第十話 美少女と美女
「これは……完全に負けてますね」
「そうだね」
女子更衣室にてあおねは、若干子供ぽさはあるフリルが多い水色の水着を身に付け、さあプールへ! とはいかず、ここねと共にじっとあるところを見ていた。
視線の先には、みや、かむら、優菜、セリルの四人。
四人の共通点は明白。
出るところは出ている抜群なスタイルを持つ美。
「な、なんだ?」
「かむらちゃんって本当に十三歳なのかにゃー?」
「そうだと言ってるだろ。自分のことを見てないで、さっさと着替えろ」
さっさと着替えろと言いつつ、かむら自身は中々服を脱ごうとしないと。
仲間であるあおねやここねには理解できている。
周囲は同姓だけとはいえ、人前で肌を晒すというのを恥ずかしがっているのだ。
かむらは、自分の体は同年代と比べて肉つきが良すぎることを理解している。
そのため昔からよく体をじろじろ見られていた。
みやは、そのことを理解したのか。
かむらのことをちらちらと見ている。その度に、自分の胸を確認するように下着の上から揉んでいた。
みやも、かむらに負けず劣らずのスタイルをしている。
いつも不思議キャラでいるが、完璧超人なみや。
かむらとはとある出来事をきっかけに微妙な間柄となっている。端から見たら、並んで会話をしながら着替えている仲良しに見えるだろうが、あおねには壁のようなものがあるように見えている。
「あら? 優菜。その水着、去年のとは違うみたいだけど」
「え、えへへ。実は、去年のはきつくなっちゃって……」
「ふふ。幸せ太りかしら?」
「ち、違います! もう!」
そして、その左隣でふわふわとした空気を漂わせている二人の美女。
零の友達である慶佑の姉優菜は、可愛い系が入った美女であり、極度のブラコン。
「ちなみに、それは弟くんと選んだの?」
身に付けているのは、シンプルな白いビキニ。
彼女のふわふわとした雰囲気と相まっている。
「そうだけど……そういうセリルは、派手、ね。黒だなんて」
「そう? でも、私も大人だし」
優菜とは正反対で、セリルは大人の雰囲気が出ている黒のビキニ。
四人の中で、一番スタイルがよく同姓でも釘付けになってしまう。
「エロいですね」
「うん、エロい……何を食べたらあんな風になるんだろう」
ここねは翡翠色のビキニ。
その上にお馴染みに猫耳パーカーを着ている。ちなみに、水に濡れても大丈夫な素材でできているのだ。
「……」
「おや、エルちゃん、でしたか? あなたも……まあ、こっち側ですよね」
あおねの左隣に立っていた白いスクール水着を着たエルは、静かに首を縦に振った。
「白スクとは、またマニアックですね」
「……」
「ほほう、自分で選んだのですか」
あおねの問いに、どこからともなく自分で選んだという文字が書かれたプラカードを手に持つ。
喋れないため、彼女なりに工夫したのだろう。
(ふむ。零先輩からの情報では、彼女は実年齢が十八歳ということでしたが……合法ロリとは、また厄介な子が出てきましたね)
セリルやエルのことは、すでに零から聞いている。
そこから考えると、彼女達は間違いなく零を狙っている西の退魔士であるシスター集団。
セリルは、そのトップである聖女。
(まったく、狙われているとわかっているのに誘うなんて……)
おそらく彼女達は、隙を見計らって零に接近し、なにかをしでかすに違いない。
あおねはもちろんだが、ここねやかむらも一層の警戒をしている。
(まあ、先輩のことですから。彼女が純粋に遊びたがっているんじゃないかと思って了承したんでしょうけど……)
ちらっとエルを見るも、特に武器らしいものは所持していないし、まったくと言って何かをしようという気配が感じられない。
そもそも、彼女は感情が読みづらいのだ。
いや、感情がない? 表に出ていないのか? いずれにしろ厄介な相手だ。
「ではでは、行きましょうぞ!」
なぜか競泳水着を着たみやの声にハッと我に帰るあおね。
「あら、かむらちゃん。スポーティーな水着ね」
「あ、あんまり見るな」
「おっと、着替え終わったみたいですね。ここね、エルちゃん。あたし達も行きましょう」
全員が着替え終わり、女子達は更衣室から出ていく。
エルは、すぐにとことことセリルの隣に小走りで近づき、自然に手を繋ぐ。
「はあ……水着というのはよくわからん。下着と何が違うというんだ」
入れ替わるようにかむらが、あおねの隣に並ぶ。
赤いビキニに短パンというスポーティーな水着姿。小さい体とは、不釣り合いなスタイルがこれでもかと露になっている。
「耐水性があります」
「下着の代わりになるよね」
「そうだな。ところで」
表情を変え、かむらはセリルとエルを睨む。
「本当なのか? あの少女が十八歳というのは」
「先輩が言うには」
「信じがたいものだ。自分より幼い容姿をしているのに、年上とはな」
「合法ロリというやつですよ。というか、かむらだって人のこと言えないと思いますよ」
「そうそう」
と、あおねとここねはかむらの豊満な胸を見詰める。
「どこを見ている」
その視線に気づき、両手で胸を隠すように覆う。
「あなたの大きくエロい胸を!」
「無駄に大きな胸を」
「この……!」
「きゃー! かむらちゃんが怒ったー!」
「逃げろー」
子供のように走り出す三人。
「ひゃっほー! 走るのは危険だぞー! 三人ともー!!」
注意するみやだったが、自分も楽しそうに走り出す。
そんな元気な姿を見て、優菜とセリルは微笑ましそうに表情を崩す。
「ふふ、元気がいいわねぇ」
「やっぱり夏って普段と違って開放的になっちゃうのねぇ」
「エルも行く?」
「……」
セリルの問いかけに、ぐっと親指を立て走り出す。
「パイセーン!! お助けー!!」
「うおっ!?」
「明日部零! そこを退け! いや、そのまま君ごと!」
「おっとぉ!! そうはさせんぞ!! 我が幼馴染を攻撃しようと言うのならば……容赦しないよ」
「あれ? なんでその格好?」
「いやぁ、あははは……」
「よっし! これで全員揃ったな!」
「ようやくか……」




