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第九話 神の意思

 やはりというか、皆考えることは同じだったというか。

 俺達も早めに来たつもりだったが、今が夏休みということもあり、子供連れの客達が多い。

 恋人同士で来ている者達も居るようだが。


 更衣室もかなり広いが、このままだと次々に客が押し寄せてきて、着替えるのが大変だろう。

 多いと言ってもまだ混んでいるというほどじゃない。

 今の内に、素早く着替えてプールへ直行しよう。


「よっと。よし! 行くぜ!」

「康太、お前……小学生か」


 いち早く服を全て脱いだ康太は、すでに水着を穿いていた。

 その様子を見て、まだ上半身裸の慶佑が呆れたように声を漏らす。


「基本だろ? それに学校のプールと違って次々に人が来るんだ。こうでもしないと更衣室も混んで着替えにくくなるだろ?」


 康太の言い分もわからなくはない。

 小学生の頃は、俺もよくプールがある時は下に水着を着用していたっけ。

 

「んじゃ、俺は先に行くぜ! 一番乗りだー!」


 と、更衣室をさっさと出ていく。


「俺達よりも先に客が居たから一番じゃないんだがな」

「気分で言ってるだけだろ? ……ん? 慶佑。その水着」


 取り出した慶佑の水着。

 俺も水着を新しく買おうかどうか迷っていたからわかる。慶佑が持っているオアシスをイメージしたデザイン。

 最近発売されたものだ。

 

「もしかして、優菜さんと買い物した時に買ったのか?」

「俺はいらないって言ったんだけどな」

 

 などと言いつつ、慶佑は海パンをじっと見詰めていた。

 さて、俺もさっさと着替えないと。


「ん? 電話」


 誰からだろうと、スマホを手に取る。

 そこには母さんと表示されていた。

 このタイミングで来るってことは。


「すまん。ちょっと電話に出てくる」

「ああ」


 端の方に移動し、俺は通話ボタンをタップする。


「もしもし?」

《おはよう、零。今、大丈夫?》

「ああ、大丈夫だけど。もしかして、またこっちに来るのか?」


 ゴールデンウィーク同様にこっちへ遊びに来ると俺は予想した。

 

《あら、さすが私の息子! 察しがいいわね》

「まあな。それで、いつ来るつもりなんだ?」

《そうねぇ……早くて来週かしら》


 来週か……。


「じゃあ、正確な日時が決まったら連絡してくれ。まあどうせ、俺に予定があっても普通に来るつもりなんだろうけど」


 この前のようにな。


《当たり。零も大人ぶっててもまだまだ子供だから。私は親として、零の自由を尊重するわ!》

「はは、ありがとう」

《今は、丁度更衣室で着替えてる最中よね。夏を満喫しなさい! あ、でも開放的になり過ぎて問題を起こさないように》

「はいはい。わかってるって」


 そもそも、俺よりも問題を起こしそうな人達がいっぱい居るからな……。


《うむ。じゃあ、またね》

「ああ、また」


 通話を終え、俺はさっさと着替えようと戻る。

 

「あれ? 白峰先輩。まだ着替えていなかったんですか?」


 そこに居たのは、白峰先輩だけだった。

 慶佑はすでに着替えて更衣室から出ていったみたいだな。

 俺は、ずっとバッグの中を見て固まっている白峰先輩を横目にシャツを脱ぐ。

 

「……」

「先輩?」


 返事がない白峰先輩の様子が気になり、その原因であろうバッグの中身を覗く。


「こ、これは……!」

「ど、どうしよう零くん」


 入っていたのは。



・・・・



「おーい! こっちだこっち!!」

「女子達はまだ来てないみたいだぞ。……ん? 白峰さんはどうした? 零。それに後ろに居る子は誰だ?」


 水着に着替えた俺は、先に移動していた康太と慶佑の元へ。

 まだ女子達は来ていないようで、康太はかなりそわそわしている。

 そんな中、慶佑が俺の後ろに隠れている人物に気づく。

 

「あれ、しーーーむぐっ!?」

「リオって言うんだ。知り合いなんだけど、たまたま遊びに来ていたみたいでな」


 余計なことを言おうとした康太の口を塞ぎ、白峰先輩……ではなくリオを紹介した。

 

