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第二十話 もしかしたら

「さっきは、すみません。びっくりさせちゃって。怒ってます?」

「う、ううん。確かに、びっくりしたけど。怒ってないよ」


 零、みやの二人と別れたあおね、涼は近くにあったファミリーレストランに訪れていた。

 互いに、前回で話しきれなかった分を今消化しようとしているのだ。

 

 しかし、涼は妙にそわそわしている。

 当然だ。

 女装をしているとはいえ、男子。

 こうして、女子と面と向かって会話をするだけで緊張をしてしまう。


 母、姉、妹とは普通に話せるが、それはそれ。

 やはり、家族以外の人と話すのは、まだ緊張するようだ。

 それに加え、最大の不安が涼にはあった。


(さ、さっき抱きつかれた時……ば、ばれてないよね?)


 ここへ来る前に、あおねから抱きつかれた時、胸部を触られてしまった。

 男らしくない体ではあるが、それでも男らしい部分はある。

 そのひとつが胸部。

 筋肉質ではないが、普通の女子と比べれば違和感はある。


(だ、大丈夫だよね?)


 勘違いで、胸があまりない子、と認知されていることを信じて涼は、注文したオレンジジュースでまず喉を潤す。


「そ、そうだ。この前くれたお菓子。おいしかったよ」

「おー! それはよかったです。いやぁ、限定品ってなんだか不思議な魔力がありますよね。あたし、ついつい三つも買ってしまって」

「僕も、あの後に、自分で二つ買ったんだ。家族も凄く気に入っていたよ」

「それはそれは」


 ここまでは、普通の世間話だ。

 あおねも普段と変わらない。

 やはり、気づいていない? と涼は少し緊張が解れる。


「あ、そういえば」

「なに?」


 落ち着いたところで、再度オレンジジュースを飲もうと、ストローに口をつけた。

 すると。


「リオちゃんって、何歳なんですか?」

「……」


 それはどういう意図で聞いてきているのだろう? 普通なら、見た目でわからないから。

 年上か年下を確認する。年齢が近いのなら、それなりの会話だってできる。

 しかし、涼には尋問をされているかのように聞こえてしまっている。


 もし、ここで実年齢十六歳と答えたとする。

 そこから考えられるあおねの発言を、涼は脳内で想像した。


『十六歳だよ』

『十六歳? わぁ、その割にはお胸が小さすぎませんか?』

『え? あ、あはは。そうかな?』

『実は、リオちゃんって男の子だったりして!』

『そ、そんなことないよ。もう、あおねちゃん。いきなり変なこと言わないでよ』

『疑うわけじゃないんですけど。確認、していいですか?』

『あ、ちょっとどこを!』


 一旦、手に持っていたコップを置き、視線を落とす。


(いやいや、彼女はただ純粋に僕の年齢を聞いているだけ。ばれてない……ばれてない!)


 ぎゅっと膝の上で両拳を握る。

 

「リオちゃん?」


 これ以上の沈黙は、逆に不信感を持たせる。涼は、覚悟を決めて口を開く。


「じゅ、十四歳だよ」


 そして、姿、名前だけではなく年齢まで偽ってしまった。


(こ、これぐらいだったら……)

「同年代だったんですね。いやぁ、あたしの観察眼もまだまだですね。てっきり十六歳ぐらいかと思ってました」

「あはは……」


 心苦しいが、今はなんとか乗りきることだけを考えようと、涼はその後もあおねと外面だけなら楽しい会話に花を咲かせた。

 そうして、十数分が経ち、涼に新たな危機が訪れる。


「……やば」


 小さく声を漏らし、自分の下半身に視線をやる。

 内股になり、もぞもぞと両足が動かす。

 そう、尿意だ。

 緊張のあまり、ジュースを飲み過ぎたせいで尿意が襲ってきたのだ。


 女装をしていないのなら、そのまま男子トイレに直行すればいい。

 しかし、今の涼は女装をしている。

 男子トイレに駆け込めば騒ぎになるだろう。

 かと言って、女子トイレに入るのは、恥ずかしい。


(ど、どうしよう。今のタイミングでお別れっていうのも、おかしいって思われちゃうよね?)


 まだ疑われているかもしれないという不安が残っている。

 あおねは、疑っているような素振りを見せてはいないが、それが自分を油断させる演技だったら?

 解散した後、自分の正体を確かめるために追跡をしてきたら?


「……あ、すみませんリオちゃん」

「え?」


 どうしようかと思考していると、あおねが立ち上がる。


「ちょっとおトイレに。リオちゃんは、大丈夫ですか?」

「ど、どうして?」

「なんだかさっきからもぞもぞしているみたいでしたから。遠慮なんていりませんよ。我慢は毒です」


 気づかれたからには、覚悟を決めるしかない。

 涼は、席から立ち上がり、あおねと共にトイレへと向かった。


「おっと」

「……」


 入ってしまった。

 入る時にすれちがった女性も、涼のことを見て反応を示さなかった。

 完璧に女子と認識されている証拠だ。

 しかし、涼の心臓の鼓動は激しく鳴りっぱなしである。


「では、お先にー」

「あ、うん」


 先に、あおねが入っていくの見て、涼も個室へと入っていく。


(だ、大丈夫……大丈夫)


 しばらく深呼吸をし、涼は洋式便器に腰を下ろした。



・・・・



《いやぁ、本当に楽しい時間でしたよぉ》

「それはよかったな」


 夕食を食べ終えた頃に、あおねから電話がきた。

 内容は、別れた後にリオこと白峰涼先輩と楽しく会話ができたというものだった。

 すでに、十分以上話しているが、まだまだ止まらない。

 

《それでですね。気になったことがありまして》

「気になったこと?」


 まさか。

 ごくりと喉を鳴らし、あおねの言葉を待つ。


《びっくりしますよ? もしかしたらリオちゃんは》

「リオは?」

《女装男子かもしれません!!》


 あ、うん。予想通りだな。

 しかし、かもしれない、ということは、まだ疑っている段階。

 

「どうしてそう思うんだ?」

《最初に違和感を感じたのは、抱きついた時です。お胸を触って小さいなぁっと思ったんですけど、よくよく考えてなんか違うかなぁっと》

「本当にただ小さかっただけなんじゃないか?」


 俺は男だって知ってるが。


《確かに、ちょーっとむにっとしましたが。あたしの直感が囁いているんです!》

「そう言うと、信憑性が低くなるんだが」

《パイセン。意外と直感は馬鹿になりませんよ?》


 本当に馬鹿にならない。

 あおねは、もうほぼ核心に触れている。

 

「……それで、どうするんだ?」

《どうするとは?》

「もし、リオが女装男子だったとして。お前は、どうするんだってことだ。あれだけ、仲良くしていたのにそれを理由に仲違いするのか?」

《まっさかー。むしろもっと仲良くなりたいって思っていますよ! 実を言うと、女装男子の友達はまだいないんです。やはり、男の娘は貴重ですからねぇ》


 ……まあ、あおねらしいな。

 なんとなくわかってはいたが、本人の口から言葉を聞けて、俺は笑みを浮かべる。


《それでですね。実は、リオちゃんに自信をつけてもらうために、とある計画を立てたのですが。ご協力してくれませんか?》

「とある計画?」

《はい。この計画には零先輩達のご協力が不可欠なんです》


 いつになく真剣な声音だ。

 

「内容は?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かにこの子の直感は馬鹿にならない …ちょっとむにっとしたんだ
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