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第一話 その日、神が不法侵入していた

 俺の名前は、明日部零。

 東京ほどではないが、それなりに栄えている根斗町というところに十二歳まで住み、引っ越した。

 しかし、高校生になって俺は戻ってきた。


 正直、都会はあまり居心地がよくなかった。

 そのため、住み心地がよかった故郷で一人暮らしをすることにした。

 親に無理を言ってこっちの高校に入学したので、これからはあまり無理難題を言わないで、俺も大人になろうと誓った。 

 引っ越し先と違い、やはり故郷は良いものだ。

 通っている高校にも、昔馴染みが多いので気が楽。

 今日も、普通に授業をし、普通に帰宅。

 さあ、部屋でゆっくりしようと、ドアを開けた。


「やっほー、おかえりー」


 不審者が寝そべりながら出迎えた。

 鍵はちゃんとかけたし、ピッキングされた形跡もない。というか、学生の部屋に侵入するような輩はいないだろうと思っていただけに、一瞬動揺したが、俺はすぐ携帯電話を取り出す。


「ちょっと、ちょっと! いきなり携帯電話なんて取り出さない!」


 と、見た目だけなら絶世の美女な不審者が言うと、突然俺の右手から携帯電話が消えた。


「なっ!?」

「まったくもう、びっくりするなぁ」


 びっくりしたのはこっちなんだが。

 というか、携帯電話は消えたんじゃない。どうやら一瞬にして、彼女の手に移動したようだ。

 いや、違う。そんな超能力みたいなことが現実にあるはずがない。

 あれは元々彼女のもので、俺のは足元とかに……ない。


「はいはい。とりあえず、部屋に入って入って」


 まるで、自分の部屋かのような言い方だ。

 

「……」


 このまま大声を出すか、同じアパートの住人のところへ行こうと考えたが、止めた。

 俺は、そっと玄関のドアを閉め部屋に入る。


「お? 素直だね」

「なんでかはわからないけど、あんたは普通じゃないって感じたからな」


 まるで、バトルものに出てくる登場人物が言いそうな台詞だが、マジでそう感じてしまったんだ。

 こんな感覚、これまでの生活で味わったことがない。

 今は、冷静に話しているように見えるだろうが、心臓の鼓動は高鳴り続けている。


「ふふ。まあ、確かに普通じゃないかもねぇ」


 と、なぜか俺のジャージを着ている女性は、ゆっくりと体を起こし、俺を見詰める。


「なんてたって」


 一気に重苦しくなる空気。

 なんだこのプレッシャーは……!? あ、またバトルものみたいな台詞を。


「私ってば、神様だからね!!」

「嘘つけ」

「嘘じゃないですー!!」


 なんだか一気に目の前の女性がただの痛い人にしか見えなくなってしまった。

 いや、本当に。もうプレッシャーのようなものも感じなくなったし。


「それで? その神様が、俺の部屋で何をしているんだ?」


 女性は、ピンク色の長い髪の毛をいじりながら、ふふんっと笑む。

 

「君という主人公に、能力を与えに来たのだよ」

「おかえりください」

 

 なんだ。主人公って。そういう設定なのか? 


「あー、信じてないなー?」

「百パーセント信じていないわけじゃないけど、うさんくさいっていうのは本当だ」

「まあ、無理もないね。これまで普通に日常生活をしてきたから、神様だの能力を与えるだの言われてもね」


 漫画やアニメなんかの登場人物達は、こんな心境なんだろうか。

 それだけでも、貴重な体験をしたと喜ぶべきなのだろうか?


「でもね。これはガチなんだよ! 私は、神様で、君は主人公! そして、能力を与えられる!!」

「……もし、その全てが本当だったとして、なんで俺に? それにどんな能力を与えようとしているんだ?」

「お? 食いついたね」


 普通なら、無理やりにでもお帰り願うか通報するところだが、さっきの不思議現象に、謎のプレッシャー。

 ここまで、普通じゃないことが起こっている。

 ありえないことだろうが、この女性は本物なんじゃないかと思い始めているのだ。


「いいから、話してくれ」

「はいはーい。それじゃあ、説明するね。まず、私が神様だってことだけど、これは君に能力を与えることで証明したいんだけど」

「いや、待て。その能力ってのは、どんなものなんだ?」


 めちゃくちゃ怪しい笑みを浮かべながら近づいてくるので、早々に止めた。


「簡単に言えば、鑑定眼みたいなものだよ」

「鑑定眼?」


 それはあれか。

 見ただけで、相手の名前やステータスがわかるという異世界ものの定番能力のことか?

 

「そうそう。これが、めちゃくちゃすごい眼でね。なんと!」


 なんと?


「見ただけで、相手の名前や年齢だけではなく、どんな行為をしたのか! その回数だってわかっちゃうんだー!!!」


 声がでかい。

 というか、なんだその能力は。

 

「もっと具体的に説明してくれないか?」

「そうだねぇ……例えば」


 自分の唇に人差し指で触れながら考え込み、おっ! と思い付いたのか声をあげる。


「例えば、昨日まで仲良く登校したり、勉強したり、ご飯食べたり、下校したりしていた彼女が突然自分を避けるようになったとしましょう!」


 うわ、結構具体的に説明してきそう。

 しかもえぐい感じの。


「しかも、彼女は理由を聞いても作り笑顔で軽く受け流したり、習い事があるからなどと言うばかり。そんな時、この能力がありましたら色々解決! 前の日は、キスが数回だけだったのに、性行為の回数が増えている。しかし、自分じゃない。じゃあ誰が? 彼女の笑顔の下にはいったい」

「あ、うん。わかった。すごくわかった」

「あれ? そう? まだ続くんだけど」


 もういいです。自分で聞いておいてなんだが、えぐい。

 この自称神様、明るい声でとんでもない話を。

 

「つまり、その能力があればあー、こいつ昨日やったんだなってことがわかったりするんだろ?」

「そうそう!」

「で?」

「え?」


 俺は、一度ため息を漏らし、話を再開する。


「そんな能力を与えて、俺に何をさせようと? ってことだよ」


 確かに、すごいし便利そうな能力だが。

 かなり地獄だぞ。

 例えばだが、能力を与えられるまで、普通に俺達一生童貞なのかなー、なんて話していた友達が、次の日になって能力を使い見てみたらすでに童貞卒業していました、なんてことがわかったらどうすればいいのかわからないだろう。


 しかも、エロ耐性がまったくない幼馴染もすでに処女を捨てていたなんてこともわかったらどうすればいい?

 そこから、友達が幼馴染と性行為をしたんだという方向に考えてしまったら……。


「もちろん、テストだよ」

「テスト?」

「実は、主神様がね。最近、人間達って歪んでね? とか言い出してさー」

「おい待て」

「え?」


 聞き捨てならない言葉を聞いたので、俺は話を中断させる。


「主神様? お前以外にも神が居るのか?」

「当然じゃん。ちなみに、私は恋愛に関する神様ね」


 確かに、神話とかでは様々な神様が居ることにはなっているが。

 

「話、続けていい?」

「ああ」


 これは、思っていた以上に厄介なことになりそうだ。

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