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第十五話 夏の序章

「よう、遅かったじゃんか。どんだけ長いトイレなんだよ。もう先に昼食べちまってるぞ」

「悪い悪い。ちょっとトイレが混んでて」


 戻っている時には、もう昼過ぎ。

 康太は、焼きそばやフランクフルトなどを注文して、先に食べていた。

 二人仲良く遊びに行っていた慶佑と優菜さんも戻ってきていて、これまた仲良く昼を食べていた。


「あ、慶ちゃん。こっちのかき氷美味しいよ。はい、あーん」

「だ、だからやめろって! 自分の分は、自分で食べるから!」


 俺は、空いている白峰先輩の隣に腰掛け、息を漏らす。

 疲れた。

 遊び疲れではない。

 完全に、精神的な疲労だ。


「大丈夫? 零くん」


 すぐに白峰先輩が、俺の異変に気づいてくれたようで心配そうに声をかけてくる。


「大丈夫ですよ。それよりも、先輩は食べていないんですね」

「食べてるよ? でも、なんだか緊張で食べ物が喉を通らなくて。あははは……」


 ですよね。

 今のところは、普通に可愛い女の子だと思われているようだが。いつ男だとばれるか気が気じゃないだろう。

 そんな状況で、康太みたいにばくばくと食べられるはずがない。


「お? なんだよ」


 ずるずると濃いソースが絡まった焼きそばを食べている康太は、俺の視線に気づき首をかしげる。


「なんでもない。美味しそうだなぁってな」

「あ、じゃあ買って来ようか?」


 と、白峰先輩が俺に気を使って席を立つ。


「あ、いや。自分で買ってきますよ」

「でも、零くん。疲れてるみたいだし」


 うーん。本当に優しい人だ……こうしていると気の利く美少女。

 男だけど。


『究極の癒しやでぇ』

『お前もある意味癒しだよな』

『ど、どういう意味それ!?』

『さあな』

『ちょっとー! いつもいつも意味深なこと言ってー! きーにーなーるー!!』


 さて、さすがに先輩一人で歩かせるわけにはいかない。

 もしかしたら、変なのに声をかけられるかもしれないからな。


「あれ? そういえば、仲良し三人組は?」


 昼食を買いに行こうと、今一度立ち上がったところで、康太が人数が足りないことに気づく。


「あおね達だったら、知り合いに会ったらしくて。今は、その人達と一緒だと思うぞ」


 知り合いとは、かむらの兄である霧一さんだ。

 結局、あの後に三人は霧一さんに呼ばれて俺とは別行動。やはり、セリルさん達絡みの話なんだろうか?

 

「いないと言えば、セリルとエルちゃんもいないけど」


 そうそう。

 セリルさんとエルさんもこの場にはいないのだ。


「二人は、急用ができたみたいで先に帰りました」

「そうだったの? 残念……エルちゃんと遊びたかったのに」

「急用だったらしょうがない。今度うちに呼べばいいんじゃないか、姉さん」

「そうね。じゃあ、その時は何をして遊ぼうかな」


 セリルさんは、俺達と離れる前にこんなことを言った。


「今日は、これで失礼します。これ以上、あなた様と一緒に居るとまたリミッターが外れそうなので」


 リミッターってなんだよと突っ込みたかったが、おそらく理性のことだろうと。

 リミッターが外れたら、また欲望のまま襲いかかってくる。

 そのため落ち着くべく、今日は解散した。

 

「マジかよ。もうちょっとセリルさんと仲良くなりたかったのに」

「落ち込むなって。また会えると思うから」

「ちぇっ、まあしょうがねぇか」

「それじゃ、俺は昼食を買ってくるが、みやはどうする?」

「一緒にいきますー」


 みやはいつもの不思議キャラである裏みやに戻った。

 とはいえ、また謎が増えた。

 あの黒いオーラ……それに、バトル漫画のごときパワー。今は、いつものように接しているが、さすがに言及しないわけには……いかないよな。


「へいへい、どったのさ」


 みやのことをじっと見ていると、それに気づきいつもの調子で笑顔を振り撒く。


「お前は、凄いなって」

「おお? 急にどうしたの。褒められると照れるぜ! にゃははは!!!」


 みや自身も、普通じゃないと思っているはず。

 