「は、初めまして。リオって言います」

「どうも。零の友達の慶佑です」


 なぜ白峰先輩がリオとなったのか。

 それは着用している水着にある。

 白峰先輩が着用している水着は、完全に女物。

 シンプルな白いワンピース。

 ひらひらなスカートに、胸元には小さなリボンがついている。

 若干子供っぽさはあるが、それが良いのだと言わせる魔力のようなものがある。

 そんな水着だ。


「お、おい。どういうことだ? 確か白峰先輩は男物の水着を持ってきたって電車で言ってなかったか?」


 康太もなんとなく察したようで、声を潜めて聞いてくる。

 

「それがな」


 あれは今から五分ほど前のこと。

 白峰先輩のバッグには、男物の水着ではなく今着用している女物だった。

 入れたはずのものがなく、まったく知らない水着が入っていたことに動揺した白峰先輩。

 さすがに水着は恥ずかしいと、俺と一緒に男物の水着をレンタルしようとしたのだが……。


「はあ? めまい?」

「ああ」


 男物の水着をレンタルしようとすると、白峰先輩が急なめまいに襲われてしまった。

 心配した俺は一旦先輩を休ませるために離れると、ぱっとめまいがなくなってしまう。ならば、また水着をレンタルしようとするとめまい……その繰り返し。終いにはワンピースを着るのです、という囁きが脳内に響いてくるらしく。


「おいおい、呪いかなにかか?」


 白峰先輩も俺達とプールで遊ぶことを楽しみにしていたので、このまま帰るのは……ということで、仕方なく入っていた水着を。

 

「大変だった……周りには他にも客が居たからな。人気のない端っこで俺が壁になるように前に立って、タオルで体を隠しながら。更衣室を出る時も……」


 俺はこの不可思議な現象を確かめるためにキュアレに聞いてみた。

 

『なあ、どういうことかわかるか?』

『あー、たぶん男の娘好きの神のせいじゃない? 彼女、二次元世界ならやっぱり男の娘は必要! って豪語してたし』


 本当にろくな神がいないな。


『ちょっと聞いてみる』


 どうやらその神に聞いてみてくれるようだ。

 しばらくすると。


『やっほー、おひさ。ねえ、もしかしてだけど。さっき……え? ほほう。それはまたマニアックな』


 おい、いったいなんの話をしているんだ?


『あっ、今はそういうのはいいの。私が聞きたいのはね。さっきとある人物に干渉しなかったかーって……ふむふむ』

「それにしても、女子遅いな」


 と、周囲を見渡す慶佑。


「おいおい。俺達男子と違って女子の着替えは手間がかかるんだぞ?」

「なんでそんなことをお前が知ってるんだよ」

「アニメで言ってた!」

「あー、そうかい」


 それはともかくとして、確かに遅いな。

 まさかすでにナンパされているってことはないよな?


『やっぱりかー、もうだめだよ? 興奮のあまりそんなことしちゃ。はいはい。それじゃ、またねー』

『どうだった?』

『犯人的中』

『はあ……』

『まあまあ。彼のような男の娘が誕生したのは彼女のおかげなわけだから。少しぐらいは勘弁してあげてよ。ね?』


 ね? と言われてもな……。

 とはいえ、改めて実感した。

 やはり神はとんでもない存在ということを。

 そして……この世界に関わる神は変なのしかいないということを。


「ど、どうしよう。ば、ばれないかな?」


 眼鏡をとって、髪の毛を下ろし、普段の先輩とは違う装いになったのはいいが、それでもかなり不安そうだ。

 あ、白峰先輩がどうなったのかもちゃんと考えないと……はあ、さっそくトラブル発生か……。

正直、普通に海パンを穿かせようかどうかめちゃくちゃ迷っていました。

男の娘キャラって、こういう時扱いが難しいですよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちゃんとファールカップスリム版みたいなのを神は用意したのでしょうか? ワタクシそのへんがキニナリマス 間違っても18禁表紙の男の娘みたいなモッコリはいけませんよ、ご禁制デス
[一言] 神なにやってん
[一言] 普通に男子モードで恥ずかしげにしている姿を愛でるのも一興。 つまり一粒で二度美味しい!
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