第十八話 クリスマスまで
「イヴまで後、二日……」
エミーナは、カレンダーを見詰めながら頭を悩ませる。
零と連絡先を交換してから、交流は深まった。
しかし、今の調子では予定のイヴまでには間に合わない。
文字での会話はなんとかなっているが、電話越しの会話はまだまだ。このままでは、面と向かって話すなどできるはずがない。
「ど、どうしよう……やっぱり、私なんかが誰かとクリスマスを過ごすなんてリア充みたいなこと……」
自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、メッセージが届く。
素早く携帯を手に取り、確認。
零からだ。
〈夜遅くに失礼します。今、大丈夫ですか?〉
現在の時刻は夜の二十一時を過ぎたところ。
エミーナにとっては、余裕で起きている時間帯だ。
それに加え、後二日で人見知りをどうにかしないとと悩んでいて、それどころではなかった。
〈だ、大丈夫です〉
震える手でなんとか文字を打ち込み返信する。
すると、しばらくして零から返信がくる。
〈よかった。実は、クリスマスイヴの日なんですが〉
その文字に、びくっと体が跳ねる。
(も、もしかしてこれって誘われ)
高鳴る鼓動。
静けさが包み込む部屋で、携帯を握り締める両手に力が入る。
〈俺、友達と一緒にパーティーをやる予定なんですが。エミーナさんもと思ったのですが〉
(き、キター!!)
嬉しさのあまり叫びそうになるも、すぐ冷静さを取り戻す。
(う、嬉しいけど……パーティーとなると)
零にすらまだ面と向かってまともな会話ができていないと言うのに、パーティーに参加するなど無理に決まっている。
想像しただけで、心臓の鼓動が高鳴り、冷や汗が溢れ出してくる。
〈やっぱり、エミーナさんはまだ……〉
(ど、どうしよう……せっかくのお誘いなのに!)
どう返信すればいいかわからなくなり、ただただ携帯の画面を見詰めるばかり。
頭ではわかっているが、指が動かない。
〈すみません。急過ぎましたよね〉
(あー! 謝らせちゃったぁ……!)
何時まで経っても返信が来ないことに零は、急過ぎたとばかりに謝罪の文を送ってくる。
〈自分でゆっくりなんて言っておいて、恥ずかしい限りです……〉
(どどどどうしよう!? なんて返信すればぁ……!!)
自分が返信する前に、零が次々にメッセージを送ってくる。
その度に、エミーナはよりパニックへと陥り、思考できなくなっていく。
〈い、いえお気になさらず〉
やっと打てた文も何かが違うと、エミーナ自身悶絶。
(違う! 違うのぉ!? 誘ってくれてありがとうって打ちたかったのにぃ!! これじゃあ余計気にしちゃうよぉ!!)
〈えっと、それじゃあまた。突然すみませんでした〉
結局、本当に伝えたいことを伝えられずそのまま終わってしまった。
その後のエミーナはひたすら枕に顔をうずめ悶絶するばかり。
(私の馬鹿ぁ!! 意気地なしぃ……!! 年下の子にあんなに気を使わせて、恥ずかしいぃ……!!)
・・・・
「うーむ」
クリスマスイヴを明日に控えた夕刻。
俺は、先日のエミーナさんとの会話を思い出していた。
やっぱり唐突過ぎたか、あれは。
やっと電話で会話とかができる段階だっていうのに……まともに面と向かって会話ができていない時点でパーティーに誘うとか……。
「どうかした? 零君」
「実は交流に失敗しちゃいまして」
「ほほう? その話詳しく聞こうではないか、幼馴染くん」
みやと白峰先輩の二人とコンビニに寄り道をしている。
康太は、提出すべきものを提出できなかったため居残り。
「まあ、隠すことじゃないんだけど」
俺は話した。
同じアパートに住んでいるエミーナさんのことを。
そして、先日のやり取りを。
「なるほどなるほど。アパートの古参さんの人見知りをどうにかしようとしているわけですか。いやぁ、君は本当に世話焼きですなぁ」
「でも、零君ならできると僕は思うよ。だって、似たような感じの僕もこうして皆と楽しく過ごせているんだから」
とはいえ、先輩は引きこもりでもなく、そこまで人見知りってわけでもなかったからなぁ。
けど、先輩にそう言われるとなんだか不思議とできるんじゃないかと思ってしまう。
「とはいえ、話を聞く限り、明日のパーティーには間に合いそうにないね。もし来ることになったら、盛大に歓迎するとこだったけど」
ちなみにパーティーはみやの家でやる予定だ。
店が終わった後に、俺達で貸し切りにすることになっている。
『私にクリスマスケーキを買ってくるのを忘れずにねー。帰ってきたら二次会だから!!』
クリスマスパーティーの二次会とか聞いたことがないんだが。
いや、俺が聞いたことがないだけであるのか? クリスマスパーティーの二次会。
「クリスマスパーティーには間に合わないにしても、零君の誕生日パーティーには間に合うといいね」
「どう、でしょうか」
俺の誕生日にしたって、後一週間。
その短い時間で、パーティーに参加できるほど前進できるか……。
『そこは、ほら。主人公補正というやつでなんとかするのだよ君』
『俺にそんな力があるのか? 本当に』
『ある!』
俺自身、実感がないんだが。
「もしもの時は、私も協力しますぜ!」
「いや、そこまでしてもらわなくても」
「しかしですよ、パイセン。やはり、お知り合いになったからにはより仲良くなるために仲間外れはだめだと思います」
……この感覚久しぶりだな。
「あれ? あおねちゃん。久しぶりだね」
「はい! いやぁ、最近はこちらも色々と忙しくて。寂しかったですよぉ!!」
「私も寂しかったぞぉ!! あおちゃぁん!!」
「きゃー!! みやせんぱーい!!」
みやとあおねの抱擁シーンも久しぶりに見るな。
「まったく。相変わらず暑苦しい」
「でも、今の時期は普通にいいかも。てなわけで、私も便乗」
そして、あおねと同じ忍者であるここねとかむらも登場する。
ここねは、寒いようで抱き合っている二人の間に挟まりに行き、かむらは俺の隣で腕組みをして眉を潜めていた。
「あ、かむらちゃん。元気だった?」
「ああ。自分はいつでも元気だ。君は、相変わらず不健康そうなほど肌が白いな。ちゃんと外に出ているのか?」
「あははは。生まれつきなんだ、肌の白さ」
三人がここに居るってことは、仕事の方は一段落したってことなのだろうか。
「ぎゅうっ!!」
「ぬくい……」
「やっぱり寒い時期は人肌ですな!」
なにかできないか……。