第四話 ファンタジー色
「お邪魔しまーす」
「おぉ、あの頃と変わってないな……」
学校からの帰り。
俺は康太と一緒にとあるところへと訪れていた。
それは、俺がまだ引っ越す前に性知識を学んだところ。
「おっす。よく来たな、康太。それに久しぶり、零」
靴を脱いでいると、階段から降りてきて出迎えてくれた人が居た。
無精髭を生やし、ふちのない眼鏡をかけたちりちり毛の男性。
上下灰色のダボついた服で身を包んでおり、人良さそうな笑顔を向けてくる。
「久しぶり、将彦さん。なんか全然変わってないですね」
「人間二十代ともなればほとんど成長しないんだ。後は、年々老けていくだけ……俺も、髪の毛がちりちりになってよぉ」
「いや、それは元々でしょ? 将彦兄ちゃん」
当時、小学生だった俺達に性知識を教え込んだ張本人。
悪い人ではないのだが、エロが好きで、小学生だろうと容赦なくエロについてを語る。
「ははは、そうだった。んじゃ、さっそく俺の部屋に来いよ。飲み物と菓子を用意してあるから」
「さすが将彦兄ちゃん! 用意がいいぜ!」
「両親は?」
見た感じ、靴はないようだが。
「母さんは近所の人の家。父さんは、まだ仕事だと思う。俺は有休をとったから一日中家に居た」
「もしかして、俺のために?」
「そうそう。まあ、気にするな。有休はちゃんと消化しないとな。ほら、良いから上がった上がった」
なんだか申し訳ない気持ちのまま、俺は久しぶりに将彦さんの部屋へと向かう。
「おお……変わらない、とはいかないですね。最後に来た時より増えましたね、色々と」
部屋に入ると、すぐ視界に入ったのは、積み重なった漫画本。
床だけではなく、ベッドにもあり、本棚にはぎっちりと本が詰まっている。
「そりゃあな。ちなみに隣にも部屋があるんだが」
「ああ。確か物置、でしたっけ?」
「おう。そこにも本棚が何個かあるんだ」
「ちなみにどんな?」
「もちろん……漫画とDVDボックスだ。それとフィギュアとか色々」
ですよね。
本当に変わらない。
趣味のために全力。
就職してからも、それは変わらない。両親もそれを理解しているようで、とやかく言うことはない。
そもそも、父親も結構なオタクだからな……。
「何飲む? オレンジにリンゴ。コーラもあるぞ」
部屋の真ん中に置かれたテーブルには、二リットルのペットボトルが三本。
そして、俺達のためにコップも用意されている。
菓子は、ポテトチップスにせんべいか。
「じゃあ俺、コーラで」
「俺はリンゴかな」
「んじゃ俺は、康太と同じっと」
テーブルを囲み、飲み物を各々注いだところで、将彦さんはさっそくとばかりにスマホを手に取る。
「昨日出たばかりのエロ同人誌なんだが」
「へえ、どんなの?」
これが二人にとっての普通なんだろうな。
俺は久しぶりな感じだ。
今でも覚えてる。康太が将彦さんのことを紹介すると言って一緒に来たら、突然。
「零くん。エロに興味はないか?」
などと真剣な顔で問いかけてきた。
当時の俺は全然エロについてまったくと言って知識がなかったので、興味はあったと言えばあった。
だから、無言で頷いた。
すると、やはりなと言わんばかりにエロ知識を小学生相手だというのに容赦なく教え込んできたのだ。
「おお。絵柄はなんか人を選びそうだけど、なんかこう……エロいな」
「だろ? 俺も最初はサンプルを見た時はうーんって感じだったが、実際買って読んでみると変わった! アニメや漫画でもあるが、絵柄で避けて損するあれだ!」
「……うお! 尻尾を巻き付けて絶対逃がさないって感じが凄いな」
いつの間にか将彦さんのスマホを手に、同人誌を読む康太。
尻尾……ファンタジー系か?
「ああ! 所謂異種族エロだが、好きになった人間を自分の尻尾で絶対逃がさないという行為がマジで可愛い! しかも、見た目は美人系なのが相まってギャップが凄い!」
「た、確かに……表情もなんかエロ可愛い感じだな!」
異種族、か。
そういえばなんだかんだで、そういう系には会ってないな。
忍者だったり、聖女だったり、転生者だったり。
明確な異種族と出会った、というか見たのは最近だ。
『あのー、神様というファンタジーな存在と暮らしてるってこと忘れてませんかー?』
『ああ、そういえばお前ファンタジーな存在だったな』
『ちょっと! それひどくない!?』
いやだって、最初はファンタジー感あったけど、最近は……。
『ぐぬぬ……こうなったら私がファンタジー代表だということを再認識させてやるわ!! 覚悟しろ!!
』
『はいはい。楽しみにしてるよ』
『楽しみにしてろー!!!』
うるさ……脳内にガンガン響く……。
「おい、零も見てみろよ!」
「わかった、わかった。ちゃんと読むから」
どうやら将彦さんおすすめの同人誌を気に入ったようで、俺にも見せようとする。
「それじゃあ、借りますよスマホ」
「ああ。じっくりと読んでみてくれ」
「……」
あ、これ。
「ん? どうかしたか、零くん」
「いえ、なんでも」
話の内容からなんか知ってるような感覚があったんだが。
これ……キュアレも買ってたやつだ。
朝食の時に、なかなか面白かったですなぁ、とか言って読んだ感想を話していたのを今でも覚えている。
「って、将彦兄ちゃん! その装備もう作り終わったのか!?」
「昨日から徹夜してな……」
……とりあえず最後まで読むか。