第十四話 正体を見たり
能力を与えられ、そろそろ一ヶ月になろうとしている。
だいぶ慣れてはきたが、それでもまだレベルは上がらないし、勝手に発動する時がしばしば。
この能力を使うと、その者の性癖なんかがモロにわかってしまう。
例えば、キスの回数やキスの種類が多ければ相当なキス好き。
俺は、これまでキスだけで様々な種類のキスがあることをしった。
普通ならば唇や頬、額などが一般的だが、中には腹だとか足だとか、変わったところにキスをしている者も居た。
そして、俺は自動的にそのシーンを想像してしまう。
別に、咎めるつもりはない。
その人が幸せならそれでいいんじゃないかと。
「あー、今日も疲れましたーっと。なあ、帰りにコンビニ寄ってこうぜ」
「良いけど、お前。最近グッズに金使って危ないんじゃなかったか?」
そんな色んな性癖を持った人々のことを知る中で、俺は何気ない日常を過ごしている。
幼馴染や親友と一緒に学校で喋ったり、下校したり。
「やべ、そうだった。零! 奢ってくれ!」
「俺にたかるか……」
「ならば、零の分はわしが買ってしんぜよう」
「うし! これで決まりだ!」
「なにも決まってねぇよ」
学校帰りに、寄り道でコンビニへ。
こういうのは、普通の学生っぽくてなんかいいな。
「ん?」
信号待ちをしている中、康太が何かを見つける。
「どうした?」
「おい、あれ見てみろ」
「あれ?」
向かいの道を指差す。
その先には、俺達と同じように信号を待っている人達しかいない。ということは、なにか珍しい格好をした人が居る?
「めっちゃ可愛い子が居た」
なるほど。確かに、可愛い子は居る。
所謂ロリータファッションできめてる黒髪ボブヘアーの子だ。
周囲は、スーツや学生服などで構成されており、かなり目立っている。
最近は、都会でもああいう服を着て歩くのは見ないとネットに書かれていたけど……。
「ああいう服を着て歩くってめちゃくちゃ勇気いると思うんだが」
「私だったら着れる」
みやだったら、普通に着て歩きそうだから否定できない。
「信号変わったぞ」
そうこう話していると信号が青になる。
それにより、俺達はもちろんだが、ロリータファッションの子も歩き始める。
「くる! くるぞ!」
「あんまり騒ぐなよ。変な目で見られるぞ」
「でも、本当に可愛いよねぇ。同じ女子として、どこか負けた感が……!」
この時間帯に、あんな格好で歩いているってことは、学生じゃないのか?
「くっ!」
まだ能力が勝手に……ん? おい待て。これはどういうことだ?
おかしくないか。
なんで、ロリータファッションの子の情報を……左で。
「おい、どうした零。早く渡らないと赤になるぞ」
衝撃的な展開に、俺は思わず立ち止まり、ロリータファッションの子を目で追ってしまう。
名前は、白峰涼。歳は、十六歳。どうやら年上のようだ。
「なんだ? お前、あの子に惚れたか?」
「そうじゃ、ない」
「零が惚れてるのは、私だよね!」
「ああ、そうだな」
「適当に流された感じでびみょー!!」
左右で性別が分かれてるから、こういうことにも使えるとは思っていたが。
本当にありえたとは。
女装男子を発見してしまった。
・・・・
「てことがあったんだが」
「おー、女装男子か。確かに、能力から考えて、そういうことも暴けるけど。まさか身近に女装男子が居るとは。もしかしたら、男装女子も居たり?」
「いないだろ、とははっきり言えないよなぁ」
今日の出来事を、俺はキュアレに話していた。
能力を得てからというもの、次々に新しい発見があって、退屈はしない。
しかし、まさか女装男子を発見してしまうとは。
「実は、私も零の目を通して見てたんだけどさ。あれ、最低限の化粧しかしてなかったね」
「ほとんどすっぴんってことか?」
だとしたら、相当な美肌だぞ。正直、ちゃんと外に出ているのか心配するぐらいに白かった。
もしかして、箱入りなのか? でも、普通に外を歩いていたしなぁ。
「ちなみに、私は完全なるすっぴん!!」
「お前も相当だよな。いつも部屋で自堕落な生活をしてるのに、おかしくないか?」
「神様だからね!」
普通なら、なに言ってんだと思うところだが、本物だからなぁ。
「あ、右終わったよ。次は左ね。ほい、くるっとする」
そして、そんな神様に俺は耳かきをされてる。
なんの気まぐれかわからないが、誰かにしてもらうのはいつぶりだったか。
少なくとも、中学の時は自分でやってた。
「まあ、もう会うことはないだろうし。もし会っても、またスルーすればいいだけだよな」
衝撃的な出会いだったが、これ以上関わることはないだろう。
「本当にスルーできるの?」
「どういう意味だよ」
なんだかんだで、神だからなこいつ。
もしかしたら、俺には見えないなにかが見えていたり、未来のようなものが見えたりしているのかもしれない。
「いやぁ、だって君はこの世界の主人公だよ?」
「……だから?」
「わかってるくせにー」
あぁ、わかってる。
もしかしたら、なにかに巻き込まれるんじゃないかってことを言いたいんだろう。
でも、いまだにわからない。
なんで、俺が主人公なのか。というか、主人公はこの世界に生きる全員じゃないのか?
それぞれ、そいつの物語があるはずだ。康太にだって、みやにだって。なのに、この世界を創った主神は俺を主人公だと言う。
「別に、主人公が複数居てもいいんじゃないか? 神様」
「なるほど、それはそれで面白そうだね人間くん。……はい、終わったよ」
「サンキュー」
「どういたしまして」
創作物だと、主人公は色んな出来事に巻き込まれる。
俺も、それと同じだってことなのか。
でも、女装男子関係って……なにが起こるんだ?
やはり、男性キャラも増やしませんと! なお女装男子なもよう。
果たして、次回どうなる?