第三十二話 小さなプレゼント
「最初のところもそうだが、どうにも勝負をする場所とは思えないな」
かむらの言うことはもっともだ。
が、これでいい。
勝負と言っても、一般的な勝負とは違う。
「まあまあ。それで、何を頼む?」
「……任せる」
今は、昼時。
俺達は、ファーストフード店に来ていた。あおねの情報では、興味はあるものの頑なに行くことを拒んでいて、今回が初めてのファーストフード店なのだ。
いつも通り興味なさそうに振る舞っているが、若干声が弾んでいるように俺には聞こえた。
さて、おまかせということだから。
「お待たせ」
先に席へ移動させていたかむらのところへ、俺は注文したものを持っていく。
テーブルに品物を置くと、かむらは興味があるかのようにじっと見詰めた。
「なんだ、これは」
「知らないか? セットを注文すると一緒に着いてくる限定商品だよ。数量限定だったんだけど、俺達が注文したもので丁度最後だったみたいだ」
俺が注文したものは、人気アニメとのコラボ商品がついてくるセットだ。
ちなみに商品は、書き下ろしのキャラが描かれたカードに、その他。
全キャラ揃えるには、何度も購入しなくてはならないが、残念ながら売り切れだ。まあ、学生である俺はそこまで金はかけられないので、一枚で我慢我慢。かなり好きなアニメではあるのだが。
「ずいぶんと人気なのだな。たかがカードだというのに」
袋に入ったものを手に取って観察しながら呟く。
「観たことないか? もう放送は終わってるけど、凄い盛り上がりだったんだぞ?」
「知らないな。あおねならば、観ていたかもしれないが」
と、商品を置き、かむらはさっそく紙に包まれているハンバーガーを手に取る。
丁寧に紙を取り、ハンバーグを挟んだ丸いパンがこんにちは。
ごくりと喉を鳴らし、静かにハンバーガーをかぶりつく。
「……」
「……」
「はむ」
一瞬、目を見開いたが、反応はそれだけ。
ただ無心で、ハンバーガーを食べていく。どうやらお気に召したようでよかったと思いながら、俺はドリンクを飲む。
「そういえば、君の方はポテトではないのだな」
「ん? ああ、そうだな」
かむらの方のサイドメニューはポテトだが、俺の方は違う。
最近は、子供の栄養バランスを考えて種類を増やしているようで、俺も普段はセットを頼む時は、ポテトかナゲットなのだが、今回はサラダを選んだ。
「意外と健康を考えているのだな」
「まあ、一応はな。これでも一人暮らしをしているから、あんまり片寄った食生活にならないようには気を付けてる」
しかも、今ではわがままな同居人が居るから自然とな……。
『呼んだ?』
『呼んでない。あっ、ちゃんと食器は洗っておけよ』
『はーい。でも、いいなー。私もハンバーガーがよかったー』
『だったら外に出なさい』
『いつかは出るー』
本当に、だめだなこの神は。
「かむらは、料理とかするのか?」
俺もそろそろハンバーガーを食べようと手に取る。
「時々な。母が、料理が下手で小さい頃から苦労していた」
「そうだったのか。俺の方は、下手ってわけじゃないんだけど、結構豪快でな。父さんは、その豪快さが母さんだって言うけど」
「そうか。君のところも大変だな」
「はは。ちょっと変わってるけど、楽しい家庭だと思ってる」
これは、少し進展したと思っていいのだろうか?
ここまでこういった世間話ができなかったのだが、これもハンバーガー効果? ……なわけないか。
それから、少し壁はあるものの他愛のない会話をしながら昼食時は刻々と過ぎていく。
そして、食べ終わったものをゴミ箱に捨て、店から出ようとした時だった。
「……」
かむらがじっとカードが入った袋を見詰めていたが、俺が袋を開けたのを見て、かむらも袋を開ける。
「あちゃー、欲しかったキャラじゃないか。まあ、よくあることだが。かむらはどんなのが出た?」
「ん」
と、かむらが俺に入っていたカードを見せる。
「マジか。俺が欲しかったキャラ……」
かむらが出したのは、俺が狙っていたキャラだった。
これもよくあることだ。
欲しいと思った方は来なくて、物欲のない方に欲しいものが来る。
「なんだ、こっちが欲しかったのか?」
「まあ、な。でも、それはかむらのだからな。記念として大事にしてくれ」
まあ、再入荷した時にまた買いに来れば……手に入るかなぁ。
「君は、欲がないな」
「欲?」
「ああ。そうだ。普通なら、いらないならくれ、または交換しないか、と言っても良いのではないか? 興味のない自分が持っていても宝の持ち腐れだと言うのに」
確かに、昔から欲はないって言われていた。
別に無欲ってわけじゃないんだ。
けど、他の人達みたいに金を払ってでも! というほどの欲が湧かない。
本来なら、かむらが言ったように、交換してくれないか? と言うところだったのか?
そういえば、昔、康太と一緒にカードのパックを買った時、俺がめちゃくちゃレアなカードをたった一パックで当てた時、康太がめちゃくちゃ欲しがっていたから、普通にプレゼントしたような……。
「そうは言っても、それはかむらにって買ったものだから」
「……ふん。自分は、君からプレゼントを貰う気はない」
そう言って、かむらは俺にカードを押し付けた。
「君が持っていた方がいい」
「い、いいのか?」
「しつこい。自分は要らないと言っている」
嬉しいけど、やっぱり個人的にもやもやするんだよな。
「わかった。じゃあ、受けとる」
「それでいい」
「けど」
俺は、自分が持っていたカードをかむらに押し付けた。
「お、おい」
「交換だ」
「だから自分は」
「交換だ」
「……強情な奴だな、君は」
「かむらほどじゃないと思うけどな」
若干煽るような返しをすると、かむらはカードを受けとり、そっぽを向く。
「て、おい! どこに行くんだ!?」
受け取ったカードをパーカーのポケットに入れていると、すたすたと勝手に進んでいくかむら。
慌てて追いかけるが、止まる気配がない。
「知らん。自分は、こっちに行きたい気分なのだ」
「いや、だけど次の場所は! って、おーい!!」
その後、まったく止まってくれないかむらを追いかけるのが大変だったが、嫌な気分ではなかった。