第十八話 視線が気になる
「ふわぁ……」
「おお? 幼馴染くん。眠そうだね」
「いや、ちょっとそこのめがねくんがしつこくてな」
「だってよ、あんな本から出てきたかのような子と知り合ったのに、連絡先を交換できなかったんだぜ?」
リオこと白峰涼と別れた後、康太がしつこくねちねちと電話をしてきたので、若干寝不足。
電源を切ればよかったのに、俺も普通に付き合って……ま、自業自得だよな。
前の康太だったら、あんな風にはならなかったが、やはり童貞を捨てたことで変わったのだろう。
加えて、本人が言うように本から出てきたかのような美少女だったからな。本当は男だけど。
「あ、それあおちゃんから聞いたよ。絵本に出てくるお姫様みたいな可憐な子だったって。いやぁ、わしも生で見たかったですなぁ」
「ああ、特に笑顔が強烈だったぜ……」
確かにあの笑顔は可愛かった。
まあ、男なんだけど。
「まさか住んでる街にあんなお姫様みたいな子が居たなんて。リオちゃん……名字はなんて言うんだろう」
「姫城とか?」
「おお! それっぽいな!」
本当は白峰涼という名前で、男なんだけどな。
みやと康太の考察を聞きながら、俺も俺で白峰涼のことを考える。
もし本当に、あの辺りに自宅があったのなら……もしかしたら東栄生って可能性が高まってくる。
別れた場所から、一番近い学校は俺達が通う東栄。
しかし、近くの東栄ではなく、車や電車を使うような遠い学校に通っている可能性だってある。
「……」
「ん? どうしたんだ零。トイレか?」
無言で立ち上がると、当然二人は俺のことを気にする。
「まあな。すぐ戻ってくる」
「いってらー、ちゃんと手を洗うんだぞー」
「はいはい」
みやの発言に軽く答えつつ、俺は教室を出ていく。
そして、そのまま階段をのぼり、二年生の階へと足を踏み入れる。
すでに、白峰涼、十六歳、男ということはわかっている。
そのため二年生の男子を重点的に見ればいいのだ。
いや、本来なら白峰涼って人知ってますか? と聞けばいいのだが、何の関わりもないのに個人を訪ねるのはおかしいと思われる。
それに彼のほうでは、俺が東栄生の一年、ということを知っているかもしれない。
先日は、普通に学生服を着ていたからな。
そのため能力を使い確かめるのが一番だ。
……うーん、今さらだがなんで俺、男を追ってるんだ?
『つまり、そういうことだね』
『どういうことだよ』
『彼のことが非常に気になってるってことだよ!』
確かに気になっているが、なんだろう。かなり含みのある言い方をされているような。
「……居たよ」
などと会話をしていたら、意外とあっさり見つけてしまった。
二年一組の教室で、ぽつんっと何もせずただただ座っている。
まさか本当に同じ学校だったとは。
って、あれは。
『むむ! あの子は、教師と禁断の恋をしている衛藤美緒ちゃん!』
そう、能力により知ってしまった目隠れ少女衛藤美緒。
東栄教師の木村敦と隠れ恋愛をしている人だ。
まさか同じクラスだったとは。
意外なところで、新しい発見をしてしまった。彼女も、白峰先輩と同じく教室であまり目立った行動はしておらず、なにやら課題のようなものをしている。
「……とりあえず、戻るか」
同じ学校の生徒だってことは知れた。
まあ、知れたからどうなんだって話だが。
『げっへっへ。これをネタにあんなことやそんなことを! とか?』
『唐突な下衆はやめろ』
『新しい私を見て!!』
『聞くことしかできないんだが』
『あ、そうだった』
などというしょうもない会話をしながら、俺は自分の教室へと戻った。
・・・・
「うぇーい!! これぞ、スーパーコンボだー!!」
「うおお!? 俺がゲームで負けるだとぉ!?」
康太があおねと知り合ってから、放課後はいつも以上に騒がしくなった。
今日は、俺、みや、康太、あおねの四人でゲームセンターに訪れていた。正直、ゲームセンターは高校生になってからは行くことは一度もなかった。
一人暮らしということもあり、下手をすれば金が湯水のように減っていくゲームセンターは天敵だ。
なので、高校生になって初めてのゲームセンターとなる。
「くっ! あおねちゃん、マジでつえぇ!」
「ふっふっふ。あたしといい勝負ができるのは、親友ぐらいですよ」
「へえ、親友ってどんな子なんだ?」
「おや? 零先輩気になります?」
「そうだな。お前とからむような子だからな。色んな意味で気になる」
しかも、ただの友達ではなく、親友だ。
気にならないほうがおかしいだろう。
「えー? なんですか、それ。まるであたしが変な子みたいに聞こえるんですけど?」
「ノンノン! あおちゃんは、めちゃくちゃ可愛いくていい子だよ!」
「みやパイセン!」
「あおちゃん!」
がし! と感動的な抱擁をする二人。
親友とも、こんな感じのやり取りをしているんだろうか。
「ん?」
誰かが見ているような気がして、振り向く。
しかし、誰もいない。
気のせい、か?
「どうした?」
「いや、なんでも」
「そっか? なら、四人でエアホッケーしようぜ! 組合せは俺とお前! みやとあおねちゃんだ!」
確かに視線のようなものを感じたが、まあゲームセンターだから人が集まる。
偶然誰かの視線が、俺に刺さっただけかもしれない。
能力を得てからと言うもの、誰かの視線に敏感になっている。
「はっはっはっは! やったるぞ! あおちゃん!!」
「わっはっはっは! 二人の友情パワーで、男どもをメタメタにしてやりましょう!!」
「ふっ。俺達の絆を見せてやろうぜ!! 零!!」
「絆?」
「え? お、俺達親友、だよな?」
「そうですね」
「なんで、敬語なんだ!?」
特に嫌な感じはしなかった。
だから、今は気にせず、今を楽しむとしよう。
「康太よ! 貴様の絆など、私との絆に比べれば浅きものなのだ!! 幼馴染こそ、至高にして最強!!」
「な、舐めるなよ! 男同士の絆を見せてやるぜ!!」
「零先輩。実際のところ、どちらとの絆が深いんです?」
エアマイクを近づけて聞いてくるあおね。
俺は、二人のやり取りを見て、小さく笑みを浮かべながら。
「……ノーコメントで」
と答えた。
ノリノリのままエアホッケーは白熱のバトルとなった。
結果は……女子チームの勝利だった。