第十一話 知らぬ間に
「返事、まだかなぁ……」
文通を始めてから、エミーナは日々の楽しみのひとつになった。
今も、いつも通り部屋の中でゲームをしている間も、つい玄関のほうへと視線をやってしまう。
そして、時々玄関近くでゲームやスマートフォンを弄りながら待っていることもある。
まだ二回目の返事を送って数時間しか経っていないのにも関わらず、今か今かと。
「って、彼は学生なんだし、今の時間は学校に行ってる、よね……」
現在の時刻は十四時。
平日のこの時間帯に学生である零がアパートに居るとすれば、体調不良か休むほどの用事があるか。
「早く来たとして十七時頃、かな」
エミーナは、とりあえず一度心を落ち着かせようとゲームに集中する。
「あ、やっぱり来た」
モンスターを狩り、集めた素材で武器や防具を作るハンティングゲームをしていたエミーナ。
オンラインで集会場を開いていると、見知ったプレイヤーが入ってきた。
プレイヤー名は……《恋愛神》である。
「えっと、とりあえず挨拶しなくちゃ」
コントローラーを操作し、自分が使っているキャラクターに片手を上げさせ軽い挨拶をする。
ちなみにエミーナのプレイヤー名は《エナ》である。
発売当初からやりこんでおり、仲間をサポートするのが大好きで、オンラインで遊ぶ時はサポート系の装備に変えている。
「あ、挨拶返してくれた。わわ!?」
キャラクターで軽く挨拶を返したと思いきやチャットで話しかけてきた。
〈やっほー! 今日もいっぱい狩りまくろうー!!〉
プレイヤー《恋愛神》は、エミーナと同じく発売当初からの古参で、これまで何度もオンラインで共にモンスターを狩ってきた。
プレイスタイルは、防御など不要。攻撃、更に攻撃。アタックだ。
つまりやられる前にやるというスタイルで、我先にとモンスターへと突っ込んでいく。
〈あれ? 《エナ》の武器って最近追加されたモンスターの?〉
〈はい。結構難しかったんですけど。なんとか武器だけは〉
〈おー! その銃のデザインめっちゃかっこいいじゃん!〉
〈実はデザインに一目ぼれしてつい〉
〈作っちゃったわけかー〉
ぐいぐいとくる《恋愛神》に対して、最初は苦手意識を持っていたエミーナだったが、一緒に狩りに行くに連れて、コミュニケーションをとっていくにつれて、いつしか仲が良くなっていた。
(正直、悪魔として神と仲良くするのはどうかと思うけど……まあ、本物じゃないしいいよね)
一通りの会話を終え、人数が集まったところで武器に合った装備を作るためにクエストへと行くことにした。
エミーナはいつも通りサポートに徹するため、それに合わせたスキルとアイテムなどを用意する。
〈さあ、今日でフル装備を作るぞー!〉
〈そ、それはちょっときついんじゃ……〉
〈相変わらず《恋愛神》は言うことが大きいなー〉
〈いつでも本気だからね!!〉
〈突っ込み過ぎて三オチだけは勘弁なー〉
プレイヤー達はゆるい会話にほっこりしつつ、エミーナはクエストを開始すべく出発口へと向かった。
・・・・
「ただいまーっと」
さて、今度はどう返事を書くか……。
エミーナさんから手紙を貰い、どう返事を書こうかと考えながら帰宅。
部屋に入ると、いつも通りキュアレはゲームに熱中していた。
「おっしゃー! 角とったどー!!」
「たく、またこんなに散らかして……」
帰宅早々、俺は駄女神が散らかしたものを片付ける。
なんだか日に日に散らかしようがひどくなっているような気がするんだが……まったくいい大人なんだかしっかりしてほしいものだ。
とはいえ、こいつのおかげで一人で暮らすよりも快適になったり、楽しくなっているからあんまり厳しく言えないというジレンマ。
「零! この調子だと、今日中にフル装備を作れるかもしれない!」
「まさか最近追加されたやつの?」
「当然! あ、零も参加する?」
「俺は夕飯の支度と、エミーナさんへの返事を書くのに忙しい」
「そっかー。いやぁ、真面目ですなー」
途中で投げ出すのも嫌だしな。
それに、たまにはこういうやり取りも悪くないと思っているところもある。ネットが浸透している現代で、文通。しかも同じアパートに住んでいる者同士なのに、だ。
「それにしても相変わらずお前のプレイヤー名はひどいな」
「なにをー! この私にふさわしい名前じゃん!」
「まさか本物の神がプレイヤーだなんて思わないだろうな」
「ふっ。実質、私はこのゲームでは神として崇められている。すごいでしょ!?」
「あー、はいはい。凄い凄い。さすが《恋愛神》様だ」
「はっはっはっは!! あ! 《エナ》がそろそろ抜けるのか。ま、しょうがない。他の人達と素材集めしよーっと」
キュアレが言う《エナ》とはキュアレと同じく古参勢。
よくキュアレと一緒に狩りをしていて、突っ込んでいくキュアレを《エナ》は全力でサポートしてくれる。
俺も何度か一緒に狩りに行っているのだが、キャラクター越しからでも滲み出る良い人オーラ。
手厚くサポートしてくれて、いつも皆に気を配り、慕われている。
キュアレが強さと馬鹿さ加減で慕われているのに対して、優しさ、というか安心感というか。癒しという意味で慕われているのだ。
「どんな人なんだろうな……」
まあ、現実ではいかついおっさんなんてこともあったりするかもな。
さーて、夕飯は何を作ろうかなっと。




