第三十一話 サキュバス頑張る
無事開催された俺の誕生日会。
ここまで大掛かりな誕生日は初めてなので、正直気圧されている。
談笑している参加者達のことを主役席から眺めていると、父さんと母さんが近づいてきた。
「よっ、主役。楽しんでるか?」
と、皿いっぱいの肉料理を法張りながら挨拶してくる父さん。
「十分に楽しんでるよ。父さんこそ、いつも以上に食べてるな」
元々大食いだったが、今日は一段と食べている。
なんだかんだで、体のことを考えて食べ過ぎないようにはしていたからな。ほどよくバランスの取れた食生活を常に心がけていた。
だが、今日に限っては完全に肉、肉、肉……大好きな肉をがつがつと食べている。
「おう。こういう時ぐらい羽目を外してもいいだろってな」
「そうね。私も、ついつい食べ過ぎちゃって」
そんなことを呟く母さんの皿には、山盛りのミートスパゲティが。
しかも、本来挽肉なところをミートボールを具としている。
「母さんも、俺に負けず結構な大食らいだからなぁ」
「ふふ、あなたには負けるわよ。零も主役なんだからしっかりと食べなさいよ。飲み物ばかりじゃなくてね」
「わかってるよ。そろそろ料理を取りに行こうと思っていたところだから」
料理なら自分が取ってくる! とみや、あおね、セリルさんが言ってきたが、今日は各々自由に楽しんでくれと伝えた。
渋々引き下がったけど、さて何をしているのか。
「それじゃあ、私達はあっちの料理を食べてくるからまたねぇ」
「はしゃぎ過ぎて間違いを犯すなよー!」
はいはい、わかってますよ。
次なる料理を求めて、違うテーブルへと移動する二人を見送り、俺は静かに主役席から立つ。
向かったのは。
「ん? よう、零。これ、食べるか? マジ美味いぜ、漫画肉!!」
康太達のところだ。
そこには、康太以外にも彼女である実畑さん、白峰先輩に楓、ここねだ。
「うむ。これは実に完成度の高い漫画肉。被りついた時の溢れんばかりの肉汁が溜まらない」
「そうですねぇ、是非零さんも食べてみてくださいよ。ね?」
康太が絶賛する漫画肉。
ここねが言う通り本当に完成度が高く、いったい何の肉なのか気になるところ。
実際に食べてみろとばかりに、小さく切り分けられたものを楓が差し出してきたので、遠慮なく被りつく。
「……普通に牛、か?」
「俺も牛だと思うんだが、どうなんだろうな」
「どうやって料理したんでしょうね」
「普通にこう、ぐるぐる肉を回しながら丁寧に焼いた、んじゃないか?」
この世界だからな。
そういうのもありえるだろう。
ここのテーブルには、漫画肉以外にも多種の肉料理が並んでいる。ローストビーフだったり、焼き鳥だったり、ミートボールだったり。
とりあえず、食べやすい焼き鳥を一本手に取る。
ちなみに味付けは塩だ。
「あの、明日部、さん」
「ん?」
串に刺さった鶏肉とネギを味わっていると、実畑さんが話しかけてくる。
「今更なのですが、私が参加してもよかったんでしょうか?」
彼女の言いたいことはわかる。
他の人達と比べてそこまで仲がいいわけじゃない自分が、参加していいのだろうか? と思っているのだろう。
「気にするなって。咲ちゃんは俺の彼女として参加してるんだから。零の親友である俺が許す!」
「なんでお前が許すんだよ」
「普通は主役である零さんですよねー」
と言いつつ、別に仲がいいわけじゃないからなんて理由で参加を拒否はしない。
「別に構わないよ。とりあえずは康太の言う通り親友の彼女枠ってことで」
「あ、ありがとうございます」
「な? だからあまり気にすることないって言っただろ? ほら、あっちの料理食べに行こうぜ」
なんだかんだで心配だったが、ちゃんと恋人同士仲良くしているみたいだな。
「あ、兄さん。ほら、ちゃんと食べなよ。盛り盛りと!」
「ちょ、ちょっと! そんなに食べられないってば!」
親友のことでほっとしている中、楓が白峰先輩の皿にどんどん肉を盛っていく。
「兄さんは、細いからね。ちょっとだけ肉をつけないと」
「いや、こんな方法じゃただ脂肪がつくだけだと思うよ……」
うん、まさにその通りである。
食べるのもいいが、ちゃんと運動もしないといけない。
「はぐはぐはぐ」
ここねもよく食べるよな。
てか、もう漫画肉がまるまるひとつ平らげられている。
「ほどほどになぁ」
俺は、皿にミートボール三つとローストビーフを少々盛り、その場から移動する。
次に向かったのは。
「ふふ、まさかサキュバスだったとは」
「あ、あの、あの……」
聖女とサキュバスが対面しているテーブルである。
セリルさん、エミーナさんの他にはエルさん、かむら、霧一さん、忍者の皆様。
「いやはや、先日は失礼しましたエミーナさん」
「い、いえそんな」
年下扱いしたことを今一度謝罪する霧一さんだったが、エミーナさんは気にしてないと制す。
「それにしても、魔の存在に気づけなかったなんて……エミーナさん、あなたは相当の手練れのようですわね」
「そそそんな……私は、普通のサキュバスでぇ……」
うん、特訓の甲斐あってそれなりには話せているようだ。
「おや、どうやら主役が来られたようだ」
「まあまあ。どうぞ、零様。あ、こちらのイチゴのパイはいかがですか? それともこちらのマルゲリータを」
どうやらここの席は、パイやピザなどの小麦粉生地を使った料理が各種揃っているらしい。
「あ、零くん」
自分なりに頑張って会話をしていたエミーナさんだったが、俺のことを見つけこっちに駆け寄ろうとする。だが、すぐ足を止める。
「あのセリルさん。確かにエミーナさんはサキュバスですが、その悪い人じゃないっていうか。むしろ可愛い人というか」
「……わかっておりますよ。彼女から悪意はまったく感じられない。というか、悪さをするイメージも湧かないといいますか」
「あぁ、それは僕も思ってたよ」
「右に同じく」
「え? え? そ、それって喜んで、いいの、かな?」
エミーナさんには結構失礼かもしれないが、俺も三人に同意だ。
「失礼。それだけ、あなたは良い人、に見えたということです」
「あ、ありがとう、ございます。……えへへ」
どうやら大丈夫みたいだな。
信じていなかったわけじゃないが、これで彼女も……。