第三十話 休みが終わる頃に
ゴールデンウィーク最終日。
父さんと母さんが帰るので、その前にここ三年間でできた料理を食べてもらおう! とみやが提案。
本来喫茶店自体が休みだったために、貸し切り状態だ。
「さあ、帰る前に食べていってください」
「お? 小さいオムライスが三つか」
「中身が全部違うのね」
「ちなみにこれは宗英が?」
「あ、いえ。娘が……」
「だろうなぁとは思ったぜ」
カウンター席で、賑やかに会話をしながら料理を楽しむ二人。
俺は、そんな二人をホットコーヒーを飲みながら眺めている。
「宗英さんは、相変わらず料理のセンスがあれですので」
と、食べ終わった皿を下げながら苦笑するみなやさん。
ちなみに、料理を作っているのはみやだ。
俺も手伝おうかと思ったのだが、今日はゆっくりしていてと言われ、今の状態に。
こうして、まったりとコーヒーを飲むのは嫌いじゃない。
というよりもこの時間を使って、今後のことを考えるのだ。
結局、みやの件は謎のまま。
本当に別人格が居るのかいないのか。わからないまま時間だけが過ぎていった。
「零」
「ん? なんだよ父さん」
あっという間に三つのオムライスを平らげた父さんは、何やらにやついた表情で話しかけてきた。
「俺は、この休み期間で、どれほど息子が成長したのかを実感した」
「は、はあ? いきなりどうしたんだよ」
そこまで成長したか? 自分ではあまり実感がないんだが。
「午前に紹介してもらった友達なんだが」
「ああ。あおねのことか?」
本当は白峰先輩も紹介しようとしたのだが、タイミングが悪く家族と出掛けていたのだ。
なので、紹介できたのはあおねだけとなった。
で、そのあおねが。
「初めまして! 零先輩の優秀な美少女後輩こと朱羽あおねと言います!!」
インパクトのある自己紹介をしてやります! とは言っていたが、まさか自分で優秀だとか美少女とか言うとは。
ただ間違っていないから、否定できない。
「あの子は、なかなか良い子だ。かなり尖っているが、今後が楽しみになる素養を持っていると俺は感じだ」
「あら? あなたは、あおねちゃん派なの?」
「なんだよ、あおねちゃん派って」
「零の将来のお嫁さん候補のことよ。ちなみに、私はみやちゃん派ね」
それを親の前で言うか。
「みやも良い感じに成長しましたかね。容姿もそうだけど、今の時点で家事全般を完璧に身に付けている。いつお嫁さんにいっても大丈夫ですよ」
ぐっと親指を立てるみなやさん。あれ? もしかして俺だけがおかしいのか?
「うーん、まだ早いんじゃないですか?」
そう思っていたら宗英さんが、腕を組む。
よかった……宗英さんはまだまとも。
「とりあえずは最低限。ちゃんと互いに結婚できる年齢になってからじゃないと。それと、少なくとも二十歳は過ぎて……収入だって」
じゃなかった。
なんかすでに俺とみやが結婚する方向で話が進んでいるんだが。
「あ、あのさ。そういうことはまだ」
「だが今後、お前はあおねちゃんを初めとした将来の嫁候補と出会うことになると予知できる」
「ええ、それは私も思うわ。零? 新しい子と友達になる度に紹介するのよ?」
めんどくさ!
子供の将来を真剣に考えるのは良いことだが、そういうのは子供がいないところで話してほしいものだ。
その後も、親馬鹿同士の将来についての会話が続いた。
俺は、途中で抜け出し、店の前で空気を吸う。
「私、参上!」
どうしたものかと空を見上げていると、みやが登場した。
「料理はもういいのか?」
気晴らしに散歩しようと、俺は歩き出す。
「一通り作ったからね。というか、四人がなんか嫁がどーだとか、将来がどーだとかって話してたけど」
みやは、なにも聞かず当たり前のように隣に並んでくる。
「それは気にするな」
「ふむ……りょーかいであります!」
「よろしい」
それからしばらく無言のまま散歩が続く。
その間に、子供から大人まで、さまざまな人々が通り過ぎていった。とてもとても……静かな時間。
こういう静かな時間は、かなり懐かしい。
昔のみやは本当に静か、というか感情を全然表に出さない女の子だった。
最初、みやと会った時の印象は、何を考えてるかわからない奴だったからな。子供ながら、そこまで思ってしまうほど昔のみやは感情がなかった。
だからこそ、今のみやに突然なった時は、かなり引いたのを覚えている。けど、不思議とすぐ受け入れ、今のような関係になった。
「みや」
「なんですかな?」
そろそろ戻ろうと俺は立ち止まる。
だが、これだけはどうしても聞いておきたいと思い、俺は思いきって問いかけた。
「みやは……みや、だよな」
「どーしたどーした! そんな意味深な質問をしちゃって! 見ての通り、わしはみや! 零の幼馴染の出暮みやですぞ!!」
いえーい! いつも通りのテンションで答える。
やっぱり、わからない。
これが演技なのか、それとも素なのか。
情けないな……三年の空白があるとはいえ、みやのことはわかっていたつもりだったんだが。
「はは、そうだよな。変な質問して悪かった」
「いいのいいの。さて、そろそろ帰ろうぜ? ちゃんと見送りしないと!」
「ああ、そうだな。あの親馬鹿どもの会話も終わってる頃だろ」
と、俺は来た道を戻っていくと。
「零くん」
「え?」
かなり懐かしい呼び方をされ、俺はおもわず立ち止まって、勢いよく振り向く。
「うわ!? び、びっくりした……私をびっくりさせるとは、やりますな」
しかし、そこに居たのは不思議キャラなみやだった。
気のせい、か?
けど、さっきの呼び方。それに声の雰囲気……あれは、あの頃の。
「……なんでもない。急ぐぞ」
「はいなー」
能力で確認した。
そして、変わったところがひとつ。
(名前が……ぶれてた)
どういうわけか名前がぶれていたんだ。今までこんなことがなかったためかなり気になったため、キュアレに聞いてみた。
『キュアレ。さっきの見えたか?』
『さっきの? ごめん、見てなかった。何かあったの?』
『みやの名前がぶれていたんだ。どういう意味があるかわかるか?』
『名前がぶれた、ねぇ……それはあれだよ。精神が不安定だとか、そういう感じなんじゃない? 確かメモにも……あったあった。うん、やっぱりそうだね』
精神が不安定? 普段のキャラのせいで、まったくわからないが。
『もしかしたら、主人格と別人格が喧嘩しているんじゃないの? おらー! 代われやぁ! 嫌ですー! みたいな感じで』
てことは、さっきのは……みや、お前は本当に。