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第五話 再び接触

「ただいまぁっと」


 将彦さんの家から帰宅すると、時刻は十七時半を回っていた。

 今日は、夕飯を一から作るのではなく、総菜で済ませることにしている。

 なので、予めキュアレにはどんなものを食べたいのかを聞いておいたのだ。

 

「おーい。チーズ入りメンチカツ買ってきたぞぉ」


 ちょうどいい大きさのメンチカツの中にチーズがたっぷりと入ったそれは、ひとつだけで胃にずっしりとくる。

 それを六個入りのやつを買ってきた。

 とりあえず二人で三つずつ。

 後は適当に昨日の残りである豚汁に白飯。千切りキャベツを添えて……ん?


「ふっふっふー」


 珍しく部屋のドアを閉めていると思っていたら……。


「献上品ご苦労様。さあ、早く神である私に夕飯を用意してね」


 将彦さんのところでのことを思い出す。

 自分のことを神だということを再認識させるだとかなんだとか騒いでいたっけ。

 それがこれか。

 どこから持ってきたのか。世間一般的な神が着ていそうなノースリーブの白い服を身に纏い、どうしているのか羽衣が腕なんかに巻き付いて、背後で浮いている。

 それに加えて、いつもどこかぼさぼさしている髪の毛もしっかりと整えて、サラサラストレートヘアー。

 

 そして右手にはなぜか高級そうな扇子があり、でかでかと達筆な墨書きで神と刻まれている。

 極めつけには、うざいぐらいのドヤ顔。

 口調まで偉そうな感じにしているし、これはかなり本気のようだ。

 が、言っていることはいつもと同じく夕飯を頼む、と。


「はいはい。今用意するって。って、豚汁温めててくれって言っただろ? 全然冷たいじゃねぇか」

「神である私がそんなことをするとでも? ……ちらっ」


 ……なんかこっちの反応をうかがっている。

 

「たく。しょうがねぇな……とりあえず豚汁を温めて。メンチカツはまあすぐ熱くなるから、先に千切りキャベツを皿に」

「……」


 凄く突き刺さるような視線を感じる。

 まあ、言いたいことはわかっている。

 キュアレなりに神っぽくしたんだ。

 何か言ってやりたいが……なんというか、うん。


「キュアレ」

「なにかしら?」


 ようやく俺が何かを言ってくれるんだと思ったのか一瞬、パッと表情が明るくなるが、すぐ神っぽい顔つきに戻る。


「風邪ひくぞ?」

「……そうだね」


 今のキュアレは肉体がある状態だ。

 精神体とは違い、風邪をひくことだってあるかもしれない。などと言いつつ、今日まであれだけのだらしない生活を送ってきているというのに、どこも具合が悪くならないので心配はない、と思う。

 それからしばらくして、豚汁もいい具合に温まり、テーブルの上に夕食を並べていく。


「ちぇっ……少しぐらい私を崇めてくれても……」


 いつものジャージ姿に戻ったキュアレは、かなり不貞腐れていた。

 そんなキュアレを見て俺は、しょうがないと頭を掻く。


「悪いな。正直、そういうの嫌なんだ」

「どういうこと?」

「今のままが一番だってことだよ。ほら、食べるぞ」

「……そっかー。まあ、零がそういうならしょうがないなー。うん、しょうがないから今のままで接してやるかー」


 とか言いつつどこか嬉しそうなキュアレだった。

 

「あっ! そうだ! お前、また俺の分のプリン食べただろ!」

「し、知りませーん……」


 というか、今更こいつを崇めるってのは無理な話だ。



・・・・



「やあ、青少年。久しぶりだね」

「かなみさん。帰ってきてたんですね」

「おうともさ。おばちゃんが居なくて寂しかったか?」


 いつものように学校から帰ってくると、久しぶりにかなみさんの姿を見た。

 いつもと変わらない親しみやすい空気に安堵する。

 すると、突然鍋を渡された。


「……おすそ分け、ですか?」


 これまでもかなみさんからは色んなものを貰っている。

 なので、今回もそうかと思ったのだが。


「そ。だけど、残念ながら君にじゃないんだ」

「じゃあ……まさか」


 と、俺はエミーナさんの部屋へと視線を向ける。

 セリルさん、という線もなくはないと思うが、実は昨日から教会の方の仕事でアパートには戻ってきていないのだ。

 居るか、いないかわからない相手に鍋をおすそ分け、というのは……。

 

「エミーナちゃんにだ」

「だけどなんで俺に?」


 この前はかなみさんが急な用事のせいで渡せなかった代わり、だったが。今回はそうでもなさそうだ。

 

「この間、エミーナちゃんとは会ったよね?」

「は、はい」


 会ったには会ったけど、完全に避けられていた。

 悲鳴を上げて逃げていったからな……。


「よし。その調子でもう一度ゴー!」

「な、なんで?」

「同じアパートに住む者同士。交流を深めないといけない。特にエミーナちゃんはね」


 どこか本当の親のように心配そうな表情でエミーナさんの部屋を見詰めるかなみさん。

 

「この間会った時に感じたと思うけど。彼女は物凄い人見知り。対人耐性がかなり低いんだよね。あたしには大分慣れてきたようだけど。このままじゃ、色々不便だと思うわけだ」

「……でも、大丈夫ですか? この間、悲鳴を上げて逃げられたんですが」

「はっはっはっは! 大丈夫だって! あたしの時だって、何度もか細い悲鳴を上げてたけど、今じゃきょどってるだけだから」


 それ、大丈夫と言っていいのだろうか……明らかに慣れていないような。

 まあ、悲鳴を上げて逃げていないだけでも慣れている、のか?


「あの子の親から色々聞いたけど。大分凄い人生を送ってきているみたいでねぇ」


 過去に何かあって、あんな感じになったってことか。


「というわけで、君の力でなんとかして!」

「俺の力って……無茶言わないでくださいよ」

「大丈夫大丈夫! 君のコミュニケーション能力ならいけるって!!」


 いつもの調子でバンバン! と背中を豪快に叩いてくる。

 そんなこんなで、俺は再びエミーナさんと接触することになった。

 

「よし。いくか」


 ドアの前で、一度呼吸を整え、インターホンを意を決し押した。

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[一言] うなれ主人公補正
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