「……後で、ゆっくり話し合おう」

「うむ。よかろう」



・・・・



「くー! 疲れたー! 今日は遊んだ遊んだ」

「僕は、精神的に疲れたよ……今度はちゃんと確認しないと」


 あれから二時間ほど遊んだ。

 あおね達も合流して、何事もなく。

 そして、今は帰りの電車に乗っていた。


「ところで、先輩」

「なに?」

「ずっと気になっていたんですけど。あの水着を着ている時」


 キリッとした表情で康太は。


「もっこりしていたんですか?」


 またよくわからんことを言い出す。

 いや、言わんとしていることはなんとなくわかっているのだが。


「そ、それは」


 白峰先輩も、そのことを理解しているのか。かなり言いにくそうな反応をしている。


「おい、聞くにしても場所を考えろ」


 周りには、リオが白峰先輩の女装だってことに気づいていない二人が居る。

 あ、ちなみに白峰先輩のことは急な貧血で医務室で休んでいた、ということにした。だから、施設から帰る時は優菜さんがかなり心配していた。


「それに、どうでもいいだろそんなこと」

「どうでもよくねぇって。よくあるだろ? 絵師によってもっこりしているのとしていないの」

「俺は、そういうのに詳しくないからわからん」

「おいおい。ちゃんと勉強しろってまったく」


 まさか康太に勉強しろと言われる時がくるとは。

 

「先輩。答えなくて良いですからね。こんな馬鹿な質問」

「あ、あははは」

「俺的には、もっこりしていない方がいいんだよ。リアリティ? そんなの必要ない。二次元だからこそ、ノンリアリティでいくべきなんだよ。まあ多少のリアリティは必要だろうが。やっぱり二次元だから」


 変なスイッチが入ってしまったようだ。

 俺は、先輩を護るために康太との間に座る。


「……ふう」


 俺は、一人でぺらぺらと二次元だからこそという語りをしている康太の声を聞きながら、正面に座っているみや達を見る。

 どうやら写真を撮っていたらしく、楽しそうにデジカメを見せ合っている。


「ほら、見てくださいよ。かむらちゃんってば、水着がはだけそうに」

「なっ!? 撮っていたのか!?」

「おー、グッドハプニング」

「むむむ……やはり、こちらもビキニにするべきであったか……」

 

 そういえば、どうしてみやは競泳水着だったんだろうな。

 いつも通りって言えば納得してしまうんだが……。


「ところで、なにゆえにみや先輩は競泳水着だったので?」


 俺の心を読んだかのようにあおねが問いかける。

 

「ふと思ったの……競泳水着ってエロくね? って」

「ほほう?」


 みやの言葉に、あおねはキリッと表情を引き締める。


「ほら、ビキニとかと違って体の線がくっきりと。それにあの体に張り付くフィット感……スクール水着とはまた違った着心地がですな」

「なるほど。確かに、そう言われるとあの食い込み具合とか」


 確かに、ビキニと違ったエロさがある。

 まさかちゃんとした理由があって着ていたとは。


「それにぽろりをしなくて済むからねー」

「その話はやめろ」

「まあまあ。もう一枚、面白い写真があるんだけど」

「待て。まだあるのか! いったいどんな」


 夏休み最初の思い出。

 まさか展開だったが、それなりに楽しかった。

 とはいえ。


「序章が終わったって感じだよな」

「は? なに言ってんだ」


 っと、つい声に出してしまったみたいだ。


「あ、いや。なんでもない」

「そうか? でさ、俺は思うわけだ。リアリティを求める二次元も良いものだが」

「ま、まだ話すんだね」

「語り出したら中々止まらないですから」


 どうなることやら。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夢 時 空 ! 何がとは言わない。
[一言] たぶんしっかり体内に収納されてたんじゃないかな 何がとは言わない
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