第十三話 禁断の恋の行方
「んー!!」
五月なんてあっという間だった。
ここねとのデートから、何事もなく毎日が続いた。
ここね自身はまだ俺のことを怪しんでいる節があるが、それでも最初の頃と比べればマシになったかもしれない。
今では普通に遊ぶ仲として接している。
「お? 青少年。気分は晴々って感じか?」
「かなみさん。おはようございます」
雲ひとつない晴天。
そんな空の下で背伸びをしていると、アパートの管理人であるかなみさんが声をかけてきた。
「悩みは消えたのか?」
「ええまあ。完全にってわけじゃないですけどね」
「そりゃあ、よかった。また何かあったら、おばちゃんに遠慮なく相談しなよ」
また自分のことをおばちゃんって。
まあ、本人が良いなら俺がとやかく言うことじゃないんだろうけど。
「あ、そうだ。あんたと同棲してる外国人だけど」
一応、キュアレのことはかなみさんに言ってある。
ゴールデンウィークの時に父さんと母さんが一緒になって説明してくれたのだ。
まあ、四月の光熱費なんかが一人暮らしをしている学生にしては高かったから疑われていたようだからな。
かなみさんも何となく察してしたようで、話はスムーズに進んだ。
「いやぁ、面白い子だね。最近じゃ、一緒になって遊ぶことがあるんだけどさ」
キュアレことをなんて説明すればいいかかなり迷ったのだが、とりあえずは家賃を払ってくれるなら深くは追求しないとかなみさんは言ってくれた。
「えっと、迷惑かけたりしてませんか?」
「いやいや、そんなことはないよ。あたしも一人で居るより、誰かと一緒に何かをする方が楽しいからね」
「そ、それはよかった」
俺がいない間に、迷惑をかけているんじゃないかって心配だったんだ。キュアレは、そんなことしないよーなんていつもの調子で言うからどうにも……。
「っと、悪いね。話し込んじゃって」
「いえ、まだまだ余裕ですよ」
その後、数分ほど話し込んでから俺は学校へと向かう。
六月……もうちょっとで夏か。
「うおっ!?」
これからのことを考えながら歩いていると、背中に衝撃が。
なんだ? と振り返ると。
「み、みや?」
みやが、俺の背中に顔を押し付ける形で抱きついていた。
ん? この感じ、まさか。
「ふひっ」
あ、やっぱり。
「零くぅん」
表のみやだった。
相変わらず、興奮した様子の表みや。あの時から、出ていなかったため何が起こるのかと固まってしまう。
いや、大丈夫だ。
昔のみやじゃないはず。
「ど、どうしたんだ? 朝っぱらから」
「一緒に登校しよ?」
「お、おう」
ほら、大丈夫じゃないか。
やはりもう昔の夜這いする表みやじゃない。
「……」
「えへへ……」
なんで恋人繋ぎを。
「みや?」
「このまま登校しよ?」
「いやだが、誰かに見られたら」
「ね?」
「でもな」
「ね?」
「……わかった」
「零くんの手おっきくて、温かい……じゅる」
みやさんや、よだれが出てるぞ。
その後、俺は周囲にばれないようにみやと手を繋いで登校した。
まあ、康太には普通にばれて冷やかされたけど。
・・・・
「まったく、康太の奴……」
表みやは、学校に到着するとすぐ裏みやと変わった。
裏みやは。
「到着ー!!」
なんて手を繋いだまま手を上げた。
まだ入学して二ヶ月だが、みやのキャラは学校中に知れ渡っており、俺との仲も。
なので、周囲は相変わらずだなぁ、と見ていた。
「絶対数日はあのむかつく顔で見てくるだろうな。どうしてくれようか……」
などと悩みながら廊下を歩いていると。
「ご、ごめん。これから授業の準備があるから」
「あっ」
現在使われていない空き教室から男女の声が聞こえた。
俺はすぐ物陰に隠れた。
すると、空き教室から出てきたのは、木村先生だった。
てことは、もう一人は。
「……なんで」
やっぱり衛藤先輩だった。
まるで逃げるように去っていく木村先生の後ろ姿を、悲しい表情で見詰める衛藤先輩。
あの二人、うまくいってないのか? この前、見かけた時は普通に仲良さそうにしていたはずだが。
能力で二人の仲を確認したかったが、木村先生がすでに遠くにいて線が見えない。
線は、二人との距離が遠すぎると見えない。最低でも五メートルは近くにいないとならない。
『これは、なにかあるね』
『教師と生徒の禁断の恋だからな。普通の恋愛と違って、亀裂が入りやすいのかもな』
しばらく、呆然と立ち尽くしていた衛藤先輩は、うつ向きながら木村先生と同じ方向へ歩いていく。
俺は、壁に背を預け天井を見上げた。
『私は、途中から見たけど。どっちに問題がありそう?』
『たぶん、木村先生』
会話全てを聞いたわけじゃないから想像でしかない。
だが、木村先生は衛藤先輩を避けているように思える。
『もしかして学校にばれちゃったとか?』
『もしくは他の生徒にばれたか』
後、考えられることと言えば木村先生が衛藤先輩に言えないことをしてしまったってところか。
「……なんでこういう現場に遭遇していまうんだ、俺は」
と、頭を抱える。
俺にどうこうできるような問題じゃないし。二人とも仲がいいってわけでもない。
こういうのが一番厄介なんだよな……。
だというのに、ついつい気にしてしまう。