第三話 興味を示す猫忍者
月明かりが照らす暗闇の中で、二人の少女はジャングルジムの天辺に腰かけていた。
一人は、朱羽あおね。
夜の寒さから、湯気たつ温かな缶のココアを両手で包むように持って、ちびちびと飲んでいた。
「それで? どうするんですか?」
背中合わせに座っているもう一人の少女である樹戸ここねに問いかける。
ここねは、猫口のマスクをずらし、フランクフルトを一口食べる。
「調べる」
「ですよねー」
ここねの返しに、わかっていたとばかりに笑みを浮かべるあおね。
「あのお兄さんからは不思議な感じがする。あおねも、そう思ってお兄さんと一緒に居るんでしょ?」
「えー? あたしは、ただ零先輩と一緒に居れば楽しいことがいっぱい起こりそうだなーって思って一緒に居るだけですよ」
にこにこと楽しそうに語る。
そんなあおねを見たここねは、今はそういうことにすると呟き、くるっと身を一回転させながら、ジャングルジムから飛び降りる。
「今から調べに行くんですか?」
「もちろん」
「ほどほどにー」
ここねは静かに頷くと、闇に消えていく。
「そう簡単に情報が集まるとは思えませんけどねー。ふいー、あったかー」
・・・・
「ふわぁ、ねむ」
昨日は、夜遅くまでキュアレに付き合ってたせいか寝不足だ。
新作格ゲーだからって、対戦してー! とか駄々をこねて大変だった……。
こっちは学校があるっていうのに。
まあ、俺も最初は渋々やったが、二回、三回と対戦するにつれて本気になってしまった。
そしてそこから、キュアレも敗けが続き、ムキになっての連鎖。
で、結局深夜の二時過ぎまで対戦は続いた。
「眠そうだね」
「ああ。ちょっと遅くまでゲームを……」
ん? 今の声って。
「おはよう」
「うおっ!?」
いつの間にか俺の隣にここねが居た。
あれ、なんかこれデジャビュ?
でも、おかげさまで眠気が吹っ飛んだ。まだ体はだるいけど。
「ど、どうしたんだ?」
「お兄さんに伝えたいことがあって」
「それだったら普通に携帯を使えばよかったんじゃ。せっかく連絡先を交換したんだし」
あおねがここねを紹介した後、ちゃんと連絡先を交換しあったのだ。
「近くまで来たから」
「なにか用事でもあったのか?」
「うん。調べもの」
調べもの……まさか俺のことを調べていたんじゃないだろうな。
ここねが忍者だってことはもうわかってる。
前回も、今回もそうだが。
気づいたら居た。
まるで忍者のようではないか。もう一度、能力でここねを確認すると、やっぱり忍者とある。
正確には、学生・忍者と表示されている。あおねもそうだったが、学生をしながら忍者をしているということか。
それとも忍者をしながら学生をしているのか。
「それで、俺に伝えたいことっていうのは」
「……」
「ここね?」
なにかを伝えようとしているようだが、じっと俺のことを見詰めたまま黙っている。
な、なんだ。察しろってことなのか?
「それじゃ」
「え?」
結局なにも言わずに、走り去って行ってしまう。
「なんだったんだ?」
わけのわからないままその場に立ち尽くす俺。
猫は気まぐれだって言うけど、ここねも気まぐれで伝えるのをやめたのか?
・・・・
「ねむ……」
乱れた布団の上で、重い目蓋を擦る。
「んあ?」
寝起きのキュアレは、なにかに気づく。
カーテンが閉まった窓へ視線を向け、首を捻る。
「あー、誰か来るねこれは」
零に言われに言われ続けたことにより、キュアレも反省をし簡単にばれない方法を編み出した。
アパートの周囲に結界を張った。その結界の範囲に不審な者達入り込むとキュアレがすぐ気づく。
「もう……」
そして、それを感じたキュアレはすぐさま人の体を捨て、神へと戻る。
神の体に戻ることで、普通の人間には視認できなくなる。
だが、今回はそれだけではない。
キュアレが居るという証拠になるもの全てを消すのだ。
「あっ、入ってくる」
かちゃかちゃと玄関の鍵はあっさりと解錠され不審な者が入ってくる。
猫の仮面を被り、顔を隠しているがキュアレには正体がわかっている。
「あー、噂の猫耳フードの子か」
顔を隠しているようだが、猫耳フードのせいでバレバレだ。
『おーい、零ー』
『キュアレか。どうした? 朝食なら作って』
『それは後で食べる。それよりも、あの猫耳フードの子が侵入してきたよー』
念のため零に報告をする。
このままでは、朝食を食べれないので、ここねがいなくなるまでキュアレはゲームをして暇を潰すことにした。
ものを消すと言っても、キュアレ自身には見えており、触れることができる。ゲームだって問題なく動くのだ。
『たぶん、零のことを不審に思って色々と調べたいんだと思う』
ここねは、台所から探しており、それをゲームをしながら横目で確認するキュアレ。
『やっぱり俺のことを調べるつもりで……』
『どういうこと?』
『さっきここねと会ったんだ。なにか伝えたいことがあったみたいだけど、なにも伝えずに行ってしまったんだ』
『ふーん。あっ、こっち来た』
台所を調べ終わったここねは奥の部屋へとやってくる。
本来なら、テーブルの上にキュアレの朝食が置いてあるのだが、ここねにはそれが見えていない。
一応、今のままでも食べることができるが、人間の体のような満腹感はない。
『ちゃんとばれないようにしてるんだよな?』
『もちろんだよー。私は失敗を繰り返さない神なのだー。あっ、レア素材落ちた』
寝転がっているキュアレに近づいてくる。
が、そのまま通りすぎていく。
「……怪しいものはない。普通に一人暮らしをしている感じ」
『はやく行かないかなー』
『油断するなよ。ここねがいなくなるまでしっかり隠れているんだ』
『わかってるよー』
それからしばらくその場に止まって考え事をした後、ここねは静かに去っていく。
『よーし、帰っていった!』
『それにしても、厄介な子に興味を持たれたな……』
『そういうことなら、私にいい考えがあるんだけど』
『いい考え?』
にやりと笑みを浮かべキュアレが零に伝えた考えは。