第三話 いくつもの疑問
いつの間にか童貞を卒業していた親友から、昨晩のアニメ話を聞きながら学校に到着した俺は、今も尚、康太から話を聞いている。
そんな中で、こいついつの間に童貞を卒業したんだろうと思考している。
「でさ、その時の声優さんの声がマジでエロくてさ。目を瞑れば、これエロアニメと勘違いするぞ! ってぐらいに」
こいつは、いつもいつも俺は一生童貞のままなんだとか言ってしまう奴だった。
そんな奴が、俺が三年故郷を離れている間に、すっかり大人の階段を登っていたとは。
『なあ、どこでどうやってとか。そういう情報は表示されないのか?』
どうしても気になってしまい、今でもアパートでくつろいでいるであろうキャアレに問いかけてみた。
この能力は、確かにかなりの情報が見れる。
だが、それは単語。
どこで、何をした、などの詳しいものは表示されない。
『なになに? 君、最初はあんまり乗り気じゃなかったのに』
『まあ、やるからにはちゃんとやっておきたいからな。いいから何かあるなら教えてくれ』
『おー、もうそこに辿り着くなんて。さすがは主人公』
『茶化すな。それで、どうなんだ?』
『えっとね。今は、試運転段階。所謂、レベル一の能力止まりなんだよ』
レベル。
ますます非現実な。しかし、レベル一の段階で結構な能力だが。
『レベルはどれくらいまであるんだ?』
『うーん……たぶん五?』
たぶんって。
まあ、まだ試運転段階だから、その辺りもふわっとしてるんだろうな。
『まあ、レベルが上がってからのお楽し―――うおお! レア素材ゲットぉ!!』
「うるさ……」
「え?」
「あ、いや。なんでもねぇ。それより、話すならボリューム下げろ。内容的に、周囲の視線を集まるんだよ。特に女子からの」
というか、あいつ。
勝手に人のゲームを……。
「やっ、相変わらず仲が良いね。二人とも」
周囲の視線が集まってる中、第三者が介入してくる。
銀、に近い白い長髪、若干垂れた赤い目。
服の上からでもわかる張りのある胸。
「お前達ほどじゃねぇよ、みや」
「幼馴染ちゃん、登場だぜ。ぶいぶい」
独特なノリをかますこいつの名前は、俺の幼馴染である出暮みや。
実家は、喫茶店をやっており、引っ越す前は、その向かいに家があったためよく暇なときは通っていた。
イベント好きな明るい家族なので、客人達もそれを楽しみに来ている者達が多い。
まあ、それを無しにしても淹れるコーヒーや、作る料理はかなり美味しいのだが。
「それで? 女子達の視線を釘付けにしている理由は何なのかね? ツンツン頭くん」
と、みやは俺の肩に左肘を置き体重を預けながら問いかける。
「それがさ。昨晩のアニメが」
「そうだ、零。お父さんが、新作を作ったから食べに来てだってさ」
「……」
哀れな、康太。
話を振っておいて、これはきついだろうな。
「ふっ。やはり女子にはアニメの凄さはわからないか」
いつものことなので、康太は気にしてない様子。むしろ、なんだか嬉しそうな表情だ。
「食べに行くのはいいけど。また変なものじゃないだろうな?」
「今回はだいじょうび。我が完全監修したのだ」
「それって、親父さんのというよりお前の新作なんじゃないか?」
「そーとも言う。幼馴染の愛を受けとりたまえ」
「……はあ」
いつもの会話。
いつもの空気。
三年離れていたけど、なにも変わらない。
しかし、今の俺は変な能力を持っている。
そして、その能力で親友が童貞を捨てていたことを知り。
「なにかね?」
「いや、今日もかわいいなー、と」
「当然だよ。これでも可愛さと不思議さが売りな看板娘だからね」
幼馴染が、まさかの。
「おっと。そろそろ時間だ。席に着きましょうかね」
「……まさかな」
いくつもの疑問。
親友がどこで、誰と、どうやって童貞を捨てたのか。
そして、俺にも疑問点が見つかった。
本当は、一生わからないものかと思っていた疑問点だったが。
「キスの回数が同じか」
みやはないと思っていたが、まさかのキス(唇)が五百回。キス(頬)が七百五回。キス(額)が六百七回。
俺への疑問点がなければ、あれだったが……。
『これは確定だよ、主人公』
『だとしたら、ゾッとするんだが』
この能力を授かったとき、まず自分のことを見た。
キャアレが言うには、自分のことは鏡などで自分を映せば見れるんだそうだ。
で、衝撃を受けた。
俺はこれまで、女子、まあ主にみやとだが。手を繋いだり、体を合わせたりはした。だから、それに関しての情報はあるだろうなーとは思っていたのだが。
まさかのキスに関しての情報がとんでもなく出たのだ。
しかも、唇、頬、額と。
回数もとんでもない。
ありえないとまず思ったさ。マジで、そんな覚えがなかったのだから。
だが、みやを見て。情報を自分のと比べて確信というところまで至った。
俺……みやに夜這いされていたかもしれない。
『こんなん、どうしろって言うんだよ……』
『まだ童貞は奪われてないから、良いんじゃない?』
そういう問題じゃない。
『それにしても、あれだけやられてるのに、気づかないとは鈍感にもほどがあるんじゃない? あっ、バッテリー切れそう。充電充電っと』
返す言葉もない。
あんな不思議キャラをしておいて、まさかそんな……。
「ぶいぶい」
視線が合い、いつも通りピースサインを送ってくる。
マジで、お前……夜這いとかしてたのか?
あー、どうしたものか。
キスの回数は、ぶっちゃけ適当だったり。
もっと少なめがよかったか、多めがよかったか……。