エピローグ 新たな領域へ
《へえ、じゃあもう夜這いされることはなくなったってこと?》
「たぶん、だけどな。結局みやには二つの人格があって、普段表に出ているみやは、実は裏の人格だったんだ」
みやが一度自宅に帰った後、俺は今回の件に関わっていた父さんと母さんに進展があったことを報告していた。
まだまだ謎は残っているが、とりあえずは一段落だと。
《普段表に出ている人格が、実は裏だった……これはまだ謎がありそうね》
「ああ。だから、これからもみやのことは気にかけるようにする」
残っているみやの謎。
まずひとつに、みやは人格について。現実世界の二重人格と違い、これは明らかに創作物であるようなものだ。
まだまだみやが二重人格だというところに大きな謎がある可能性は大だろう。
そして、二つ目の謎だが。
表のみやが、俺にキスなんかした時になぜ俺は起きなかったのか。
俺がかなり眠りが深い人間だと言ってしまえば、それで終わりになるが、もしかしたらってこともある。
この世界が二次元世界だっていうことが、可能性を高まらせている。そもそも……。
「なに?」
神という存在が居るのだから。これからも油断なんてできない。
「なんでもない」
相変わらず人のジャージを着込み、ごろごろしながらゲームをプレイしている恋愛の神ことキュアレから視線を外し、母さんとの会話に集中する。
「そういうことだから、何かあったら連絡するよ母さん」
《頑張りなさいよ、零! あんたならきっとやり遂げられる! 気合い入れろやあっ!!!》
鼓膜が破れるかと思うほどの声量に、思わず通話を切ってしまった。
応援してくれるのは嬉しいけど、気合い入れ過ぎだぞ母さん。
「元気のいい人だねー」
「元気過ぎるだろ……」
だが、その元気の良さが母さんの良いところだ。
「さて」
スマホで時刻を確認した俺は、上着を着込み出掛ける準備を整える。
これから出暮家の二人にも報告をしなくちゃならないのだ。
すでにみやが、俺を出迎えてくれる準備を整えている頃。
迷惑をかけたのと、泊めてくれたお礼をしたいということらしい。俺は別にいいと言ったのだが、いつも通り勢いに負けた。
「お土産よろしくねー」
「はいはい」
いつも通りキュアレを残し、外に出る。
そして、そのまま喫茶店に向かおうと歩道に出ると。
「おっすっす!!」
向こうで待っているはずのみやが待っていた。
ちゃんと私服に着替えており、見た瞬間に懐かしさを感じた。
みやが着ている上着。
それは、みなやさんが可愛いという理由からよく着せていた獣耳フードの上着だった。
「お前、その上着」
「どうどう? 懐かしいでしょ?」
今回着てきたのは、うさぎ耳がついたもの。
おもむろにフードを被り、にっこりと笑みを浮かべる。
「ちゃーんと大人用もあるのだよ。まあ、あおちゃんに勧められて買ったばかりのやつなんだけどねー。それで、どや?」
俺に何かを言ってほしいようで、露骨にアピールをしてくる。
「……可愛いよ」
「やったー! って、それはうさ耳のことかね!?」
「みやのことだって。心配するな」
と、俺は乱暴にみやの頭を撫で回す。
「うひゃー! 突然の摩擦攻撃ぃ!?」
攻撃を受けたと言っている割に嬉しそうな声だ。
小学生の頃を思い出し、俺はその時のノリで言葉を発する。
「はっはっは! どうだ参ったか!」
「このー! お返しだー!」
みやからのお返しは、フードについているうさぎ耳で叩くこと。
うん、なんとも微妙な痛さだ。
「おいおい、全然効かないぞ?」
もっとこいとばかりに挑発すると。
「お?」
急に俺に抱きついてくる。
顔を押し付け、何かを言うと思えば無言。
急に無言になられたことから、俺もどう反応すればいいかわからず頬を掻く。
「これからもよろしくね」
「みや?」
「よーし!! 今日も楽しくいくぜー!!」
ぼそっと一言だけ呟き、離れていく。
さっきのって……表の? それとも。
気になり能力で見てみると。
「……変わりはない、か」
先日と同じく名前のぶれもなく精神は安定していた。
「おーい。早く行こうよー!」
「ああ、今行く」
まあ、今はどうでもいいか。
どっちがどうとかじゃない。
みやは、みやだ。
「それで? 今日は」
先に行くみやの隣に並び、話しかけた刹那。
「うっ!?」
「零?」
突然両目が熱くなる。
そして。
「……やっと、か」
「え? え? なにが?」
ずっと待っていた時がやってきた。
視界に表示された文字。
レベル二。
さあ、ここからは新たな領域だ。
どんなものが見えるか。
より一層の覚悟をしないとな。
そんなわけで、次回から新章。
レベルが二に上がったことで、新たな領域へ。