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第十三話 ドア越しの

「……うぅっ」

「んあ? どうかしたか、零」


 それは、康太と白峰先輩の二人と共にコンビニで温かい飲み物を片手に少しばかり会話に華を咲かせていた学校帰り。

 今日はそこまで寒くなく、むしろ温かい。

 加えて温かい飲み物を飲んでいる。

 なのに、急な寒気が俺の全身を襲った。

 風も……吹いてはいない。

 なんだろう……悪寒、てやつか?


「いや、なんだか急に寒気が」

「大丈夫? 風邪、とかかな」


 心配そうに覗き込んでくる白峰先輩に、俺は風邪ではないことを伝える。


「たぶん、女子達が良からぬことを考えているんじゃないか?」


 と、康太がコーンポタージュをぐいっと一気に飲み干してから呟く。

 ちなみにセリルさんが俺に誕生日会のことを明かしてからは、どうなっているのかは伝えられていない。

 セリルさんも今は色々と忙しい時期なためにたまにしか会えない。

 あおね達も同様だ。

 

「誕生日会……どうなるんだ」


 正直なところ、そこまで計画を練らなくても良いのだが……なんだか皆のやる気な姿を見ていると強く言えない。


「まあ、過去最高のものになるだろうな」

「そういえば康太も参加しているんだよな」

「俺だけじゃなくて先輩もな。しかし! 内容までは明かせないなぁ」

「本当は、当日まで内緒なはずだったんだけどね」


 そこのところは、仕方ない。

 結局あの後、あおね達もセリルさんの行動を知っても大丈夫な感じの反応だった。

 むしろその方がやる気が上がるそうだ。

 

「先輩の予想を軽く超えて見せますよ!!」


 などと言ってくる始末。

 確かに、誕生日会のことを知らせれてからは、どんなものになるのかとつい想像してしまう。

 まさかこの歳になって、誕生日会を楽しみにしているかのように想像してしまうとは。


「それで? 今日はこんなところに居ていいのか?」

「いいのいいの。それに、俺は女子達ほど本気も本気にはな……」


 そう言いながら、自分の財布をぎゅっと握る康太。

 

「いや、まあうん。別にいいんだぞ? ただおめでとうって言葉だけで」

「おう……」

「白峰先輩もあまり無理は」

「だ、大丈夫だよ。あまり無理はしないから」


 うーん、そう言われてもなぁ。

 本当に大丈夫だろうか?



・・・・



「ふう……さて、今日は何を作ろうかなっと」


 あの後、康太達と別れ俺はまっすぐ帰宅。

 今日の夕飯のことを考えながら、ふと視線を上に向けると。


「……開いてる?」


 エミーナさんの部屋のドアが少しだけ開いていた。

 そういえば、まだ手紙を貰ってなかったな。

 まあ、自分のペースで良いって言ったから焦る必要はないけど。

 ……ちょっと行ってみるか。

 

「……」


 気になった俺は、そのままアパートの二階へと向かった。

 一歩また一歩とエミーナさんの部屋に近づいていくと、ドアがギィッと音を上げて動く。


「エミーナ、さん?」


 どうやらドアの前に居るようだが。

 これまでの行動から考えると、すぐドアを閉めて逃げていく、はずだが……その気配はない。

 俺は、そのままドアの前に移動し、背を向けてしゃがみ込む。


「……えーと」


 もしかしたらこれはエミーナさんが勇気を振り絞って会話を試みようとしているのではないかと思ったのだが、どう会話をすればいいのか。

 文通をしているとはいえ、まだ何が好きだとか、普段何をしているだとか。

 そういう話題になりそうなことは知らない。

 今日のニュースの話?

 いや、もしかしたらゲームの話題とか。


「―――み」

「え?」


 どうしたらいいのかと硬直していると、エミーナさんの声が聞こえる。

 何を言おうとしているのだろう? と耳を澄ませる。


「て、手紙……あの、まだ……」


 なるほど。

 今のところの共通の話題と言ったら、手紙のことだ。

 

「いえ、大丈夫ですよ。手紙にも書きましたが、自分のペースで良いので」

「……ん」


 やはりまだ壁がある感じだな。

 実際はドア越しだが。

 今にも消えそうな小さな声だ。


「……今日は」


 今度はこっちから、と考えて俺は口を開く。


「やっと会話ができて嬉しいです」


 もっと先になるかと思ったが、まさかエミーナさんの方から歩み寄ってくれるとは思わなかった。

 今はドア越しだが、このまま行けば普通に顔を合わせての会話も。


「わ、わたし、も……ありょ……えっと」


 やはりあまり会話というものに慣れていないようで、若干舌足らずなところがある。

 

「ん?」


 すると、文字を書いた紙が隙間から出てくる。

 紙には短く、嬉しい、書かれていた。

 その後、勢いよくドアが閉まり、どたどたと騒がしい足音が聞こえた。

 

「うーん、やっぱまだまだ、かな」


 俺は、床に置いてある紙を手に立ち上がり、小さく苦笑する。


『恋愛の神的に、一歩前進したと思う』

『影が薄い恋愛の神さん。唐突にアピールしてきますね』

『影が薄いとはなんだ! 今でも私は立派な恋愛の神様だよー! というか終わったなら早く帰って、私の相手をしてー!!』


 はいはい、と騒がしく叫ぶ恋愛の神様に答え、俺はその場を後にした。

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