第二十一話 ロックオン
「……」
「……」
エミーナさんと二人。
寒空の下で、小さなクリスマスパーティーをしたあの夜の二日後
俺は……エミーナさんの部屋でゲームをしていた。
もうエミーナさんの人見知りが直った、というわけではない。
なら、どうして彼女の部屋に居るのか。
あの後、人見知りを直すにはどうしたらいいのかと電話で話し合ったのだが、エミーナさんが試したいことがあると言い出し、学校帰りに彼女の部屋へと訪れた。
いったい何をするんだろうと考えながら待っていた俺を迎えたのは。
「……」
祭などでよくありそうなお面。
可愛らしい猫のお面を被ったエミーナさんだった。
要するに完全に見えなければ人見知りも多少は良くなるのでは? ということらしい。
その結果。
多少は気にならなくなったようで、こうして俺を部屋へと招き入れてくれたのだ。
俺としては、よかったよかった、なのだが……。
「……」
今のところ会話らしい会話をしていない。
一緒にゲームをしよう。
はい。
この会話から今のところ無言のまま三十分は経っている。
プレイしているゲームは、子供から大人まで大人気のパーティーゲーム。
NPC二人を入れて四人プレイをしている。
カチャカチャ、とコントローラーを操作する音とゲームの音だけが響く空間。
エミーナさんとこうして遊べるようになったのはいい。
いいのだが……さすがのこのまま無言っていうのは良くない。
「……ん?」
なんとなくチラッとエミーナさんの方へと視線をやると、何かを言いたそうな雰囲気でこちらへと顔を向けていた。
が、俺と視線が合ったためすぐテレビに向き直る。
エミーナさんもエミーナさんなりに、この空気をどうにかしようとしていたようだ。
よし。なら、ここは俺の方から。
「あの、画面見づらくないですか?」
「べ、別に」
う、うーん……なんか会話が続きそうもない空気。
電話とかだったら、結構会話が続いていたんだが。
やっぱり、まだ同じ場で会話するっていうのは苦手な感じのようだ。
「……あ、あの」
お? 今度はエミーナさんの方から話しかけてくれた。
「はい?」
「れ、零、くんは……その……な、何歳に、なるの?」
「十六歳ですね」
「そ、そうなん、だ」
その後に、何かを言いたそうにしていたが、中々次の言葉が出てこない。
ここは、俺がフォローをすべきか。
いや、エミーナさんが自分で言うのを待つ?
「……」
「……」
そこまで人と話すのは不得意ではないと思っていたんだが。
ここまで会話が続かないとは。
結局、ゲームが終わるまで、ぎこちない空気が続いた。
が、エミーナさん的に結構前進したと思っていたようで、帰り際に嬉しそうな声でお礼を言ってきた。
確かに、傍から見たらかなりぎこちないものだっただろう。
けど、今までの彼女だったならお面をしているとはいえ、誰かと同じ空間でゲームをしながら会話をするのはかなり難しい行為だったはずだ。
例え、他人から見たらぎこちない会話だったとしても、エミーナさん自身にとっては大きな前進。
その喜びを糧に、もっと前進し、俺以外の人達とも会話ができることを願おう。
・・・・
俺の誕生日まで残り四日。
この短い期間で、エミーナさんの人見知りを最低でもお面ありで、皆と会話ができるようにしなければならない。
まあ、皆のことだ。
お面をしている程度どうってことはないだろう。
「おい、そこの少年」
今日の夕飯はどうしようか。
この前のイヴ。
あれからキュアレは不機嫌状態だからな……早く機嫌を直してほしいのだが。
わざとではないんだ。
ないのだが、キュアレと食べるはずだったクリスマスケーキをエミーナさんと食べてしまった。
翌日にホールケーキを渡したのだが、それでも機嫌は直らない。
なので、今日はキュアレの好物をたくさん作ってやろうと思っているのだが。
「おい、聞いておるのか?」
とりあえずは、ハンバーグを作るための挽肉と玉ねぎに。
「お主に言っておるのだぞ、少年!!」
「え?」
考え事をしていると、突然道を塞ぐように黒いドレスを身に纏った桃毛の少女が現れた。
さっきから声に似つかない口調の子が居るとは思っていたが、まさか俺に話しかけていたとは。
小学生、いやギリギリ中学生か?
西洋人形のような可愛らしいフリルのドレスを身に纏っているうえに、その幼い姿から想像できない口調のため視線を集めている。
当然、そんな少女から話しかけられた俺も。
「まったく。人が話しかけているというのに無視をするとは何事か!」
「あ、いや。俺に話しかけているとは思わなくて」
なんで俺はこんな小さな子に叱られているんだろう。
うわ、通りかかった人達がなんか微笑ましそうに笑ってる。
いや、当然か。
傍から見たら、小さな女の子に叱られてる年上の男だもんな。
「それで、俺に何か用なのか?」
まったく。
どうしてこう……俺のところには変なのが集まるのか。
「うむ。実は、知り合いのところへ向かっていた途中だったのだが。お主からその知り合いの匂いがしたのでな」
「匂い?」
俺は、もう驚かない。
これまでも変わった者達とは何度も会ってきた。
だから、目の前の少女から感じる異質なオーラからすぐ力を使って正体を見破った。
「そうだ。だから、できれば知り合いのところへ案内してほしいのだが……その前にひとつ聞きたいことがある」
見破ったからこそ、言える。
これは厄介ごとだと。
「お主……童貞だな?」
まるで獲物を見つけたかのように目つき。
普通なら小さい子が早くに性の快感に目覚めて、そういうことをしていると思うだろうが。彼女の正体を見破った俺は違う。
(……サキュバス、か)
そう。彼女はサキュバス。
しかも、かなり長く生きている。
そして……いつか見たサキュバスとは比べ物にならないぐらい経験をしている。
思わず目を塞ぎたくなるほどだ。
くっ……! 今まで何度もそういうのを見てきたが、目の前の小さな性欲モンスターはそれを無にするほど!
やばい。これは色んな意味で、やばいのに目をつけられてしまったかもしれない。