第九話 追う、追われる
「ようやくデートが開始されたみたいですね」
物陰からにゅっと顔を出し、サングラスをずらすあおね。
いつものツインテールをやめ、ストレートヘアーのまま帽子を深々と被っている。
そして、その後ろには。
「くそぉ、零の奴。マジでデートしやがって……羨ましいぞチクショウ!!」
「こらこら、康太くんや。静かにしないとばれてしまいますぞ」
「でも、いいのかな? こんなことして」
みや、康太、涼の三人も一緒になって変装をして零とここねを尾行していた。
皆揃って帽子にサングラスという統一した変装なため逆に目立つだろうが、四人ともそこは気にしていない。
「いいのです! だって、気になりますよね? まだ出会って間もない二人が急にデートですよ? あたしは後輩として、同級生として、気になって気になってしょうがありません……!」
ぐっと拳を握り締め、あおねは熱く語る。
それに同調するように、みやと康太も首を縦に何度も振る。
「俺も親友として零が間違いを犯さないか気になって気になって……」
「私も幼馴染として……ふふふっ」
「み、みやちゃん?」
急に不気味な笑い声を出すみやに涼はどうしたのかと顔を覗きこむ。
「え? なにがですかな? 白峰先輩?」
しかし、いつものみやだったために涼は、な、なんでもないよと笑顔で返した。
「というわけで、尾行再開です。各々方! 慎重に行きますよ……!」
「おっしゃあ……!」
「やったるぞぉっ!」
「お、おー」
涼だけはあまり気乗りがしていないが、絶対気にならないというわけではないためか三人と共に行動する。
「ひっ!?」
「な、なんだ?」
突然帽子にサングラスをかけた男女四人組が路地から出てきたことで、偶然通り掛かった少女達が怯える。
「あ、驚かせてしまいましたね。決して怪しい者ではないのであしからず」
「いや、どう見ても怪しいんですけど」
「う、うん」
あおねがフォローを入れるが、さすがにそれは無理があると少女達は言葉を返す。
「……各々方。さすがにサングラスは外しましょう。ポリスのお世話になってしまいますので」
「そうだな」
「サングラスがいけなかったのじゃな」
「それだけじゃないと思うんだけど」
こうして、サングラスを外した四人は、再び零とここねの二人を尾行するのだった。
「……通報、しなくて大丈夫かな?」
「わ、わからない」
・・・・
「……」
「どうかしたか? ここね」
なんだかさっきから様子がおかしい気がする。
まさか、さっそく俺の何かに気づいた? だが、今のところ俺は能力も使ってないし、普通にここねと手を繋いで歩いているだけなんだが。
「なんでもない。それより、あそこ行こう」
そう言って指差したのは、文房具店だった。
「意外だな」
「そう?」
「なにか買いたいものがあるのか?」
「あったら買う」
まさかデートで最初に入る店が文房具店になるとは。
でもまあ、新鮮でいいかもな。
「いらっしゃいませ」
それにほとんどと言って文房具店に行くことがないからな。
小学生の頃は、時々だが行っていたんだが。
「おっ、懐かしいなぁ」
入ってすぐ目に入ったのは、動物の形をした消ゴム。
昔は、よくみやと一緒に使ってたなぁ。
「……」
象の消ゴムを手にとって見ていると、ここねが他の動物達に釘付けになっているのに気づく。
「欲しいものあったか?」
「これ」
手に取ったのは猫の消ゴム。
やっぱり猫か。
その後も、俺達は色んな文房具を見て回った。
懐かしいものから、ほうっと声が漏れる変わったもの。あまり文房具には興味はなかったが、ここまで進化しているのを見ると、自然と欲しいという欲が湧いてきてしまう。
「つい買ってしまった」
「いい買い物だった」
入る前は買う気なんてなかったが、ここねと一緒に見て回っている内に、自然と買ってしまうほど楽しかった。
ちなみに俺が買ったのは、消しカスを磁石でくっつけ集めるという消ゴム。カバーのデザインも中々可愛いものが多かったので、ここねにオススメされてつい買ってしまったのだ。
「ここねの趣味が可愛い文房具収集だったとは」
「文房具以外にも色々集めてる。可愛いは正義だから」
「なるほど」
相手が忍者だからって色々変な方向に考えてしまっていたが、こうやって可愛いものに興奮しているのを見ると、普通の女の子って感じだな。
「よし。それじゃあ、次はどこに行くか」
「また歩きながら考える。……はい」
と、文房具が入った袋を腰に巻いていたポーチに仕舞ってから、手を差し出してくる。
俺は、その意図を察し、ここねの手を握った。
「ちょっと小腹が空いてきたな」
昼まで後二時間はある。
しかし、いつものことながら十時頃になるとなんかこう……腹が減ってきてしまうんだよな。
「からあげでも食べる?」
「……なあ、ここね。もしかしてだけど」
「なに?」
「俺のことからあげが大好きな奴だって思ってないか?」
誘いの時もからあげを添えられていた時もあったし。
きっかけもからあげが関係しているし。
「別にそうとは思ってないけど。ただ、私はからあげ好きだよ」
「そうだったのか」
てっきり肉全般が好きだと思っていた。
「もちろん肉自体が好きだけど、特に好きなのはからあげ。あれは、食べやすくて満足感もある。あっ、フランクフルトも好きだよ」
「やっぱり食べやすいからか?」
「うん」
やっぱりか。上品に食べる、というよりも食べやすさ重視ってところか?
「からあげ、食べるか」
「そうしよう」
まあ、昼までには胃も軽くなるだろ。
おそらく今日はもう一話投稿するかもしれません。