エピローグ 未来を見据えて
「ふう。後二週間ちょいで夏休みか……長かったぜ」
「うむ。今年の夏はいつもと違う気がするぞよ」
「ああ、俺もだぜ」
「俺もそう思うが、まずは期末テストを乗りきらないと、エンジョイはできないぞ」
「うわー!! やめろー! 俺を現実に戻すなぁ!!!」
あおねとここねが謎の言葉を残した放課後。
俺達は、そろそろ訪れる夏休みについて話し合っていた。
缶ジュースを片手にな。
「だ、大丈夫だよ。僕もできる限り勉強の手伝いをするから」
「先輩ぃ!! ありがとうございまずぅ!!!」
「あははは」
本気で、白峰先輩にすがる康太。
これには、先輩も苦笑いをする。
「目指すは全員補習回避!! 楽しい夏休みを過ごすために、頑張るぜー!!」
「おっしゃあ!! 頑張るぞぉ!!!」
「お、おー!」
頑張るのはいいが、今から張り切って当時力尽きるってことのないようにな。
などと思いつつ、俺も拳を天に突き上げるのであった。
その後、日が落ちる前に解散。
俺は、キュアレの要望通り肉を多めに購入。
おすすめとされていたちょっと高めのタレも買い、アパートに帰宅。
「にしても、あの二人なにを隠してるんだ……」
姿を現したから連絡を入れたのに、まったく反応なし。
いつもだったら、すぐ既読して返信するんだが。
今回は、既読すらなし。
やっぱり、俺の監視役になったからこれまで通り仲良くはできないってことなのか?
「ただいまぁ」
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
「は?」
聞こえてくるはずがない声に、俺は視線を向ける。
そこに立っていたのは……。
「おかえりにゃー、ご主人様」
「違います、ここね。そこはもっと媚びるように!」
「難しいなぁ……」
メイド服を身に纏ったあおねとここねだった。
あおねは、犬耳を。
ここねは、猫耳を生やしており。スカートはこれ大丈夫か? というぐらい短い。
すらっと伸びた足は、むき出しになっており、肩も……って!
「なんで二人が居るんだ!?」
それもメイド服で!
「もちろん、監視役として先輩のお側に」
「まさかここに住む気か!?」
「そうなんですよー」
「だから、使用人としてメイド服を着たのだ」
いえいっと俺にピースサインをするここね。
「朝のおはようから、夜のおやすみまで。我ら、忍者メイド隊がご主人様のお世話をします!!」
「まあ、私は家事苦手なんだけど」
「あたしは全然得意なのでお任せをー!!」
う、嘘だろ……ただでさえ、あの堕女神で苦労しているのに。
しかも、二人追加? 無理だ。部屋の広さ的にも無理がある。
「まあ、嘘ですけど」
「……」
「嘘でーす!!」
真剣に悩む俺に、あおねは笑顔でダブルピースをしてみせる。
俺は、しばらくの沈黙の後。
「いひゃいでふ、しぇんふぁい!」
無言のままあおねの両頬を摘まむ。
「で? 本当はどうなんだ?」
流れるように、むぎゅっと両手であおねの顔を挟みながら問いかける。
「まあまあ。落ち着きたまえよ、零」
「そうそう。それじゃあ、喋れるものも喋れない」
「これが落ち着いていられ……って!」
キュアレと普通に会話をしようとしたが、ここねが会話に参加していたことにハッとなる。
「ここね、見えてる、のか?」
「ばっちりと」
おいおい、俺の知らぬ間に何があったんだよ。
「とりあえず、玄関先ってのも何だから。奥に行こうよ。ね?」
「……わかった」
「ほわぁ……潰れるかと思った」
状況が理解できていない俺は、とりあえず奥の部屋へと行く。
「かむらも居たのか」
「ああ」
靴から察していたが、部屋の隅にぶすっとした表情でかむらが座っていた。
勝負の時に着ていた服ではなく、普段通りの和服に戻っている。
「さて、ここからは冗談抜きでご説明をいたします」
テーブルを中心に、四方へ一人ずつ座る。
玄関方面が俺、そこから時計回りに、あおね、キュアレ、ここねとなり。いまだ部屋の隅にはかむらが。
