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第十六話 誕生日の前に

「そういえば、来週はクリスマスイヴだったな」

「あぁ、そういえばそうだったな」


 キュアレからの要望であるお子様ランチをどんな風に作るか思考している昼休み。

 康太は、いつものように購買で買った総菜パンを口にしながら話題を出す。

 世間では、クリスマスへと向けて色々と大盛り上がりだ。

 それはもう色んな意味で。

 

「お前はどうするんだ? 今年」


 ちなみに、白峰先輩は家族と過ごすらしい。

 毎年のことのようで、どんなことをするのかを白峰先輩はもちろんのこと、おっさんも話している。

 まあ、主におっさんがべらべらと話してくれているのだが。

 

 そうそう。

 出暮家も毎年のことだが、クリスマスはオリジナルクリスマスケーキやコーヒーなどを用意している。

 もちろん出暮家はサンタのコスプレをする。

 個数限定で、昼過ぎからの販売となり、持ち帰りも可。

 俺も手伝ったことがあったので、どれだけ人気なのかは理解している。


「俺はいつも通りだなぁ。そういうお前はどうなんだよ? 一人暮らしだから、いつもと違うだろ?」


 いつもだったら俺も家族と一緒にクリスマスを過ごすのだが、今年は違う。

 一応、二人からの連絡はまだ来ていない。

 二人のことだから、もしかしたら……いや、さすがにまさかな。


「さあな。今のところは未定だ」

「みやのところで過ごすってのはどうだ?」

「それもありかもなぁ」

『えー、じゃあ私が一人になっちゃうじゃん! クリスマスケーキ楽しみにしてるのにー!!』


 キュアレが居なければ、出暮家で手伝いをしながら過ごすということになっていたかもしれない。

 

「そういえばみやはどこ行ったんだ?」

「廊下で友達の相談にのってる」


 そう言って俺は廊下の方へと指を差す。

 みやは普段あんな感じだが、成績は優秀だし、運動神経も良いうえになんだかんだで聞き上手。

 同級生からもそうだが、先輩からも相談にのってくれないかと来ることがある。

 

「凄いよなぁ、みやって。まさに完璧超人。昔のみやからは考えられないよな」


 当然だが、康太も昔のみやのことを知っている。

 今でこそ、普通に接しているが、あの頃は若干距離があった。

 あんな感じだったから、仕方ないと言えば仕方ないのだが……。


「頑張りたまえー!!」


 どうやら話し合いは終わったようだ。

 やり遂げたという表情で教室に入ってきたみやは、さっそく俺の隣に座り手作りの弁当を広げる。

 

「どんな相談だったんだ?」

「恋愛相談だよー」

「あ、そうだ。みや、ちょっと聞きたいんだけど」

「ん? どった?」


 たこさんウィンナーを口に運びながら首を傾げる。


「実はお子様ランチを作ろうと思ってるんだけど」

「は? え? ん?」

「ほうほう。それでそれで?」


 唐突な相談に康太は食べていた総菜パンを落としそうになるが、みやは何かを察したかのように真面目に耳を傾ける。

 まあ、いきなりお子様ランチを作りたいなんて言えば康太みたいな反応になるよな。


「どんな風に作ろうかって思ってさ。みやだったらどうする?」

「そうですなぁ。私だったら、定番のハンバーグは確実に入れますね。後は、うちで作っているような小さなオムライスと……あ、温かいコンソメスープも欲しいかな。それとデザートにはプリン!」

「あ、やっぱりプリンは必須か」

『プリンは必須!!』

「そうだ。なんならプレートをひとつあげようか?」

「え?」

「零のことだから、帰りに買おうとしてるんでしょ?」


 確かに、帰りになんかそれっぽいプレートを買おうとは思っていたけど。

 キュアレの奴が、見た目にもこだわって! と言っていたからな。


「お、おう。ありがとう」

「じゃあ、帰りはうちによってこー」

「……なんか最近、みやの言動がまるで未来でも見えているかのように感じるんだが」


 康太の発言に俺は同意せざるをえなかった。

 昔からそれとなく先読みされた!? 心でも読めるのか? と言う風な言動が度々あったが、今のみやはまるで俺がしようとしていることを知っているかのように言うことが多い。

 いや、まさかさすがのみやでも未来予知みたいな力は。


「え? まあ、そうだね。零だったらこうするんじゃないかなーってなんとなく」

「な、なんとなくなのか?」

「うん、なんとなくにゃ」

「なんと、なく……」

「あ、たこさんウィンナー食べる?」


 なんと、なくかぁ。



・・・・



「今日は思っていたより少ないですね」

「それだけ漂う欲を浄化できているということでしょう」


 雪でも降りそうなほど冷え切った空気の中。

 セリルは、あおねやかむら、その他の退魔士達と共に今日も増加していく欲を浄化していた。

 年末に近づけば近づくほど、欲は膨張する。

 この世に生物が存在する限り、欲というものは消えない。

 切っても切れないものなのだ。

 そのために、欲が形を成し【欲魔】とならないよう退魔士達は、迅速に浄化をする。

 

「とはいえ今年は今までと比べて人々の欲が大きい」


 ふう、と深いを息を漏らしながらかむらは呟く。

 先ほど自動販売機で購入したホットココアで温まりながら周囲を見渡す。

 退魔士であるかむら達には、禍々しい欲というものがオーラとして見えている。今も、小休憩をしながらも警戒を怠ってはいない。

 

「そうですねぇ。まあでも、それだけ人々が活気にあふれているってことじゃないですか?」


 と、あおねは缶コーヒーの微糖を両手で持ちながら言う。


「活気にあふれるのは良いが。それで【欲魔】を生み出されてはな」

「まあまあ。一般人の方々は、自分の欲から悪魔が生まれるなんて思いもしていないのですから」

「……セリル。君はさっきから何を熱心に見ているんだ?」


 会話にはちゃんと参加しているものの、セリルはずっと自分のスマートフォンを熱心に見ていた。

 それはもう穴が空くんじゃないかというほどに。

 若干呼吸も荒く、口元から涎も垂れているように見える。


「あ、いえ。最近、零様にお会いできる時間が極端に減ってしまいましたので、補給を」

「補給?」


 なんのことだと、かむらは首を傾げる。

 零が関わらなければ、まさに聖女。

 皆を先導し、人々を脅かそうとする魔を祓う聖なる使者としてその力を振るっている。かむらも、少なからずその実力でカリスマ性は認めている。

 そのため、今のだらしなく涎を垂らし、謎の言動を発するセリルにはまだ慣れていないし、違和感を持っている。


「はい。本来ならば、生の零様を見詰め、崇め、そして押したお……こほん。傍で尽くしたいのですが」


 なにやらとんでもない発言がセリルの口から発せられたような気がしたかむらだったが、気のせいだろう。そうだ、気のせいだととりあえず納得する。


「今は、零様に最高のお誕生日会を! と我慢しているのです!!」

「それは理解しているが……で? 補給とは何なんだ?」

「神による贈り物です」


 真顔で言いながら自分のスマートフォンをかむらに手渡すセリル。


「は?」

「……おぉ、神よ! 素晴らしき贈り物を頂き心より感謝申し上げます!! これで私は、まだまだ戦えます!!」


 これほどの喜びよう。

 いったい何が映っているんだ? と画面を見る。

 

「……」

「わお、セクシー」


 あおねも気になっており一緒に確認した。

 そこに映っていたのは……上半身裸の零の写真だった。

 そして、送り主の名前を見て二人はセリルの尋常じゃない感謝っぷりを納得する。


 女神キュアレ。


 本物の神からの贈り物だった。

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