歩間違えれば更に心に傷を追わせることになるんじゃないか?』
誰にも言えないことが知られた。
どこで?
まさか見られてた?
しかも知り合いに?
なんてことになりかねない。エロに興味津々とか、変な性癖の持ち主とかだったらエロ動画を見ている感覚で使うんだろうけど……。
『どうする? 使ってみる?』
『それはつまりセリルさんの過去をってことか?』
俺はチョコチップが入ったマフィンを口にしながら、ずっとにこにこ笑顔のセリルさんを見詰める。
セリルさんの過去……一度見た時からとんでもない人だと思っていた。項目とこれまでのセリルさんの行動から、性欲が強いエロい美人という印象。
しかし、過去を知ることでその印象も変わるかもしれない。
「あら? 零様。私の顔になにか?」
っと、見詰めすぎた。
「えっと、綺麗な瞳だなって」
「ま、まあ……そんな」
咄嗟に相手を褒めて誤魔化したが、成功か?
「我慢してるのに、そんな嬉しいことを言われては……」
余計なことをしてしまった……!
セリルさんは、頬を赤く染めて恥ずかしそうにちらちらと俺のことを見ている。
口元が明らかに緩んでいる。
『へいへい。真面目な話をしてるのに、なに口説いてるの?』
『べ、別に口説こうと思ったわけじゃ』
『さすが主人公。意図せず口説くとは……お、恐ロシア!』
お前も真面目じゃないだろ、たく。
『……じゃあ、使うぞ』
『ばっちこい!』
『お前も見るのか?』
『いえい! レッツエロ動画観賞!!』
しょうがないな……すみませんセリルさん。あなたの過去、覗かせてもらいます。
いまだに恥ずかしがっている乙女な聖女様の過去。
一番古いものに焦点を合わせる。
すると。
『これが』
『おー』
視界に映し出されたのは、セリルさんの幼少期。
今のセリルさんと比べて何もかもが小さい。
真っ白で、小さな空間には明らかに何かに正常じゃない若い男ががっちりと拘束された状態で仰向けにされていた。
『では、これより悪魔祓いの儀式を行います』
悪魔祓い……。
つまり男には悪魔が入り込んでいるってことか。
あれ? 側に居るのは。
『だ、大丈夫だよエル。これも聖女としての勤め。それに、私の力が未熟なのが原因だから……』
そうだ。やっぱりエルさんだ。
今よりも少し小さい。
けど、今と同じで喋れないのか?
『さあ、今悪魔から解放してあげます』
心配そうに服を引っ張っていたエルさんを優しく引き剥がしたセリルさんは、男の下半身付近に座り込み、修道服を脱ぎ始めた。
そこからは壮絶なものだった。
男から悪魔を引き剥がすためにセリルさんは、その小さな体で。
『……なるほど、な』
俺は、椅子に背を預け天井を見上げる。
キュアレと一緒に見ていたとはいえ、これは今まで以上に疲れる。
『悪魔から助けるためにかぁ』
そう考えると、年齢層がバラバラなことと、一度やってそれっきりだというのも納得できる。
あんな小さな頃から、その身を犠牲にして人々を助けてきていたんだろう。
『なんだか印象変わるね』
『けど』
確かに印象は変わる。
「あ、そんな……でも、だめです……! きょ、今日は我慢しなくちゃいけないのに……じゅる」
もしかしたら、元からそういう性癖の持ち主だったのかもしれない。
『でもさ、悪魔祓い以外でやってる感じはないし。あくまで聖女としての勤めだったんじゃない? 悪魔だけに!』
『……』
『悪魔だけ』
「セリルさんは食べないんですか?」
『無視しないでー!!』
「あ、いえ。私は、いいんです。それは零様のために作ったものですので」
ハッと我に帰ったセリルさんは、なんとか清楚な感じに戻る。
なんだか脳内で、うるさい声が響いているが今は無視しよう。
「いいじゃないですか。今日は、俺と仲良くなるために招待してくれたんですよね?」
「そ、そうですが」
「だったら、遠慮せずに。一緒に食べながら会話しましょう」
遠慮がちなセリルさんに、俺はマフィンを手渡しながら笑顔を向ける。
「……あー、えっと……は、はい。あなた様がそうおっしゃるなら」
両手でしっかりとマフィンを受け取ったセリルさんは、笑みを浮かべ、小さい口でかじる。
それを見た俺は、食べかけのマフィンをかじる。
「美味しいですね」
「は、はい」
「セリルさんは料理が得意なんですか?」
「そう、ですね。人並み程度には」
「得意料理とかは?」
「えっと」




