第十五話 これが運命なのか?
「まったく。キュアレの奴が変なこと言うから」
変に神経を張り詰めてしまう。
今日は、みやも康太も用事があるため一人で帰っている。
みやは、店の手伝い。康太は、今日発売のゲームをプレイしたいとかで、チャイムが鳴ったと同時に教室を出ていった。
予約をしているはずなのに。
童貞を捨てても、マゾになっても、そこだけは変わらない。ある意味尊敬する。
「わー! この服可愛い!」
「でも、アルバイト代まだなんでしょ?」
「そ、そうなんだよね……うぅ、学生はつらいよ」
食材を買いたし、家に向かってる途中。雑誌を読んでいる女子学生達を見かける。
「でもさ、確かに可愛いけど。これを着て外歩ける?」
「大丈夫だよ。部屋で、着て楽しむだけだから」
よく見たらコスプレ用の服が載ってる雑誌だった。
……コスプレ、か。
昨日の女装男子が着ていた服も、何かのコスプレだったりしてな。
いや、だったら康太辺りがもっと反応していたはずだが。
「って、考えるな考えるな」
創作物だと、こうやって頭で考えてるとイベントが起こるってのが定番だ。
この世界が、二次元世界だからありえる。
「っと」
「す、すみません。前を見てなかったもので」
しまった。考え事をしてたら、人にぶつかってしまった。
随分と小柄、というか細い少年だ。
眼鏡をかけており、肩まであるであろう髪の毛を一本に束ねている。
「いや、俺の方こそ。これ、落としたぞ」
と、随分と肌の白い少年が落とした袋を拾う。あっ、本がはみ出してる。
……女性用の服が載ってる雑誌?
「あ、いやこれは! 姉に頼まれて!」
少年は必死になって言い訳をして、雑誌を奪い、抱き寄せる。
「えっと……失礼します!!」
逃げていく少年。俺は、まさかと思い能力を使った。
「マジか」
これは運命なのか?
彼が、白峰涼。
昨日の女装男子。
『おい、キュアレ』
『なに?』
『これって、主神が運命を操作してるってことはないよな?』
『それはないよ。主神様は、世界は創っても、そこに住む者達の運命を勝手に操作するなんてことはしない』
……だったら、これは主人公ゆえのってことなのか?
・・・・
「そして、これか」
さっそく女装男子の本来の姿を見た俺は、新たなイベントに遭遇。
今度は、女装をした白峰涼を発見。
最初に出会った時と同じ服を身に付けており……ナンパされていた。
「いいじゃん。ちょっとお茶するだけだから」
「可愛い服じゃん。どうせだったら、俺達がコーディネートしてあげよっか?」
「いや、あの」
普通なら、可愛い少女を取り囲むナンパ男達に見えるのだろうが。彼が、女装をしている男子だということを知っている俺には、男が男をナンパしていると見える。
「うわ、手小さいね」
「ひっ!」
「おいおい、いきなり触るのはだめだろ? 怖がってるじゃないか」
いや、いきなりじゃなくても触るのはだめだろ。
あー、しょうがない。
「おーい、待たせたなぁ!」
「え?」
「はあ? なに、お前」
「この子の知り合い?」
彼女、いや彼を助けるために俺は動く。
「そうなんですよ。ほら、行くぞ」
早いところこの場から逃げるために、二人の間から手を握り締め、無理矢理引っ張る。
「あ、あの!」
「おい! 待てよ!」
待つかよ。
俺は、そのまま白峰涼を連れて走り出す。
「こっちだ!」
「はあ……はあ……」
思っていたより、しつこくなかった。
それともついてこれなくなった?
さて……どうしたものか。
俺は呼吸を整えるのに必死な少女にしか見えない男子。
白い肌は、体温が上がり赤くなっているため、ますます女子に見えてしまう。
ともかく、正体がばれていない風に振る舞わないと。
「ありがとう、ござい、ます」
「いや、気にするな」
昨日もそうだったが、声も高い。
完璧過ぎる。
これは、初見で女装をしている男子なんて見分けられるはずがない。この能力がなければ、俺だって気づけなかっただろう。
「で、でもどうし、て」
「当たり前のことをしたまでだ」
『きゃー! かっこいー! さすが主人公!!』
『うるさい』
やっぱりキュアレは覗いていたか。これは下手なことは言えないし、動くこともできない。
「あっ」
「お、おい」
相当体力を削られたのか、
彼が膝から崩れる。
俺は、咄嗟に彼を支えるため手を取り、抱き寄せた。
だが、それがいけなかった。
「先輩?」
「え?」
油断。
聞き覚えのある声に、顔を向けると、そこにはクレープを持ったあおねが居た。
人気のない細い路地。息が乱れた美少女? を抱き寄せる俺。
ここから生まれる勘違いは。
「あおね。これはだな」
やばい。これはやばい。
変な誤解をされないように、早く説明しようとするが、あおねは無言のまま空いている左手でスマホを取り出し、こう言った。
「みや先輩に報告しないと!」
「いや、待てって!!」
なんでこうなるんだ……!
ホモじゃなーい。ホモじゃなーいよ。