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第八話 忍者とデート

 ここねとのデート当日。

 事前に決めていた場所へと俺は向かっている。

 このまま行けば、集合時間十分前には到着するだろう。


 それにしても、誘いを了承してからは大人しいものだった。

 毎日のようになにかしら接触はあったが、ここ数日は連絡もなしどころか出会うことすらなかった。


 急に音沙汰なしになったためあおねにここねがどうしているかを聞いてみたところ、普段通りだと言う。

 まあ、あおねが本当のことを言っているかどうかだが。


「ここねは……まだ来てないか」


 丁度十分前に集合場所である駅前の広場に到着したが、ここねの姿はない。

 休日だということで、人通りが多い。

 中には完全にカップルな二人も。


「とりあえず待つか」


 ここねが来るまで俺は能力を使って人間観察をする。

 こうして自然に能力を使って観察していると、俺もずいぶんと慣れてきたなと。

 とはいえ、レベルが上がったことで見たくもない情報がはっきりとわかってしまうので、まだまだきつい。

 これに慣れろというのは難しいものだ。


「うーん……」


 さすが駅前。

 さまざまな人々が集まるため、それだけ今まで見たことがない情報が入り込んでくる。

 かれこれ十分近く能力を使っているが、ついさっき駅から出てきた俺と同い年ぐらいのめがねをかけた少年に新しい行為の名称があった。


「正直、詳しい情報を見る勇気は……」


 めがねの少年にあった行為の名称は自慰(女性用下着)だった。

 カッコの中だけで、なんとなく想像できてしまう名称。

 まあ、彼も思春期。

 そういう過ちを犯してしまうこともあるだろう。問題は、誰の下着かということだ。

 

 もし、これが家族のものだったとしたら俺がとやかく言うことではない。しかし、他人の……盗んだ下着だったとしたら?

 完全にアウト。

 とはいえ、予想が当たったとしてもどう伝えるか。

 やっぱり便利なんだが、ただ見えているだけじゃな……。


「それにしても、遅いな」


 一旦、能力を解除し、俺は時間を確認する。

 すでに、集合時間を二十分ほどオーバーしているが、ここねが現れる気配がない。

 

 まさか日時、もしくは集合場所を間違えたか? と思いここねから繰られてきたメッセージを確認するが、日時も集合場所も間違ってはいなかった。

 となると、ここね側に何かがあったということになる。

 一度連絡でもしてみるか。


「お待たせ……」

「っと。ようやく来たか」


 通話ボタンを押そうとした刹那。

 ここねが現れる。

 その表情は、若干だが気まずそうな感じに見えた。

 

「遅くなってごめんなさい」


 素直に遅くなったことを謝るここねに、俺はスマホをズボンのポケットに仕舞ってから返事をする。


「気にするな。二十分なんて待った内に入らないって。自慢じゃないが、二時間待ったこともあるからな」


 あれは、中学二年の頃だった。

 引っ越し先で仲良くなった男友達と待ち合わせをしていたのだが、友達が来たのは予定時間を二時間過ぎてからだった。

 

 謝る友達に、呆れた表情で遅くなった理由を問いかけると。

 単純に寝坊、だそうだ。

 当時携帯電話を持っていなかった俺は、近くに公衆電話もなかったため連絡する手段もなかった。

 遅れた代わりに昼飯を奢ってくれたのだが。

 このことから、二十分など待った内に入らない。

 

「その後も、一時間、一時間半、時には家で遊ぶと約束した友達がさんざん待ったあげく、やっと連絡してきたと思ったら用事ができて遊べなくなった! なんて言う始末」


 昔を思い出し、ついつい話し込んでしまったことに気づき咳払い。


「とまあ、そういうことだから」

「零は、心が広いね」

「そうか?」

「だって、それだけ待たされても、その人達とは友達で居続けたんでしょ?」

「まあな。悪い連中じゃなかったし。待つのは嫌いじゃないからな」


 なんていうか待つのに慣れてしまった感じ。

 そのためか。

 三十分待っても、なんだまだ三十分か、なんて思ってしまう。

 でも、今回に限っては今までと色々違ったので少し気にしたが。


「それで、どうして遅くなったんだ?」

「気にしないんじゃないの? ……まあいいけど。遅れたのは私だし」


 と、ここねは俺の問いかけに視線を落として呟く。


「服を、選ぶのに時間がかかっただけ」

「……」

「なに?」

「いや、ここねも女の子なんだなぁって」

「失礼だね。零は、私のことどんな風に見てたの?」


 さすがに、不機嫌になったここねはむっとした表情で俺を睨む。

 俺は、しばらく考え、素直にこう答えた。


「気まぐれな猫娘?」

「なにそれ。まるで人のことを普通じゃないみたいに」


 いやまあ、実際普通じゃないとは思っているんだが。

 

「悪い悪い。そうむくれるなって」

「頭を撫でて誤魔化す気?」

「そういうわけじゃないんだが」


 それにしても、服を選んで遅くなったか。

 確かに、今日着ている服はいつものと違うな。

 いつもは翡翠色猫耳パーカーだが、今回は白だ。それに加えて下は赤のスカートに、スパッツか。

 マスクもしていないようだし、いつもと色々違うっていうのは明白だな。


「それじゃあ、さっそくデートをしようか」

「よろしく」


 さて、このデートでここねはいったい何を求めているのか。それを知ることができれば良いんだが。

 

「おっ」

「デートだから」


 と言ってここねは俺の手を握り締める。

 

「積極的だな」

「やるからにはちゃんと楽しみたいから。それとも、嫌?」

「そんなことはないって」


 俺もここねの小さな手を握り返す。


「それで? 行きたいところ、やりたいことは決まってるのか?」

「特には。歩きながら、気分次第で」

「はは。そうくるか」


 少しは計画は立ててくると思っていたが……まあこれも計画の内かもしれないけど。

 楽しみつつ、油断しないように心がけよう。

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