第五話 お手柄高校生?
白峰先輩との買い物は、何事もなく時間が過ぎていく。
普通に洋服屋に入ったり、雑貨屋に入ったり。
可愛いものに目を輝かせる先輩は、端から見たら完全に女子。
俺は男だと知っているが、様々な店の店員さん達は、先輩に対して、女子だという認識の下接待をしていた。
そして、何度も俺が彼氏だと勘違いされ、先輩は大慌て。
「買いたいものはなかったんですか?」
様々な店に立ち寄ったが、先輩は結局なにも買っていない。
「いっぱいあり過ぎて迷い中、かな」
確かに、これも欲しい、あれも欲しいと呟いていたからな。
買いたいものがあっても、金は有限。
欲しいもの全てを買うなど、稼ぎがいい大人でもない限り無理だろう。
しかも、白峰先輩が欲しがっているもののほとんどは服。
雑貨系ならともかく服は買えばかさばるし、値段もそれなりに高いものが多い。
慎重に考えるのは当たり前だ。
「まあ、見て回るのも買い物の楽しみですからな」
「ごめんね」
「別に謝る必要はないですね。先輩の楽しそうな姿が見れて、新鮮でしたからね。女の子らしくて」
「ぼ、僕は男だよ!」
そう言いますがね。
今の格好だと男だって言っても、誰も信じないですよ。
「あっ、そこの仲の良いカップルさん達! おひとついかがですか?」
「え?」
「ぼ、僕達のこと?」
白峰先輩との会話を楽しんでいると、どこかの店員のお姉さんに呼び止められる。
差し出された用紙を受けとると、そこにはカップル限定商品発売中と絵つきで書かれていた。
「カップル限定品……食べてみます?」
「いや、あの僕達カップルじゃ」
「え? そうなんですか? とても仲が良さそうなのでてっきり……」
やはり端から見たら、俺達はカップルに見えるのだろうか。
それにしても、カップル限定品か。
美味しそうではあるが、まあ嘘はいけないよな。白峰先輩にも迷惑をかけるし。
「すみません。俺達は、友達同士なんです」
「いえ、こちらこそ。失礼しました」
用紙を返し、俺達はその場から立ち去っていく。
「び、びっくりしたぁ」
立ち去った後、白峰先輩はほっと胸を撫で下ろし、俺のことをじと目で睨んでくる。
「零くん。僕の心臓がもたないから。あ、あんまり冗談を言うのはやめてね?」
「いやぁ、すみません。甘いものが好きなもので」
「僕も好きだけど、さすがにカップル限定っていうのは」
「先輩は食べたくなかったんですか?」
俺の問いかけに、視線を外し静かに頷く。
「まあ、食べたかったかな」
「ですよね。あのハート型のチョコレート。色からしてイチゴとミルクがたっぷり使われているかもしれないですね」
宣伝用紙に描かれていたスイーツのことを考えていると。
「だ、誰かぁ! 引ったくりだぁ!!」
「引ったくり?」
そんなことがリアルで……って、この世界だったらありえそうだが。
男の声に、俺は革製のバックを抱え必死に走っている男を視認する。
マスクにサングラス、ニット帽。
いかにもそれっぽい格好をしているためわかりやすかった。
能力により名前を確認。
年齢や職業などもわかった。
よし、保険はこれでよし。
「待て!!」
目の前で起こった犯罪を無視することはできないよな。
「あっ、零くん! 危ないよ!!」
「大丈夫です! そこまで深追いしませんから!!」
俺が正面から走ってくるのを見て男は、咄嗟に細い道へと入っていく。
逃がすかよ。
・・・・
「……正義感が強い人だね」
「うーん、かっこいいですよねぇ。でも、見た感じ引ったくり男の方が足が早そうですね」
変装をしたうえに、姿を隠しながら零の行動を観察していたあおねとここね。
引ったくり犯を追いかける零を見て、ここねは一歩踏み出す。
「おや? 手助けするのですか?」
「犯罪者は見逃せない」
「あたし達も犯罪者みたいなものですがねー」
「私達のは必要な行動」
「でも、ここねは最近個人の感情で不法侵入しましたよね?」
「……それも必要な行動だから」
そう言って、ここねは駆け出す。
「必要な行動、ですか。ま、そういうことにしておきましょう。とう!!」
ここねを追いかけるようにあおねも駆けた。
最短で、犯人が行きそうな道を予測し、先回り。
丁度良いタイミングで、男が路地に入ったきた。
それを狙い、ここねは目の前に降り立つ。
「なっ」
「成敗」
そして、すぐさま腹部へと強烈な打撃を叩き込む。
一瞬にして意識を刈り取られた男は、その場に倒れる。
「およ? もう終わったんですね」
「仕事は迅速にだよ」
「さすがここねですね。後は」
「待てぇ!!!」
「おっと、来たみたいですね」
零の声が聞こえ、あおねとここねは男をその場に残し去っていく。
「さすがに、もう……あれ?」
完全に姿を見失ったと思っていた零は、路地で倒れる男の姿を見て唖然とする。
ゆっくりと近づき、演技じゃないかと不審に思いつつ、男を仰向けにする。
「……気絶してる。けど、なんで? さすがに転んだ、だけじゃ無理があるよな」
どうして気絶していたのかかなり気になったが、零は警察に連絡をする。
その後、引ったくり犯を捕まえた正義感のある少年として称された。しかし、心の底からは喜べなかった。