第二十七話 年上です
『―――てことがあってさー。せっかく気持ちよく寝てたのに急にだよ?』
どうやら俺達が外に出ている間に、テレジアが部屋に侵入しようとしていたらしい。
しかし、キュアレの結界が役に立ったらしく彼女は去っていった。
やっぱり、俺のことを怪しんでいるんだな。
当たり前と言えば当たり前だが。
「あ、あの」
「え? あ、はい。どうかしましたか?」
ぴったりと俺の背後に隠れていたエミーナさんが、声をかけてきた。
一通り出回ったが、意外と人と遭遇した。
その度に、エミーナさんはびくっと体が跳ね俺の後ろに隠れてしまう。
そういえば、よく挨拶を交わす近所のおばあさんは。
「おや? 零くん。妹さんかい?」
とか言ってたな。
うーん、わかってはいたけど。やっぱりエミーナさんは歳の割に幼いから年下に間違えられてもしょうがないよな。
けど本人は結構気にしているようで。
「と、年下……」
ショックを受けたように呟いていた。
「ひ、左」
「え? 左って」
エミーナさんに言われとっさに左へと視線を向けると。
「やあ」
「き、霧一さん!? い、いつから居たんですか!?」
いつの間にか霧一さんが隣に立っていた。
なんだか久しぶりだな。
なにかあったんだろうか?
「君が考え事をしていた時からだよ。それよりも君に知らせたいことがあってね」
「知らせたいこと?」
「ああ。君の誕生日会についてのお知らせだ」
ああ、やっとか。
それにしても、霧一さんが知らせに来てくれるとは。
「それなら電話かメッセージでも」
「ついでだよ。丁度手が空いてね」
まだあおね達は忙しくしているんだろうか。
「ちなみに多大な協力を得て、過去一強大な結界を準備している。君の誕生日には間に合うよ」
毎年のことらしいが、今年は過去で一番欲が溢れているようだ。
「さて、本題に入ろう。ずっと計画していた君の誕生日会の会場だが」
いったいどこでやるんだろうか。
「規模の都合上、聖女セリルの屋敷でやることになったよ」
セリルさんの屋敷って……いったいどんな規模なんだ。
それに。
「……」
エミーナさんは大丈夫だろうか? 大分慣れ始めているけど……。
「時刻は君が生まれた時間。つまり深夜の零時となる。あ、ちゃんと親御さんにも伝えてあるよ」
「ありがとうございます」
「いやいや、そこまでの手間じゃないよ。ところで」
一通り話した後、霧一さんは俺の背後に隠れているエミーナさんへ視線を向ける。
「君が、噂のエミーナちゃんだね。話には聞いていたけど、ようやく外に出れたみたいだね」
……これはまさか。
まるで霧一さんは、年下の女の子に話すかのように穏やかな声音だ。
「あの霧一さん」
「それにしても、随分と前髪が長いね。余計なお世話かもしれないが、君の可愛らしい素顔を見せれば学校でも大人気になるはずさ」
あー、やっぱり霧一さんも勘違いしているみたいだ。
そういえばエミーナさんが何歳なのかって誰も知らないからな。俺も、最近まで十代だって思ってたし。でも、エミーナさんと少しずつ仲良くなっていくうちに、エミーナさん自身が自分のことを話してくれた。
で、最近知ったのだが。
「霧一さん。彼女は」
「あ、あの」
誤解を解こうとした瞬間だった。
ずっと黙っていたエミーナさんが、俺の背後に隠れながらも小さく声を上げる。
「ん? なにかな?」
「―――じゃないです」
「え?」
「学生じゃないですっ」
「……えーと、零くん」
衝撃の事実を知った霧一さんは、俺の答えを求めるように視線を向ける。
霧一さんのこんな微妙な反応初めて見たな。
「霧一さんは、エミーナさんのことを年下だと思っているようですが……彼女は年上です」
ちなみに霧一さんの年齢は二十四歳。
エミーナさんより四歳年下なのだ。
そのことを霧一さんに話すと、しばらく考えた後。
「な、なるほど。これでも見極めは得意なつもりだったんだけど……そうか、僕より年上か」
「俺も最近知って本当に驚きましたよ……」
ずっと同年代、もしくは少し年上だと思っていたから。
まさか十歳以上も年上だったとは思わなかった。
まあ、二次元世界だからこれぐらいのことは当然なのだろう。そもそも俺の母さんもかなり若々しい容姿をしているからな。
エミーナさんは、それに加えてサキュバスだから余計に若く見えてしまうんだろう。
「すみません、エミーナさん。年上だとは知らず失礼な態度を」
「い、いえ……」
「こほん。では、僕はこれで失礼するよ。年末まで後三日。仕事もラストスパートだからね」
「あおね達にもよろしく伝えておいてください」
「ああ。では、エミーナさんもまた。次は誕生日会の会場で会いましょう」
頭を下げ、颯爽と去っていく霧一さん。
また二人きりになったところで、エミーナさんは顔を出す。
「は、はあ……緊張、したぁ」
「でも会話できてましたよ」
「そ、そうかな?」
「はい。前のエミーナさんだったらずっと俺の後ろに隠れて終わりだったと思いますから」
「そう、かな……そう、かも。えへへ、だったら嬉しいかも」
こうして、素直に自分が成長したことに喜んでいる顔を見ると、年上だとは思えないよなぁ。
つい年下と接している感覚になってしまう。
「っと、じゃあそろそろアパートに帰りましょうか」
「うん。やっぱり、急に張り切り過ぎちゃったかも。は、早く日陰に行きたい……」
予想通り無茶をしていたようだ。
わかってはいたけど、エミーナさんの意思を阻むことはできなかった。
「帰ったら何かゲームでもしますか?」
「う、うん!」
俺の提案に嬉しそうな顔で頷く。
そんなエミーナさんの手を取り、俺はゆっくりとアパートへ帰っていった。