第二十六話 緊急二家族会議
「それでは、これより緊急二家族会議を始めるわね」
あれから数時間が経ち、俺は父さんと母さんが泊まっているホテルの一室に出暮夫婦と共に訪れていた。
会議の内容は、みやに関して。
これまで、みや本人や俺にも隠してきた真実を話すということもあり、今まで感じたことのない緊張感が部屋を覆っている。
「久しぶりだね、二人とも。帰ってくるなら、連絡してくれればよかったのに」
眼鏡のズレを直しながら息を漏らす短髪の男性。
見た目から人の良さそうなオーラを漂わせる彼は、みやの父親である出暮宗英さん。
喫茶店の店主をしており、コーヒーを淹れるのはプロ級だが、料理のほうはいまいち。時々変なアイディア料理を作ってはボツにされるのを繰り返している。
「まったくですよ。刹奈先輩は相変わらずで、安心しますが」
母さんのことを先輩と呼ぶ白色ポニーテールの女性は、宗英さんの妻でみなやさん。
みやは、ほとんどみなやさんの遺伝子を濃く受けていることがわかるほど似ている。だが、胸部はみやのほうが上だ。
「零くん? なにか言いましたか?」
「い、いえなにも」
昔から心の声でも聞こえているんじゃないかと思うほど、察しがいい人だ。
特に胸のことになると。
「相変わらず零は、みなやちゃんのことが苦手か?」
と言ってくるのは、俺の父さんである一八。
肌はこんがりと焼けており、服の上からでもわかるほどの筋肉モリモリなマッチョマン。
長めの黒髪をオールバックにし、耳にはピアスをつけている。
「いや、そうじゃないって。てか、俺のことは良いんだよ。今日は」
「……そうだな。今日はみやちゃんのことについて話し合うために集まったんだもんな」
そうだ。今日は、俺が今まで知らなかったみやのことについて話すための集まり。
ちなみに、キュアレや能力については父さんと母さんしか知らない。そのため今回は、俺がみやに違和感を覚え、母さんがそろそろ明かした方がいいという結論に至ったという経緯になっている。
「それで、零くんはどんな風にみやに違和感をもったんだ?」
宗英さんの問いに俺は予め考えてきたことを話し出す。
「違和感を覚えたのは、みやが俺に対して明らかに誘っているような言動をしたから、ですかね。今までのみやだったらまあ多少そういう素振りはありましたが、明らかに過剰になっているような気がして」
これは本当のことだ。引っ越す前にも、明らかに俺のことを誘っているような素振りを見せてはいたが、そこまで過剰ではなく、女友達があまり男だと思っていないような……そんな感じだった。
だが、高校生になって自分の体を使って誘ってきたり、好き好きオーラというかそういうのを人前であろうと関係無く出してきていた。
「最初は、みやも高校生になってまた変わったんだなって思っていたんですが」
「……僕も最近のみやには若干の違和感を感じてはいたんだ」
宗英さんが、真剣な表情で話し出すと同時にノートパソコンをテーブルの上に置いた。
「これは?」
「実はね、みやちゃんが二重人格かもしれないと思ってから、隠しカメラを設置したの」
隠しカメラだって? じゃあ、俺が寝ている間に何が起こったのかが映っているってことか。
「零くんが、引っ越してからはそれも収まったようだから、カメラは回収したんだけど」
「先日、零くんがうちに泊まるってことを聞いてもしかしたらと思って再度設置したんだ。……その映像が、これだ」
宗英さんが、パソコンに表示されていた動画を再生した。
その動画の映像は、俺と康太、白峰先輩が眠っていた客室のもの。
最初は、俺達がぐっすり眠っている映像が続く。
しかし。
「ドアが開いた」
父さんが、映像を睨む。
時間は、深夜の十二時過ぎ。
本来なら誰もが眠っているはずの時間帯。
入ってきたのは……みやだった。
本来だったら、寝起きドッキリでもしようとしているのか? と思うかもしれないが、そんな時間ではないし、映像越しからでも違うことをしようとしていることがひしひしと伝わってくる。
「真っ直ぐ零のところに……」
「まさか、またキスを?」
「いえ、これは今までになかったパターンです」
父さんと母さんは、みなやさんの言葉にどういうことだ? と首をかしげた。
俺も本来だったら、二人と同じく首をかしげるところだが、何をしようとしているのか予想できてしまった。
「これは……まさか爪を切ってるのか?」
「はい。まさに、です」
やっぱりそうだった。みやは、俺の手の爪を切っていた。
無言で、ただただ爪を切っていく。
が、ここで疑問点が浮かび、母さんが発言する。
「ねえ。これ、明かり点けてないわよね?」
そう、明かりを点けていないと言うのに、まるではっきり見えているかのようにスムーズに爪を切っているのだ。
映像でも、そこまではっきり見えない。
いくら暗闇に目が慣れたとしても、ここまでスムーズに切るのは難しいだろう。その後、俺の頬にキスをし、満足したのか部屋から静かに出ていった。
「いや、確か昔から暗闇の中で、みやちゃんは零にキスをしていたから、これぐらいは」
「でも、顔と違って爪は目が慣れても」
父さんと母さんが話し合う中で、俺は過去の映像を再生する。
これは、俺の部屋?
「悪いね零くん。君には内緒で、設置していたんだ」
「い、いえ」
「さすがにないと思っていたんだけど……きた」
俺がベッドでぐっすりと眠っている中、窓のところに人影が。
……みやだ。
静かに窓を開き、俺の隣でしばらく添い寝をしたり、顔をただじーっと見詰めたり、最後には何回かキスをして帰っていった。
「……」
映像を見て、俺は思い出す。
映像の日は、みやが遊びにきた日と同じだったということを。
そして、俺はこの頃戸締まりを全然気にしていなかった。
とはいえ、俺の部屋は二階だぞ?
「この映像を見て、戸締まりをしっかりしろよって言い聞かせるようになったんだ」
「そういえば、無駄に戸締まりはしっかりしろって……」
泥棒なんて入らないとか思ってはいたが、まさか幼馴染が侵入してくるなんて。
映像にはないが、長期休みの時は康太や他の家に泊まりに行ったこともあった。もしかすると、その時にも。
「零くんが引っ越した後は、普通だったことから。僕の勝手な想像だけど、もしかしたら零くんが側に居ることで徐々に別人格が現れるようになるんじゃないかな?」
「なるほど。可能性としてはありえるかもな」
「ということは、もう別人格が出てきているかもしれないってこと?」
「ありえるかもしれませんね」
その後も、会議は続いた。
それぞれの考えとそれを元にこうじゃないかという予想。
時間は刻々と過ぎていき、これといった結論が出ないまま会議は終わった。
てか、明日からどんな顔をしてみやと会えば……。