第十七話 もっと前へ
お待たせしました。
「あれ? この手紙って」
家に帰ると、ポストに見覚えのある手紙が入っているのに気づく。
それは、これまで何度か交換し合った手紙。
いつもならかなみさんから手渡しされるのだが、今回はポストに投入されていた。
「ただいま」
「おー、おかえりー。ん? その手紙って」
キュアレも手紙のことに気づいたようで、ゲーム機の画面から目を離して、こちらに視線を向ける。
俺は、こたつに入りながら、ゆっくりと手紙を開封していく。
いつもなら短い文章なのだが、今回は少し違った。
いや、相変わらず文章と言っていいのかあれな短さなのだが。
「それって……連絡先?」
「みたいだな」
文章と一緒に携帯の電話番号からメールなどのさまざまな連絡先が書かれていた。
まさかこんなものが書かれているとは思わなかった俺は、手紙を持ったまま少し硬直。
「さっそく電話してみる?」
と、キュアレが問いかけてくる。
電話か。
ちなみに文章は短めにだが、彼女の強い意志を感じるものだった。
いつもなら若干消えそうかもしれないと思えるほど力のない文字だったのだが、今回はそれだけ本気だということが伝わるほどの力強い文字。
「ご連絡待っています、か」
正直、まだ早いと思うのだが。
彼女自身が無理をしてでも前に、と決心したんだ。
俺もそれに応えないといけない。
文通の相手として。
それに連絡先を交換し合えれば、こうして手紙よりも早い意思疎通が可能となる。手紙は、人が生み出したいい文化だが、やはり発展した情報社会において携帯を使ったほうが何かと便利なわけで。
「ほい。電話番号登録しておいたよ」
「って、なに勝手に弄ってんだよ」
俺が考え事をしている間に、人の携帯を勝手に操作してエミーナさんの電話番号を登録してしまった。というか、こいつ携帯のロックを解除したのか?
いったいどこで知ったんだ。
後で、変えておくか。
「人見知りの女の子が大きな一歩を踏み出そうとしているんだよ? それに応えず、何が男か!!」
「ここぞとばかりに恋愛の神っぽいことを言うなお前」
「ぽいじゃなくて本物なんですー!! ほら! きっと携帯を両手で持ってじーっと待ってるはず! 女の子を待たせちゃだーめ!!」
言うことを言って、恋愛の神はうつ伏せになりながら再びゲームをプレイし始める。
そこは最後までしっかりしてほしいものだ。
キュアレらしいと言えばらしいが。
「……」
俺は、登録されてある番号を見詰め、通話ボタンをタップする。
そして、耳に当てる。
《は、はいぃ! エミーナです!!》
キュアレの言う通りずっと携帯を持って待っていたのか。
ワンコールしないうちにエミーナさんが出る。
しかし、かなり緊張しているようで声が大きいうえに震えている。少し、耳がきーんっとしてしまい、一瞬だが携帯を耳から遠ざける。
「ど、どうも。エミーナさん。零です」
気を取り直して、携帯を耳に当てなおし会話を始める。
「まさか連絡先を教えてもらえるなんて。正直まだびっくりしてます」
《ご、ごめんなさい……》
あ、やば。
謝らせてしまった。
「い、いえ別に悪くはないですよ? むしろ嬉しいですから。これからはこうして迅速な意思疎通ができるわけですし」
《本当ですか? いきなり連絡先全て教えて気持ち悪いって思いませんでしたか?》
そういう風に悩んでいたわけか。
「全然。驚きはしましたが、気持ち悪いだなんて思いませんでしたよ。さっきも言いましたけど、むしろ嬉しい気持ちです」
《そ、そう……よかったぁ……》
電話越しでも安堵したのがわかるほど、ほっと息を漏らすエミーナさん。
とりあえず落ち着いてくれた、か?
「それで、この後に俺の連絡先も教えますので。登録をお願いできますか?」
《は、はい! ちゃんと登録します!!》
うーん、会話できているみたいだけど。
なんだか若干距離があるな。
仕方ないと言えば仕方ないんだけど。そういえば、エミーナさんって何歳なんだろう? かなみさんからも聞いていないし、能力でも見るのを忘れたし。
この世界だと、見た目で年齢を判断するのは難しいからなぁ……。
「それじゃあ、さっそく教えますけどいいですか?」
《大丈夫、です! し、しっかりメモしますので……!》
その後、俺の連絡先も教える。
全て教えた後、通話を終えようかと思ったのだが。
《あ、あの》
エミーナさんから話しかけられる。
《わ、私。頑張ってみます……頑張って人見知りを直してみます》
「はい。俺も応援してます。いつか面と向かって話せる日を待ってますね」
《……それで》
それで?
《……》
ん? 急に黙ってしまった。
まさか通話が切れた……わけじゃないし。
《や、やっぱりなんでもないですぅ……!!》
「え? あの」
結局その先は聞こえず、切られてしまった。
なんだったんだろう? 何かを言おうとしていたけど……。
「あれ? 終わったの?」
「まあ、な」
「最後になんか言おうとしてなかった?」
「言おうとしてたけど、聞けなかった」
そのことを気にしながら夕食の準備をしていると、メッセージアプリへエミーナさんからメッセージが送られてきた。
その内容は、ごめんなさい、という謝罪だった。
俺が気にしないでくださいと返信したのだが、本当にごめんなさい! とまた謝罪の文が送られてくるのだった。