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第十五話 この世界は

「え? 木村先生の様子?」


 ある日の昼時。

 俺は、白峰先輩に木村先生のことを聞いた。

 突然の質問に、しばらく考えた後に口を開いた。


「そうだね……気のせいかもしれないけど、最近様子がおかしいかも」

「どんな風にですか?」

「うーん、何かを気にしているというか、悩んでいるというか。ごめんね、それ以上はわからないや」


 と、謝ってくる白峰先輩だが、俺は首を横に振る。


「いえ、俺の方こそ変なことを聞いてすみません」

「……えっと、このことはあまり詮索しないほうがいいんだよね」

「できれば」

「うん。だったら、詮索はしない。零くんは、意味のないことをしないって思うから」


 うーん、信じてくれるのは嬉しいんだけど、普通は気になるところだよな。

 一年の俺が、二年の教師。それも個人のことを知りたがっている。

 普通なら何かあると思って詮索してくるところ。

 

「それじゃあ、失礼します」


 白峰先輩と別れた俺は、しばらく廊下を歩きながら考え込んだ。

 他人の恋愛に首を突っ込むのは、どうかと思うが。

 どうにも気になってしまう。

 

「これも主人公がゆえってやつなのかな」


 自分で言うととてつもなく恥ずかしいが……。


「あっ」

「あっ」


 職員室から木村先生が出てきた。

 そこで、丁度よく職員室に入っていこうとしたボブヘアーの女性教師が。

 あの人は確か、木村先生と同じ二年担当の井島先生だったか?


 なんだろう。

 二人とも様子がおかしいような。

 

「あの、井島先生」

「……」


 まさか。

 俺は物陰に隠れて、能力を二人に使う。

 嫌な予感が外れてくれれば良いのだが。


「し、失礼します」

「あっ、はい」


 二人ともしばらくの間、硬直していたが、井島先生が動き出し、木村先生も動き出した。

 俺は、木村先生が通り過ぎるのを見詰めながら、息を漏らす。

 結果から言えば。



・・・・



「ほうほう? つまり二人の関係は白、ということ?」

「そうとも言いきれない。あの様子から、何かがあったってことは確実だ」


 その日の夕方。

 俺は、キュアレとレンタルしたアニメ映画を視聴しながら今日あったことを話していた。


 それは、木村先生と井島先生のこと。

 能力で、二人のことを見たが、怪しい項目はなかった。

 もしかしたら、木村先生は井島先生と衛藤先輩に言えないようなことをしてしまったのではないかと思ったのだが、白だ。

 だとしたら、あの様子をどう説明するか。

 

「俺の予想だと、二人とも何かを勘違いしていて、二人ともそれが本当か嘘か、確かめる勇気がなく」

「ずーっと、勘違いをしたままってことか。いやぁ、複雑な恋物語だねぇ」

「もし、これで二人が過ちを犯していたら、もっと複雑になっていたかもな。ほんと、この世界はどうなってるんだ……」


 ……この世界、か。

 

「なあ、キュアレ」

「なーに?」

「今更なんだが、この世界ってどういう世界なんだ?」

「説明したじゃん。二次元世界だって」

「それはわかってる。けど、一口に二次元って言ってもジャンルってものがあるだろ?」


 ファンタジー、SF、恋愛、ギャグなどなど。

 三次元にも言えることだが、ジャンルによって物語は変わる。

 今のところ、俺が歩んでいる展開を振り替えると、たぶん恋愛……だと思うが。

 最近だと、忍者とかが出てきていたうえに、初っぱなから神が出てきた。

 そのため、恋愛と言いきれない感じがしてきている。


「そうだねぇ……この世界は主神様が創ったってことは説明したよね?」

「ああ」

「でも実は、主神様だけで創ったってわけじゃないんだよね」

「は? それって、他の神様も関わっているってことか?」


 聞いてみるものだ。

 

「うん。アニメだって、たくさんの制作者さん達が知恵を絞り出して、命を削って作ってるじゃん? この世界は、二次元に感心がある神様達が、主神様に知恵と力を与えて創られたんだよ。あっ、ちなみに私も参加してます」


 つまりこの世界は、主神様を中心に神々が創ったアニメってところか。

 で、そのアニメの主人公が俺、と。

 ん? だが、待てよ。


「俺の前に主人公はいなかったのか?」


 この世界は、創造されて数十億年という時が経っている。

 その間に、俺以外の主人公が居たんじゃないか?


「もちろん居たよー。零はえっと……何代目だったかな? えへへ、忘れちった」


 神でさえ忘れるほど主人公が居たのか。

 いったいどんな人達だったんだろうな。もしかしたら、俺の前主人公をしていた人は、生きている可能性があるかもな。

 そもそも主人公って何なんだ? どういう存在なんだ? 俺は、能力を与えられるまで、特別な存在でもなんでもなかった。

 今では、主人公だって自覚してはいるが……さすがに、そこまでは話してくれない、か?

 

「主神様は、ただの傍観者だったけど、他の神々はちょいちょい介入していたねぇ」

「けど、今回は傍観者だった主神様が介入してきたと」

「そのとーり。君、主神様に期待されてるんだよ?」


 頑張れと言われても。


「すごいプレッシャーだな……」


 と、俺は頭を掻く。

 

「頑張れ、頑張れ。どうしようもない時は、私が何とかしてあげるから」


 そんな悩める肩に腕を回し、応援してくれるキュアレ。

 正直、頼りない。

 今までのキュアレを見ていたら、そう思ってしまうのが自然。


「お? そろそろクライマックス! BGMも熱い!」

「あんまり騒ぐなって、近所迷惑に」


 ピンポーン。

 

 え? インターホンが鳴った? こんな時間に誰が。

 現在の時刻は、夜の十時半。

 客が訪ねてくるような時間じゃない。いや、前は深夜に訪ねてきた幼馴染が居たが……。


「一旦ストップな」

「えー! 良いところなのにー」


 誰かを確かめるために、俺は一時停止のボタンを押してから玄関へ向かう。

 覗き穴から確認すると。


「かなみさん?」


 管理人であるかなみさんが立っていた。まさか、キュアレがうるさいから注意しに来た……って感じじゃななさそうだ。

 なんでかって?

 両手に缶ビールを持っているからだ。


「あの、こんな時間にどうしたんですか?」


 解錠して、ドアを開くとかなみさんはにっこりと笑みを浮かべる。


「こらこらー、君達。明日が休みだからって夜更かしはいかんぞ」

「え?」


 あれ? よく見たら、顔が赤い。それに呂律が若干。


「お邪魔しまーしゅ!!」

「か、かなみさん!?」


 引き留める暇もなく、かなみさんは上機嫌な声を上げて入ってくる。


「キュアレちゃーん、元気ー?」

「ふお!? か、かなみさん? どう、したの?」


 明らかに酔っぱらっているかなみさんの登場に、さすがのキュアレも驚きの声を上げる。


「おばちゃんも混ぜろー!」

「ふぎゅっ!?」

 

 完全に酔っぱらいに絡まれた感覚だ。抱きつかれたキュアレは、どうしたものかと硬直している。

 かなみさんって酔っぱらうとこうなってしまうのか。


「ほれほれ、青少年。さっさと座れー。アニメの続き観ようじぇー」

「ラストシーンですけど」

「再生せよ!!」

「……はい」

「さ、酒くしゃい」


 その後、明日観ようと思っていた分のアニメシリーズも連続して観ることになり、かなみさんが眠ったのは深夜になってから。

 無理やり酒を飲まされたキュアレを先に寝かせ、俺はかなみさんを管理人室へと運んでから就寝したのだった。

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