第二十四話 違和感
お久しぶりです。
気づいていると思いますが、少しタイトルを変えました。
「ふむ。本当にただ様子を見に来ただけなのだがな……ふふ、少し事情が変わった」
「え? ど、どういう、ことですか?」
来訪者テレジアは、にやりと笑みを浮かべながらびくびくしているエミーナを見詰める。
「明日部零」
短く零の名を口にする。
エミーナは、なにか嫌な予感がして目を見開く。
「どうやらお主は、あの少年のことを気に入っているようだな」
「き、気に入っているわけじゃ……その……」
素直に仲良くしたい、と言えずもじもじと人差し指同士を擦り合わせるエミーナ。そんな彼女の様子を見たテレジアは、再び笑みを浮かべる。
「まあいい。それにしても、なんなのだ? その仮面は。お主、誰もいない部屋でも視線を気にしているのか?」
テレジアに指摘され、被っている仮面をそっと外す。
「こ、これはその……零、くんがアドバイスしてくれたことで」
「どうやらあの少年はお主のことをかなり気にかけているようだが、明かしたのか?」
その問いに首を横に振る。
「明かしたら、変な子だって思われるかもしれませんし」
「今のお主でも、十分変だと私は思うがな」
「うぅ……」
確かにと納得してしまうエミーナ。
だが、そんな変な奴のことを気にかけてくれている。零の優しさが、エミーナに勇気を与えてくれている。
だからこそ、もしそこに自分が人間じゃない。実はサキュバスなんだと伝えたらどうなってしまうのか? それで縮まってきた距離が遠のいてしまったらどうしようと不安に思っている。
「まあ、あの少年なら大丈夫だろう。ただ……」
「ただ?」
先ほどの落ち着いた雰囲気から一変し、これまで見たことのない真剣な眼差しのテレジアにエミーナは首を傾げる。
「お主。最近、なにか異変を感じぬか?」
「い、いえ特に。あ、でも零くんがこのアパートに引っ越してきてから随分と騒がしくなったというか……」
最初は、大家とエミーナだけだった寂しいアパートだった。
当時のエミーナにとってはそれが良かったのだが、今は違う。
自分もそのにぎやかな空間に入っていきたいと思っている。
「あの、どういう意味なんですか?」
真剣な雰囲気のテレジアに不安を覚えたエミーナは、問いかける。
「私の勘違いかもしれないが、このアパートは何か聖を感じる。私達、魔なる者に有害な力が」
「えっと、それってもしかしたらセリルさんが引っ越してきたから、じゃないでしょうか?」
「セリル?」
「その人、教会のシスター、みたいなので」
「……いや、この感覚はもっと高次元の……だが、ふむ」
違和感を覚えるも、その力がどんなものなのかはっきりと言えない。
こんなことは初めてだ。
これまで長く生きてきた中で感じたことがない異様な力。
魔なる者の中でも、高位の存在であるテレジアを不安に思わせる存在。それがなんなのかわからない……。
(こんな感覚は初めてだ)
「あの、ご先祖様?」
「あぁ、少し考え事をな。まあ、お主が元気で安心した。それと、しばらくこの町に滞在するゆえ定期的に様子を見に来るぞ」
「え、ええ!?」
・・・・
「ふむ。これまでの非礼、許してしんぜよう!! はぐ! はぐ!!」
「……相変わらずちょろいな、この女神」
久しぶりにある意味やばい存在と会った後、俺はぶーぶーとうるさかった女神のご機嫌取りのために夕食を作った。
今回ばかりは簡単には機嫌が直らないと思っていたが、御覧の通り簡単に機嫌が直った。
「それで? そのサキュバスはどったの?」
「エミーナさんのところへ行った」
「ほほう? てことは、エミーナもサキュバスだったってこと?」
「……かもしれない」
「む? 能力で確かめなかったの?」
テレジアにはすぐ使ったが、エミーナさんには使わなかった。
テレジアのように違和感を覚えなかったから?
「まあ、な」
「ふーん、珍しいねぇ」
「本当にな」
どうしてなのか自分でもわからない。
最初に会った時は使おうと思ったのだが、それ以降は使うことはなかった。
というか、最近能力の調子がどうもおかしいように思える。
キュアレに聞いても、大丈夫大丈夫と言う。
「んぐ……気を付けるのだぞ、人の子よ」
「なににだ?」
食べたものを飲み込み、いつもの神様モード(ノリ)で話し始める。
「サキュバスということは、精を求める。基本的欲求を解消する夢を見せて精を吸い上げる存在ですが、中には肉体から直接精を吸い上げる者達も居ます」
テレジアのあの数値を見るとその説明も頷ける。
でも、エミーナさんはあの感じからするとそういうことはない、よな?
「まあ! 私の女神パワーがある限りその心配はないんだけど!!」
「……」
むふん! とどや顔で胸を張るキュアレ。
最後まで神様モードを継続すればいいものを。
「あ、ごはんおかわり」
「はいはい」
今日は、あまりキュアレの機嫌を損ねないようにしている。
「さあ! ごはんを食べ終わったら、オールナイトゲームだからね!」
「はいはい」
だが、オールナイトなど無理があった。
途中で力尽きた俺が次に目覚めると、俺と同じく途中で力尽きたであろうキュアレのだらしない寝顔が映った。
その後、俺は眠たい瞼を擦り朝食の準備をするのだった。