第四話 狙われてる?
「うーん、なんで宿題なんてあるんだろうなぁ」
「長期休み中に遊んでばかりだとその次の学期で、ついていけなくなるからだろ」
「真面目なご回答ありがとうよ……なあ、ここってどう解くんだ?」
「ああ、そこは」
昼食を食べた後、俺は康太との約束通りに喫茶出暮で宿題をしている。
冷たいコーヒーを注文し、ひたすらカリカリと。
そんな中で、俺はここへ来る前にあおねから伝えられたことを思い出している。
あおねから伝えれたのは、俺が狙われているということ。
まあ、かもしれない、とのことだが。
あおね達と同じくこの世の闇と戦う者達。
どうやらシスター達らしいが……忍者の次はシスターか。
そういえば、セリルさんって聖女だったよな。
まさか、関係があったりするんじゃ。
「やーやー、調子はどうかね? お二人とも」
「ぼちぼちだな」
「俺は悪戦苦闘ってやつだ……そういうみやはどうなんだ?」
宿題を片付けていると、一通り接客を終えたみやが話しかけてきた。
みやは、夏休み中も店の手伝いはやっている。
とはいえ、家族も長期休みぐらいは子供らしく自由に過ごしてもいいと言っているようだが、それでもみやは働いている。
そんな中で、ちゃんと宿題ができているとは思えない。
「終わったよー」
「終わった!? い、いつ!?」
あっけらかんと言うみやに俺達は目を見開く。まだ夏休みが始まって数日だぞ?
店の手伝いもしながらなのに、俺達よりも早いなんて。
「いつの間にか?」
「なんだよそれ……」
「そういうことなら早い! みや」
「だめ」
「ま、まだ何も言ってないぞ?」
これは俺でもわかる。
宿題を写させてくれだろうな。
「我が宿題を写すとなれば、確実に先生にばれるぞ」
「そ、そこはうまく俺らしく間違いを多めにして」
「それでもだめ」
ざばっと切られた康太は、肩を落とす。
「……やるしかねぇのか」
「諦めろ。俺も手伝ってやるから」
「おう。にしても、みやは凄いよな。こんな不思議キャラなのに、勉強も、運動も、家事全般もできて。容姿も……零、お前は幸せ者だ」
「なんで、そこで俺が出てくる」
「いつでも歓迎だぜ!」
「なにをだ」
「……ふひ」
一瞬、表が出てきたぞ。
最近は大人しいが、なんだか嫌な予感がするのは気のせい、か?
あー、だめだだめだ。
俺がこうやって変に想像したら。
『フラグが立ちましたー』
ほら、これだ。
『なあ、まさかお前。未来が見えてるとかないだろうな?』
『そんな能力はないよ。確かに未来を司る神様は居るけど。私は、恋愛の神様だしー』
堕落の神様の間違いだろ。
「あ、いらっしゃいませぇ!」
からんからんっと透き通ったベルの音が鳴り響く。
それに反応して、みやは接客に戻った。
「二名様ですか?」
「ええ」
「では、カウンター席へどうぞー。丁度二つ空いてますー」
なんとなくみやの接客姿を見ようと、視線を向ける。
「……あれ?」
そこに居たのは、見覚えのある女性だった。
クリーム色の長い髪の毛に、赤いカチューシャ……セリルさんだ。
白い半袖のシャツに、藍色のロングスカート。手に持っているのは、日傘だろうか?
「お? あそこに居るのってセリルさんじゃないか?」
康太も気づき、若干興奮気味に言う。
セリルさんも気になるが、その隣。
どうやら今日は一人じゃないようで、すぐ側に少女が居た。
薄い黄色の長い髪の毛に、白いワンピース。
ここまでなら夏服を来た少女だが、注目すべきは彼女の目だ。
なんていうか、光が灯っていない。
なんだか、昔のみやを連想させる子。
「……」
え? こっちを見てる。
カウンター席に座ると、俺の視線に気づいたのか。少女は、恥ずかしげもなく真っ直ぐ俺のことを見てくる。
「お、おい。なんだかあの子、お前のこと見てねぇか?」
「ああ……」
もしかすると、あんまり見ないでと言っているのかもしれない。
なので、一度視線を外し、宿題をする。
「ご注文はお決まりですかー」
「では、アイスコーヒーとオレンジジュース。それにこのみやスペシャル? というのは」
「ああ、それはですね。この私、出暮みやちゃんが好きなものを盛りに盛ったスペシャルパフェなんですぜ、お客様!」
「なるほど。確かに、これでもかってぐらい盛ってるわね。じゃあ、スペシャルをひとつ。あっ、スプーンは二つでお願いね」
「かしこまりー!」
まさか、あのスペシャルパフェを食べるとは。
俺も一度注文したことがあったが、ちゃんと歯磨きをしないとな、と思うほどの甘い甘いパフェだった。
もちろん盛りに盛っていると言うだけあって、ボリュームも凄い。そのため数量限定なのだ。
そういえば、ここねはあれを一人でぺろりと平らげていたっけ。昼食も結構食べた後なのに……あの小さな体のどこに入るんだろうな。
「なあ」
「ん?」
「あの子、まだ見てるぞ」
「……」
うん、めちゃくちゃ見てる。
まるであの体勢で、時が止まっているかのように俺のことを見てる。
「お前、なにしたんだ?」
「なにもしてねぇよ」
「あら?」
こそこそ話していると、セリルさんがこっちに近づいてくる。
「あなた達、確か慶佑くんと一緒に居た」
「はい。まさか、こんなところで会うなんて」
「今日は、姉妹でお出かけですか?」
「姉妹? あぁ、あの子のことね」
この反応、妹さんじゃないのか? 俺の言葉に、セリルさんは少女を手招きする。
すると、無言のままこちらに近づいてくる。
「この子は、親戚の子なの。夏休み中にうちで預かることになって」
親戚の子、か。
「名前はエル。ほら、ご挨拶して」
セリルがエルの両肩に手を置きながら言うと、これまた無言で頭を下げる。
……嘘、ではないみたいだな。
念のため、能力で確認したが本名のようだ。ちなみに、セリルさんのようにぶっ飛んだ項目はない。
まだまだ清らかな体のようだ。
「俺の名前は零だ。よろしくな、エルちゃん」
「親友の康太だ! いやぁ、可愛いねエルちゃん。歳はいくつなんだ?」
「今年で十一歳になるのよ」
「へえ、十一歳ですか。……ところで、さっきからセリルさんが代わりに喋ってますけど」
「……実はね。この子、喋れないの」
やっぱりそういうことか、と康太はバツの悪そうに頬を掻く。
「すみません」
「いいのよ。あー、でもこの子のことを気遣ってくれるなら。仲良くしてくれるかしら?」
「も、もちろんです! なあ、零!」
「……そうだな」
その後、セリルさんとエルちゃんはカウンター席に戻っていく。
それからというものエルちゃんは、視線を向けてはこなくなったが……はあ。
『本当に面白い子と出会うねー。さすが主人公!』
『ここまで来ると、異世界に居る気分だよ……』
『ある意味異世界だけどね』
能力により俺は見た。
あの子……エルちゃんは。
『いやぁ、あの容姿で十八歳とはねー』
十一歳、ではなく十八歳。
二次元世界だからって、ここまでとは……エルちゃんではなく、エルさんだったのだ。




