第十八話 聖女様からの招待状
「ーーーということがあって、俺は忍者達から監視される対象になってしまってことだ」
「俺達が帰った後にそんなことがあったとはな。超展開過ぎないか?」
「そうよね。私はてっきりラブコメ展開になると思ってたのに。ファンタジー色強くない?」
「俺も思ったけど、ほら。俺と同居してる神様」
俺は現在、父さん達が泊まっているホテルの一室に居る。
前よりも少し高価なところだ。
ちなみに宿泊費は、キュアレが出している。多少高いホテルに泊まってもまだまだ有り余るほどあるからな。
で、俺はそこで父さん達が帰った後にどんなことがあったのか話していた。
一応、電話で話はしたのだが、こうして直接話すと伝わることも違う。
「あー、確かに」
「ファンタジー感は最初からぶっちぎりで強いな。けど、そうだとしても神様と過ごす日常ものって感じじゃないか?」
「わかる。神様って凄い存在と暮らしていたとしても、話の展開はゆるゆるの日常。例えば、四コマ漫画的な?」
確かに、あいつと居るとこっちも緩くなってしまうけど。
「まあ、路線変更なんてのはざらにあるしな」
「そもそもファンタジー色が強いラブコメだったいっぱいあるものね」
「だが、今回は中々苦労しそうだな零」
父さんが心配しているのは、今の状況。
俺が、聖女様に狙われているということも話した。
正直、素直に話すのは恥ずかしかったが。
普通にそうだろ?
親に、プールのトイレで年上の女性に押し倒された、なんて。そのうえ、海パンを脱がされそうになって、俺の背には気づかないうちにマットが敷かれていた……うん、普通に考えてなんで俺は包み隠さず話したんだろ。
「セリルさん、か。うん、凄い美人。女の私からでも美人だと思っちゃうほどに」
プールで遊ぶ前に、記念に撮った集合写真。
それを見ながら、母さんは息を漏らす。
「普通の男だったら、こんな美人に押し倒されたら理性なんて吹っ飛ぶだろうな」
「父さんもか?」
「ふっ、俺は母さん一筋だ」
「きゃっ」
相変わらず仲がよろしいようで。
「それにしても、お前。こんな美人に押し倒されて、胸まで揉んだのに欲情しなかったのか?」
「ま、まあ……」
「親としては心配だわ。零もお年頃なのに」
「俺自身も心配だよ……」
異性に興味がないわけじゃない。
人並みぐらいにはある……と思う。
けどなぁ。
なんでかはわからないけど、息子が立たない。小学生の頃、康太の知り合いである兄さんの部屋でエロ本を見た時も、康太はテントを作っていたが、俺は全然。
『欲に対する意が足りない!!』
『欲望の獣にでもなれってか?』
『そもそも、零が欲望の塊だったら今頃、世の女という女は狩り尽くされてるよ』
ひどい言いようだ。
まあ確かに、授かったこの能力を使えばあっという間に浮気を暴けるし、そのうえで脅してってことだろうな。
「だが、お前は立派に育っている。俺はそう確信している」
「いったいどの辺から確信に至ったんだよ」
「だってそうだろ? お前が持っている能力は、使い方によってはエロ同人のような展開になる。だというのに、お前はそれを悪用していない。それはお前が心優しい立派な男だという証拠だ」
……まったく。
「あんまり褒めないでくれ。恥ずかしいだろ……」
「はっはっはっは! 俺は思ったこと言ったまでだ! なあ? 母さんもそうだろ?」
「もちろん。昔から言い聞かせてきたからね。頼れる男になれって!!」
本当、この二人は親バカで困る……でもまあ。
「はいはい。これからも頑張りますよ」
「でも、一人で抱え込まないこと! 絆は人生において大事な宝物! いいか? 息子!!」
「お、おう」
俺の返事に、母さんはよろしい! と笑顔になる。
それからは、しばらく家族で時間を過ごした。
一緒に食事をしたり、ゲームをしたり。
ホテルを出たのは、十七時を過ぎた頃だった。
今日の夕飯は何にしよう……。
そんなことを考えながら、俺はアパートへ帰宅する。
「ん?」
ポストを見ると、一通の手紙があった。
何やらめちゃくちゃ豪華、というか普通の手紙とは思えないほどのオーラを感じる。
差出人は……。
「セリル、さん?」
今の悩みの種である聖女セリルさんからの手紙だった。
「ただいま」
「おかえりー」
アパートの中に入り、俺は腰を落ち着かせてから手紙を開封した。
「なんぞ? それ」
キュアレも興味を示し、覗いてくる。
「……招待状、みたいだな」