第十九話 罠に飛び込め
「罠ですね」
「罠じゃろうな」
「罠としか思えない」
「罠で確定だ」
招待状が届いた翌日の朝。
完全にこれは罠だろうと決めつける少女達。
テーブルの中央に置かれた招待状を睨み付けながら囲むように俺達は座っている。
俺を玄関側にし、時計回りにみや、ここね、キュアレ、かむら、あおねという順番だ。
「すぴー」
なお、キュアレは昨日も夜更かしをしていたためテーブルに突っ伏しながら気持ち良さそうに眠っている。
「この前のことがありながら、自宅に招待とは」
「調べたところ、彼女の自宅は大きな屋敷のようです」
「普通にメイドさんもいるみたい」
「十中八九、そのメイド達は聖女の仲間。教会のシスター達だろうな。ちなみに、屋敷には男は一人もいないようだ」
つまり女の園ってことか。
何人たりとも男の侵入を許さない禁断の地……そこに、男である俺を招待するってことは。
「確実に食われますね」
「うむ。入ったら最後、メイド達に拘束され、あの変態聖女に……そんなの許さないー!!!」
「うひゃあ!? みや先輩! 黒いオーラ出てます! 落ち着いてー!!」
「どうどう」
「落ち着いた」
「すげっ!?」
うーん、やっぱりセリルさんのことになると黒いオーラが出てしまうな。
すぐ落ち着いてくれるけど。
「まあ、カモフラージュのために零以外の人達も招待するようだけど」
ここねの言う通り、招待されたのは俺だけじゃない。みやや康太、白峰先輩に父さんや母さんなんかも招待するようだ。
俺だけを招待しても絶対来ないと思ったからだろう。それにしても、父さんや母さんのことをどこで知ったのか。
「行く必要はないぞ」
と、かむらが腕組みをしながら言う。
「まあ、うん」
「おやおや。もしかして行きたいのですか?」
「君は、あんな目に遭っても……いや、まさかあの出来事で魅了されたか?」
「そういうわけじゃない。ただ……なんていえばいいんだろうな。セリルさんは別に悪い人じゃないだろうから」
襲われたけど。
「ふう……相変わらず先輩はお人好しさんですね」
「うまく言えないが、この招待は受けた方がいい気がするんだ」
「ほう? それは主人公としての直感ってやつかね?」
どうなんだろうな。
正直、確実に厄介なことが起きそうなところに飛び込むのはどうかと思うが。
こうしたほうがいいって感覚がある。
みやの言う通り、これは主人公としてのなにかなのだろうか。
「……しょうがない。君が行くのであれば、我々は護衛としてついていく」
「私は、零が行くところならばどこへでもー!」
「じゃあ、私も先輩の行くところならばどこへでもー!」
うぇーい! と目の前でハイタッチをするみやとあおね。
「ふあっ? なになに? なんか盛り上がってるけど。あ、もしかしてもうお昼?」
「まだ十時半だよ」
「そっかー」
まだ昼じゃないとわかった途端に、キュアレはまた眠りについてしまう。
「とりあえず、対策練らないとね」
「ああ。なにせ敵の本拠地に足を踏み入れるのだからな」
「敵って……ある意味仲間だろ?」
「だが、我らは君の監視兼護衛だ。もし君が襲われたら、護るために戦わなければならない」
「そうですよ。先輩は色々と呼び込む体質なんですから」
「まったくだ」
「厄介な体質だよね」
悪いな……厄介な体質で。
・・・・
そして、行くと決めた日から二日後。
俺達は、セリルさんの自宅にやってきた。
周囲にある住宅と比べ、二倍、いや三倍? とりあえず大きな屋敷。
アニメや漫画であるような玄関まで遠い屋敷。
「こんな屋敷あったのか」
「まあ、先輩が住んでるところとは真逆ですからね。ちなみに、この近くにあたしとここねが通っている女子中があるんですよ」
「へえ」
この場に居るのは俺、みや、康太、あおね、ここね、かむら、白峰先輩、父さん、母さんとなっている。
慶佑や優菜さんも誘ったのだが、用事があるとかで来れなかった。
「うわぁ、こんな大きいんだ」
俺もそうだが、白峰先輩は開いた口が塞がらない状態だった。
あおねやここね、かむらはすでに知っていたため平常心を保っている。
「零。これから俺達は、女の園に足を踏み入れるんだな」
いつも以上に引き締めた顔をする康太。
「覚悟はできているな、零」
ぽん、と左肩に手を置きながら父さんは言う。
「か、覚悟ってなんだよ父さん」
「だって、押し倒された相手のところに行くのよ? 何が起こるかわからないじゃない」
右肩に手を置き、母さんが続いて言う。
二人が言わんとしていることは理解している。
当然、覚悟は決めている。
じゃないと、俺はここには来ていない。
「ああ。わかってる」
そう言って、俺はインターホンを鳴らす。
すると、すぐ固く閉ざされた扉が開く。
「……おぉ」
扉の先には、二十人以上は居るんじゃないかと言うメイドさん達が、道の両側に整列していた。
どのメイドさんも、若く十代か二十代ぐらいだろうか。
ちなみに、メイド服はスカートはミニではなくロングだ。胸元や脇などの露出もなく、正統派のメイド服。
「いらっしゃい。待っていたわ皆」
そして、そのメイドさん達が並び道の真ん中に居たのがセリルさんとエルさん。
当然というかなんというか。
年上のお姉さんモードでお出迎えだ。
「す、凄いですね。こんな屋敷に住んでいるなんて!」
と、康太が若干震えた声で発言する。
圧倒されているんだろうな。
無理もない。
俺だって、圧倒されている。こんな光景をリアルで見ることになるなんて思わないだろう。
この世界だからこそ、だろうな。
「ちょっと広すぎてお掃除とか移動が大変だけどね」
「で、でしょうね」
「ところで、今回はどんな用事で招待を?」
招待状には、屋敷に招待、としか書かれていなかった。
そのため何をするのかはわかっていない。
あおねは、様子を伺うように問いかけたんだ。
「ただ自宅に遊びに来てほしかっただけなんだけど。せっかく仲良くなれたんだから。もっと仲良しになりたくて……迷惑だったかしら?」
「くー! なんてお人だ! 眩しくて目を開けられないぜ!」
「表向きは、てところだろうな」
セリルさんには聞こえないようにかむらが耳打ちをする。
そう、かもしれないけど。
なんだか、本当のことのようにも聞こえる。
「それじゃあ、屋敷に案内するわね。さあ、こちらへ」
さて、何が起こるか。