真剣な空気、なのだが。
どうにも緊張感がない。
なんでかって? 三人の着ている服のせいだ。
メイド服にジャージ……どういう組み合わせだ、これは。
「まず、先輩が一番気になっていると思われるのは、あたし達とこちらのキュアレさんとの関係、ですよね?」
「ああ。お前ら、いつの間に知り合ったんだ?」
今まで知り合いだなんて知らなかった。
なんだか、前々から知り合いだったって感じの雰囲気だし。
「昨日です」
「昨日!?」
めちゃくちゃ最近じゃないか。
「私の方から接触したんだよね。スマホでぱぱーっと」
そういえば、連絡先だけは教えていたな。
「いやぁ、最初は驚きましたよ」
「私は神ですってきたからね」
「相変わらず馬鹿だな」
「ひどい!? 嘘じゃないもん! 本当に神様だって零は知ってるでしょ!?」
知っているが、いきなり私は神ですって送る奴を馬鹿と言わずなんという。
「で、そこから色々あって零の協力者になってもらったのだー」
「その色々を説明しろって」
「色々は色々だよ。ほら、護衛が欲しいって言ってたでしょ? それに、未来のことを見据えて彼女達を仲間にするのは良いことだと思うわけ」
未来を……。
「先輩のやっていることについてはお聞きしました。神様から特殊な力を授かったんですよね」
「それを聞いて、君がどうして【欲魔】の擬態を簡単に見破れたのか……納得した」
「便利そうだけど、大変そうだね」
そう言って、ここねは俺の頭を撫でてくる。
前もそうだったが、ここねは頭を撫でるのが好きなのか?
「彼女達は、零の監視役となったわけでしょ? だったら、好都合! 監視兼護衛をすることで零のことがよりよくわかるってものだよ!」
「それは……そうかもしれないが」
確かに、彼女達を仲間にすれば苦労も減る、か? 減るかなぁ……むしろ増えるんじゃないかって思ってしまう。
とはいえ、まだ【欲魔】に狙われる可能性があるし、まだ見ぬ異質な存在も……。
「先輩に何かがあったら、あたし達がご協力します!」
「待て。自分は協力をするとは言っていないぞ」
「えー? でも、さっきは先輩と一緒に居れば楽しそうだって」
「そんなことは言っていない。自分は、明日部零は引き寄せる力があって、それを利用できるかもしれないと言っただけで」
「見てみて」
あおねに怒鳴っているかむらを横目に、ここねは俺へスマホを見せてきた。
そこにかむらが、俺と勝負をした時に手に入れたあのカードを笑みを浮かべながら見つめている姿が写っていた。
「かむらは、零のことを認めてる。だから、協力する気になったんだよ」
「そっか。かむらが……」
「だいたい君は」
だから、勝負を自分から切り上げたのか。だったら、そう言ってくれればいいのに。
「ともかく!」
かむらの小言を断ち切るように声を張り上げて立ち上がるあおね。
「これから我ら忍者三人組は、明日部零の監視兼護衛としてご協力をします! これからはたのし……いえ! 忙しくなりますよー!!」
「おい、今楽しくなると言いかけただろ? というか、何が三人組だ! 自分を数に入れるな!!」
「今さらなにを。上からも、私達はセットにされてるんだよ?」
「なに!?」
「いやぁ、楽しくなりそうだねー」
「騒がしいの間違いだろ……」
その後、あおねが持ってきた食材を合わせて、五人で焼き肉パーティーが開かれた。
テーブルも大きなものを持ってきていることから、最初から五人でパーティーを開くことが決まっていたようだ。
「先輩先輩」
「なんだよ。肉ならまだ」
「寂しかったですか?」
肉の焼き加減を確認していると、耳元で小さく呟くあおね。
それに対して、俺はすんっとした表情でこう答えてやった。
「全然」
「もー! 素直じゃないですねー!! あっ、そっちのもう良いんじゃないですか? とったりー!!」
「なっ!? あおね! それは自分のだぞ!」
……本当に騒がしいな。
次回、第三章。
三章は、季節が夏ということもあり全体的にテンション高めの予定。