第二十三話 DK大作戦
「かむらちゃんが零先輩に接触みたいですね」
「うん。思ったよりストレートに接触したね。かむらって、慎重そうに見えて、大胆なところあるよね」
「かむらちゃんは、ちょっと抜けてるからねー。さて」
日差しが暖かなとある日。
あおねとここねは、どこか懐かしい団子屋で三色団子を片手に今後のことについて話し合っていた。
周囲には、なにもなく。
ただただ緑豊かな草木が生えている。
まるで、その場が隔離されているかのような不思議な場所。
「ぶっちゃけ、あまり悠長にしてられなくなってますね」
あおねの言葉に、ここねはうつむく。
「零先輩には何かがあるとは思っていましたが、まさか【欲魔】を倒すほどとは」
「そのせいで、かむらが零のことを危険視してる。まだ上層部には知らせてないみたいだけど。時間の問題」
「かむらちゃんもまだ確信を得ていないから報告をしていないんでしょうね」
だから、とあおねは食べかけの団子を皿に置き、青空を見上げる。
「上に零先輩が危険だと報告される前に、作戦を実行しましょう!」
「作戦? どんな?」
「その名も」
ここねが注目する中、あおねは拳を握り締め高らかに叫んだ。
「DK大作戦!!!」
「DK大作戦?」
・・・・
「……」
俺は緊張している。
現在、ここねとのデートで訪れた展望台に来ているのだが、そこで俺はあおねとここねの二人と待ち合わせをしている。
ダブルデート? 違う。
話したいことがあるから会いませんか? という一文が送られてきて、それに了承の返事をすると、時間や場所を指定された。
今までにない本気を感じとられた。
またおふざけてやっている可能性もあるにはあるが、ここねも参加しているところから、もしかすると。
「お待たせしました、先輩」
約束時間ぴったりに、あおねとここねが姿を現す。
その表情は、決戦へと向かう戦士の如し。
「ああ。それで……話したいことって、なんなんだ?」
俺も、その表情に負けじ真剣になる。
「回りくどいことはもうなしです」
今回に限っては、おふざけはないようだ。
こんな真剣な雰囲気のあおねは始めてみる。
「先輩はなんとなくお気づきになっていると思いますが……実はあたし達」
ごくりと俺は喉を鳴らす。
「忍者なんです!!!」
「……」
うん、まあ予想通りというか。こっちはわかっていたことなんだが、本人からこうして直接言われるとどう反応すればいいのか。
少し思考していると、ここねがあおねをつつく。
対してあおねは、あっ! となにかに気づき再び俺を見詰める。
「くノ一なんです!!!」
「なんで言い換えた!?」
「あ、いや。女の忍者だからくノ一かなーと。だから、先輩も黙っていたんじゃ?」
そういうことかぁ……。
ここねもそう思っていたらしく、うんうんと首を縦に何度も振ってる。この子達、案外天然?
「いやいや、そうじゃない。どう返事をすればいいのか考えていただけだ」
「ということは、やはり先輩はあたし達の正体を見破っていたんですね?」
「まあ、な」
「……どうやって?」
やっぱり聞いてくるよな。
「私達は、正体がばれるようなことはしていなかったはず。どうやって正体を見破ったの? そして、いつから?」
さて、どう説明すべきか。
さすがに神から与えられし能力で、なんて答えたらさすがの二人でも引くか?
「……この目で見たから、てことに今はしておいてくれ」
彼女達は自分の正体を明かしてくれた。
本当は、俺もそれに応えるように明かすべきなのだろうが……。
「なるほど。了解しました。何かあたし達の想像を超える事情があるようですね」
「詳しく知りたいけど、今はそういうことにしておく」
「ありがとう。で、さっそくだが……本題に入ってくれるか?」
俺が言うと、二人はどうして俺を呼び出したのかを説明する。
自分達のせいで、俺が【欲魔】に興味を持たれたこと。同じ忍者仲間であるかむらが、危険視していること。
このままだと、俺が忍者と【欲魔】から同時に狙われてしまうかもしれないと。
それを止めるために、二人はとある作戦……DK大作戦を実行するようだ。
「話はわかった。で? そのDK大作戦っていうのはなんなんだ?」
「かむらちゃんは、先輩のことを上層部へと報告するために情報を集めています。すぐ報告しないところを見ると、かむらちゃんも先輩のことを少なからず悪い人間ではないと思っている証拠です」
「いつものかむらなら、悪と決めつけたらすぐ処罰するか、上層部に報告するから」
処罰って。
別に俺犯罪を犯しては……いや、個人情報を盗み見るという犯罪を犯してるな、うん。
『神の命令は絶対なのです。それは犯罪ではありません』
間違ってはいない。
確かに神の命だけど、法律的には犯罪の域なんだよなぁ。
「どうかした?」
「なんでもない。で? 作戦っていうのは、かむらに俺の印象を良い方向に向けさせるってことか?」
「そのとーり! もっと言えばかむらちゃんを落とすのです!!」
「落とす!?」
「あっ、別に崖から落とすとかそういうのじゃありませんよ? 恋愛ゲームの如く! 好感度を上げて!! 零先輩に惚れさせるんです!!!」
名付けて! とどこからともなくスケッチブックを取り出す。
「どきどき! かむらちゃん!! 大作戦!!!」
「ど、どきどきかむらちゃん?」
スケッチブックには、少女漫画風のかむらと……俺? が壁ドンをしていると思われるシーンが描かれていた。
うーん、目がキラキラしてて違和感が。
『実際の零は、野獣みたいな目付きだもんね』
『誰が野獣だ』
それにしても、なんかこう……いや、細かいことは気にしないでおこう。
「作戦は理解したが、大丈夫なのか? あの様子だと簡単にはいかないと思うぞ」
かなり真面目で、恋なんて興味ないみたいな感じだった。
まあ、ああいうタイプほど純情で、恋というものを知ればってパターンもあるが。
「ご心配なく。かむらちゃんのことはかなり! 熟知しているこの朱羽あおねが全力サポートします!! ……責任は、あたしにありますから。それで先輩が危ない目に遭うのは見過ごせません」
「あおね……」
作戦名と内容に関してはあれだけど、真剣に俺のことを心配したうえの行動なんだな。
「私も同様。零のことは絶対護ってみせる。まだまだ観察し続けたいから」
ここねも、いつになく真剣だ。
「……わかった。うまくやれるかはわからないけど、俺も不安のない日常を過ごしたいからな」
「ですよね! やっぱり人生楽しいが一番です!!」
「私は、まったりとしたい」
「では、今回の件が終わったら、皆で楽しく、まったりとしたことをしましょう!」
「楽しくまったりって……映画鑑賞とかか?」
「それもいいですが、もっとこう」
まあ、ひとつ不安が消えれば、また新たなってことがありそうだが、今は目の前の不安を全力で消すことに力を入れよう。
新たな協力者達と共に。