エピローグ
「つ、疲れた……」
あの後、捕食者と化した四人から逃げ切った俺は、テーブルに突っ伏し息を漏らす。
まあ、主にキュアレのおかげなのだが。
みやが料理を運ぶために繋げていた空間を俺が通った後、それを閉じてくれた。なんだかんだで女神なんだなと。
「いやぁ、大変だったねぇ」
本当に大変だった。
まさかエミーナさんまであんな……やはりサキュバスってことか。でも、エミーナさんのことだから冷静になった後で、ものすごく後悔してそうだ。
勝手な想像だが。
「それで」
なんとか呼吸を整えた俺は、顔を上げる。
「どうしてかなみさんが俺の部屋に?」
そこには、いつの間にか姿を消していたかなみさんが居た。
先ほどのこともあり、俺はかなみさんを怪しんでいる。
「それが、ですねー」
なんだろう、キュアレの様子がいつもと違うような。
「いやいや、緊張しなくていいよキュアレ」
いったいなにが。
「ことは順調に進んでいるようで、嬉しいよ」
「どういうことですか?」
「おっと、この姿じゃなんだね。じゃあ」
ぱちん、と指を擦ると。
「なっ!? あ、あなたは!」
「やあ、覚えているかな青少年」
かなみさんの姿が変化する。帽子を被った長髪の少年……見間違えるはずがない。
主神様だ。
「ま、まさかかなみさんが主神様だったなんて……」
「まあ本物ではないんだけどね。これは所謂分身体。本物が降臨しちゃうと色々と世界に影響を及ぼしかねないからね」
「だとしてもですよ。まさか主神様が……はっ!? かなみさんが主神様ってことは、これまでのあれもこれもあんなことも……はわわ!?」
なにやら慌てているキュアレ。
そういえば、俺がいない間にかなみさんと暇つぶしで色々やっていたんだったか。主神様だとは知らず……今、キュアレの中では走馬灯のように過去の記憶が蘇っているんだろう。
まさに顔面蒼白。
それを見て主神様は、眩しい笑顔を向ける。
あの、それ追い打ちに。
「いやぁ、色々楽しかったよ。特に、楽しかったのは罰ゲームで食べさせられたタバスコ入りのシュークリームとか」
「ひょわー!? れれれ零ぃ!! 私を救ってー!!」
「いや、俺にどうにかできるはずないだろ!?」
この世界の主人公とはいえ、相手は世界を創造した神だぞ。
そんな存在にどうしろと。
というか、シュークリームにタバスコを入れたのか……。
「怖がらなくてもいいよ、キュアレ。僕は楽しんでいたんだからね」
いや、それは無理があるかと。
エミーナさん以上にガタガタと震えながら、俺の背後に隠れるキュアレ。人の好さそうな顔をしているが、それが逆に怖い。
「ふう……本当に気にしていないんだけど。さて、キュアレを宥めるのは後にして。本題に入ろうか」
本題。
その言葉に、俺に緊張が走る。
「君、能力が変化しているね」
「……おそらく」
「え? そうなの? ……あっ、もしかして今日の」
主神様の言う通り、能力は次の段階に移っているだろう。
なんとなく予想はできているが、明確な答えはわからない。
「能力についてだが、君のそれは相手の忘れたい記憶を夢の中で体験することで完全に消去するというものだろう」
「それってどれくらい体験することになるんですか?」
「うーん、それは僕にもわからない。なにせ、これは初めての現象だからね」
主神様でもわからないこと。
主神様の力が俺の想いによって変化した力……。
「なんだかやばい能力じゃない? 記憶の完全消去って」
「そうだね。まあ、これは零くんの優しさが能力に反映した結果だと言える」
「で、でも相手の忘れたい記憶を体験するって……絶対零の精神がゴリゴリ削られちゃう! 私の優しきハグでも癒しきれない……!!」
これは真面目に考えてくれている、んだよな?
「いくら主人公補正があろうと、能力を使い続ければ零くんの精神はもたないかもしれないね」
「で、ですよね!」
「それでだ。零くん」
「はい」
真剣な眼差しで主神様は俺を見る。
なんとなく、言いたいことがわかってしまった。
「今なら、能力を捨てることができる」
やっぱりそうか。
「で、でもそんなことしたら」
「キュアレ」
「……はい」
主神様に制され、キュアレはしゅんとする。
「さあ、どうする? 零くん」
「……このままで大丈夫です」
俺の答えに、キュアレはぱあっと嬉しそうな笑顔を見せる。主神様も、俺がどう答えるのかがわかっていたかのように笑みを浮かべていた。
「まあ、君ならそう答えると思っていたよ。でも、今の能力を使うと本当に精神が尋常じゃないほど削られる。最悪の場合、君の精神が壊れるだろう」
「わかっています。ですが、この世界にはひどい仕打ちを受けている人達が多く居ます。今の生活になって強く実感しました」
だから、俺の能力で少しでも誰かの苦しみを……取り除けるのなら。
それに。
「それに、今の生活を続けていたいですから」
苦労はある。危ないこともある。
でも、なんだかんだで俺は今の生活を楽しんでいる。
「別に能力がなくても続けられると思うけどね、君だったら」
「いやいや! 能力がなくなっちゃったら私は帰らなくちゃならないじゃないですか! 零は、私との生活を続けたいんですよ!! ね? ねっ!?」
「あ、うん。そうだな」
「あれ? なんか反応が悪い? え? ちょ……なんかそんな反応されると……私だって、泣いちゃう……」
そう言って、本気で涙が零れる。
「わーん! 零はいじめるー!!」
「たく……泣くなって。悪かったよ、素っ気ない反応して」
「謝罪するなら、ゲームに付き合って!!」
「それで機嫌直るのか……」
「あははは! 本当に仲がいいね、君達は。これこそ、僕が望んだ未来のひとつ! これからも君の活躍を期待してるよ」
キュアレが、ゲーム機を俺の頬にぐりぐり突き付けている中、主神様はすっと立ち上がり俺の肩に手を置く。
「なにかあったらかなみを頼ってくれ。できる範囲で協力するよ」
「凄く頼りになるんですが、だ、大丈夫なんですか?」
主神様の力だ。怖いものはないぐらい頼りになる。
しかし、それで世界に何かしらの影響が出たらと思うと……。
「その辺はちゃんと考慮する。僕も神として、世界が大事だからね。……っと、どうやらお客さんのようだ」
「え?」
一瞬にして主神様がかなみさんに変身すると。
「うぇーい!! 年末はまだまだこれからですよ! パイセン!!」
「零くん! 大丈夫、食べたりしないから!!」
「さあ、零様!! 新年を気持ちよく迎えるために体を清めましょう!」
「よう、少年。若干下着が濡れちゃったけど、いるか?」
「れ、零くん! さ、さっきはごめんね。私、そんなんじゃ……」
「零! どういうことか説明してもらおうか!!」
セリルさんの屋敷に俺が居ないことに気づいたみや達が、アパートに突撃してきた。
……本当、騒がしいな俺の日常は。
少し微妙な感じですが、この作品はこれにて完結です。
俺達の戦いはこれからだぁ! 的な感じですが、完結です。
久しぶりに長く書いた気がします。
それと、新作などを投稿しようかと思っています。そちらもよろしければ、評価、感想などを。
最後に、ご愛読ありがとうございました!!