第二十五話 まさかの
「ふわぁ……」
「おや? 眠そうですね、パイセン」
キュアレとのオールナイトゲームの影響がまだ残る夕刻。
冬休みじゃなかったらやばかったかもしれない。正直、今日は夕食を作るのもあれなので、カップ麺しようかな。
『だったら、牛丼を所望する!!』
あー、それもありだな。
途中の牛丼屋でテイクアウトするかな。
『特盛で!』
はいはい。
あ、でもそうなると一旦道を戻らなくちゃならないな。
『とーくーもーりー!!』
女神様はどうしても牛丼を食べたいようだ。
しょうがない。
「悪い。二人とも。うちの女神様が牛丼を食べたいって言うから、一旦戻る」
「じゃあ、うちらも一緒についていこうぞ」
「ですね! ついでのあたしの夕食も牛丼にします!」
「そんなので決めていいのか?」
「いーんです!!」
そんなこんなで、俺は来た道をみや、あおねの二人と戻り牛丼屋へと向かう。
その途中、美味しそうな匂いが誘惑してきたが、それをぐっと我慢する。
そして、そろそろ牛丼屋へと到着しようとしていた時だった。
「おや?」
「どうかしたか? あおね」
あおねが何かに気づいたようで足を止めた。
俺とみやはその視線の先を見詰める。
「あれって、康太?」
そう。すでに家に帰っているはずの康太の姿を発見した。
最近、我先にと帰ってしまうので、何をしているかと思えば……ん?
「それに誰か一緒に居ますな」
「パイセン。あの子って」
「ああ」
誰かと一緒に居る。
しかも、一緒に居る者に俺とあおねは覚えがある。忘れもしない……俺がまだ能力を与えられたばかりで、あおねと出会った時の。
「実畑咲さん、だったよな」
「ええ。あたしと同じ中学に通っている子です」
「え? そうなの? ふむふむ、見たところ恋仲のように仲がよろしいように見えますが? 幼馴染くん! どう思われますかな!?」
そう。二人は、まるで恋人同士のように仲がいいように見える。
実畑咲は、性欲が強過ぎて付き合っている彼氏から若干距離を置かれていた。そこで、その性欲を発散すべく以前、康太と疑似的に付き合っていたのだ。
俺は、最初康太が彼女によりただただ利用されていた、と思い込んでいたが、実際は違った。
康太は童貞を卒業するために、実畑咲は性欲を発散するために。
この関係はすでに終わっている。
そのはず、なのだが……。
「マジか」
康太に能力を使うのは久しぶりだ。
そして、久しぶりに見た友は。
「あの二人。マジで付き合ってるみたいだな」
「おー」
「まさかの展開ですね」
彼女と付き合っていた。その証拠に、二人はピンク色の線で繋がっている。もっと詳しい情報を確認すると……どうやら夏頃からの付き合いらしい。
そうか。
夏頃からなにかおかしいと思っていたけど。彼女ができたからだったのか。
そういえば、夏祭りの時に違和感を覚えて能力を使おうとしたけど中断。それ以降、まったく使わなかった。
「あ、康太。こっちに気づいた」
「凄く焦ってますね」
「いや、でも彼女の方が観念して明かそうみたいな笑顔でこっちに近づいてきてるな」
道路を挟んで向こう側の道に居た康太達は、横断歩道を渡ってこっちに移動してきた。
俺達は、その場から動かず、二人の到着を待った。
しばらくすると、実畑さんに引きずられながらようやく到着した康太は、どう話そうかと頭を掻く。
「えっとだな、これは」
まあ康太からしたら、俺には今の関係をどう説明したらいいか迷うよな。
しかし、彼女である実畑さんはそんなことなど関係ないとばかりに口を開く。
「初めまして。康太さんのお友達の方々ですよね? 実畑咲といいます。康太さんの彼女です!」
うん。迷うことなく眩しいほどの笑顔で言い切ったな。
その宣言に、康太は一層恥ずかしそうに頭を掻く。
「って、あおねちゃんじゃん」
「どもー」
やっぱり同じ中学に通っているから互いに顔見知りではあるんだよな。
さて、この状況どうするか。
能力で二人を見た限り、本気で付き合っていることは明白。
ただ……ただなぁ。
「康太」
「お、おう」
別に威嚇しているわけじゃないのだが、康太は俺の言葉に若干びくついている。
「とりあえずおめでとう」
「お、おう!」
「だけど、俺の知ってる限り。彼女……実畑さんには彼氏が居たはずだが?」
「見捨てられちゃいました」
「え?」
「これ以上は体が持たないって言われて、彼氏から見捨てられちゃいました」
なんか、こうあっさりと。
まあ、彼女の性欲の強さは今だからこそ納得できる。
以前はまだ能力が初期段階だったから気づけなかったが……。
『最近サキュバス多くない?』
そう。彼女、実畑咲はまさかのサキュバスだったのだ。
キュアレの言う通り、最近サキュバスとの遭遇率が高いように思えるが、俺が気づいていなかっただけで他にもサキュバスと遭遇していたかもしれないが。
「随分あっさりと暴露しちゃいますね」
「事実だから。自分の性欲の強さは自覚してたし、そのせいでひかれていたのもわかってた」
「ほうほう。てことは、さっちんの強過ぎる性欲を康太くんは受け止め切れているということですかな?」
さっちんて。相変わらず初対面でもすぐ距離を詰めていくなみやは。
「ま、まあな。でも、それだけじゃねぇぞ! ちゃんと彼氏らしく清く正しいこともだな」
「えへへ。そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。ちゃんとわかってますから」
焦る康太の腕に絡みつき落ち着かせる実畑さん。
「で? で? どのようにお付き合いすることになったのでしょうか?」
興味津々なあおねはどこから出したのか。マイクを二人に近づける。
「えっとだな」
話をまとめるとこうだ。
彼氏から見放された実畑さんは、毎日のように自慰でなんとか性欲を発散していたようだが、やはりそんなものでは完全に発散しきれず、ふらふらと街中を歩いていたようだ。
そこで偶然新作ゲームを買ってうきうきな気分だった康太とばったり再会。
その瞬間。
獲物を見つけた獣かのように実畑さんは、康太を無理矢理人気のない路地へと連れ込み……。
完全に襲われた康太であるが、その後に落ち着いた実畑さんから事情を聞き、前の関係をまたもつようになった。
が、そんな関係を続けるに連れて互いに魅かれ合い付き合うことになった、とのこと。
「なるほどなるほど」
「……なんていうか、うん。まあ、幸せならうん」
周囲にあまり人はいないとはいえ、よくもまあ恥ずかしげもなく話せたと俺は実畑さんを尊敬した。
「とはいえ康太」
「なんだ?」
俺は、康太の肩に手を置きそっと呟く。
「あまり羽目を外し過ぎるなよ」
「わ、わーってるって」
その言葉を信じたい、のだが。
能力によって二人がこれまでどんなプレイをしてきたのか知っているので不安でしかない。
今、普通に話している中でも、実畑さんは康太をロックオン。人差し指と親指で輪っかを作って、康太の指を包み込み上下に動かしている。
その行為に康太は体をびくびくと震わせていた。気づかれないようにしているようだが、俺を含めみやとあおねも気づいているぞ。
こうして見ると、エミーナさんは本当にサキュバスなのかと疑ってしまう。